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LIVE REVIEW

くるり "ワンマンライブツアー2012/13 特別公演 ~国民の成長が第一~"

2013.1.17 (thu) @ 日本武道館

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「バンドを続けててよかった」。この日の最終曲「glory days」の前の岸田のこの一言がこの日のライヴ、ひいては今のくるりを100%表現していた。震災後、音楽どころか何も手に付かない日々の中、吉田省念とファンファンという新たな仲間を得て、バンドとして新生したこと、東北の地で自分たちの音楽を必要としている人たちに改めて出会ったことで感じた感謝。デビュー以来、常に音楽的に革新的な試みに挑み、同時にだからこそ新しい時代の音楽の普遍性を紡いできたくるりというバンドはもはや岸田繁の手をいい意味で離れたところでも成立しているのだ。遠くの誰かにとってのくるりというバンドを通じた感情の広がり。不思議なものだが表現者のエゴを越えたところにバンドが存在するからこそ、このバンドはここまで転がってきたのだ。

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この日は昨年リリースのそれこそ2012年きっての傑作「坩堝の電圧(るつぼのぼるつ)」に伴うツアーの特別編として、ファンからのリクエストもメニューとして勘案されたもの。自身5度目の日本武道館公演である。メンバーは先のツアーメンバーに加えて堀江博久(key)、高田蓮(ペダルスティール、バンジョーなど)、権藤知彦(ユーフォニアム)、サスペンダーズの二人(コーラス)を加えた11人の大所帯。新作を含め、これまでのレパートリーもくるりオーケストラの趣きでダイナミックかつ繊細に展開していく。

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オープニングに「everybody feels the same」「ロックンロール」という巨大アンセムを投下した時点でもはや万感の思いが溢れてしまう。ロックンロールは死なない。最初のMCで岸田はメンバー車に乗らず、武道館に向かう際、いつも通りに都営新宿線でここに来た旨を伝え、おなじみ鉄道トークが始まるのだが、「皆さんはどんな電車が好きですか?」とベタな前振りを経て「赤い電車」が、佐藤のよく歌うベースで導くように奏でられる。次は久々に「WORLD'S END SUPERNOVA」! 「ワン・ツー・スリーで〜」のコーラスワークが醸す声の力が醸す最強のポップネスは現在進行形のくるりの醍醐味と言えるだろう。そしてプログレッシヴなまでの変態インストファンクチューン「惑星づくり」で息を飲み、アルバムでもひと繋がりの「pluto」「crab,reactor,future」では省念のチェロがシンフォニックなダイナミズムを牽引する。また、音源ではグランジーなハードチューン「dancing shoes」が高田蓮のスライドギターの不穏な響きを纏い(スライドギターでそんな雰囲気を出すのもこの人の個性だが)、パワフルなファンファンのヴォーカルも相まって、曲の終わりには凄まじいまでの拍手が。

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新作ツアーではファンファンの高らかなファンファーレのようなトランペットが涙腺を決壊させる「soma」も、この日はメンバー全員が相馬、そして東北の地に心の灯火を絶やすまい、そんな思いが渾然一体となった印象。終盤に向けて強烈な印象を残したのが、誕生当時は攻撃的な意味合いも込めて作られた「街」が、今も激情をまったく色あせさせることなく嵐のように吹きすさんでいたこと、そして震災以前のどちらかと言えば今よりさらに出口が見えなかった時期に傷だらけの世界で自身も傷だらけになっていたアルバム「魂のゆくえ」収録の「太陽のブルース」。しかし今はこうして大所帯のバンドで鳴らされることで、前向きにこのバンドワゴンは走り続けることを暗喩する。この曲の歌詞である「今日までの日々は永遠じゃなくて、そう、一瞬だったさ」にくるりへの岸田の感謝の気持ちを受け取ったのは思い違いだろうか。愛に溢れた「Baby I Love You」「ワンダーフォーゲル」で今ここにいる幸せを祝い、本編ラストは「この曲とは16、7年の付き合いになりますが、今は京都から東京にツアーに来てるような感じなんで、おのぼりの気分でこの曲と付き合ってます」と前置きし、そしてさらに「全力で魂の演奏をします」と宣言し、「東京」を演奏。岸田、佐藤にとっても新たな解釈で、そして省念のつけるどこかケルトっぽいフレーズ、ファンファンの朗々としたトランペットも彼らなりの「東京」、そして東京という場所への解釈なのだろう。それを言えば、武道館にいるすべての人にとっても「東京」への解釈は歳月を追うごとに変化しているのかもしれない。それは大げさに言えば、今ここで邂逅した人を繋げる触媒だ。

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アンコールに応えて披露されたのは、前日、配信がスタートした新曲「Remember me」。日本、そしてそれぞれの家族の原風景がチェロやバンジョーが彩るという、ロックバンドならではの表現が秀逸だ。この日はアンコールも含めたトータル27曲でライヴの世界観を構築したと佐藤が語ったのだが、ダブルアンコールのラスト1曲前にプログレと神話の世界が激突し、マジカルな空間に飛ばしてくれた「地下鉄」の出来は凄まじかった。「裏切るな大人になるな俺」という一節も今は前向きな攻撃性に転化されている。それにしても、意外性のある選曲で逆に岸田繁というソングライターの変わらない部分もまた見える。

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震えるような演奏を終え、心温まるエピソードが。過日、この日のチケットを拾得した人がその旨をツイートし、岸田のもとにも情報が届き、リツイートした結果、幸いなことに落とし主の手に戻ったのだという。「人間捨てたもんやない。俺は悪いヤツやけど」と偽悪的な一言を放った岸田だが、それはこの日のラストナンバー「glory days」に繋ぐにはハマり過ぎのエピソードだった。とは言え、諸手を挙げてバンドのこれまでを祝福してるわけではないのだ、この曲は。すべての楽器と声を力強く鳴らされることで変わっていく現実。ここは新たな始まりの場所。そんなエンディングだった。


Text : Yuka Ishizumi


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