2009.6.21 (sun) @ ZEPP TOKYO, Tokyo
この凛として時雨というバンドが現在のポップ・シーンで際立った存在感を放っているのはもはや周知の通り。僕もその音が鳴れば思わず耳を奪われてしまっている。ただ、作品を重ねるごとに彼らを取り巻く環境が変化していくという事実をどう捉えればいいのだろう。例えば作り手自身にリスナーの代弁者としての役割や、ある程度カテゴライズしやすいサウンド、マーケティング能力を強要するのが現在のJ-POPと呼ばれる音楽市場だとすれば、彼らの鳴らしている音は明らかにその範疇に属していない。最初から終着点など求めていないかのように複雑な楽曲構成も、独白的ではありながら捉えどころがない歌詞も、聴き手の安易な理解や共感を許さないどころか、端から拒んでいるようにすら聴こえる。もちろん、いま支持されている音楽に一切コミットすることができず、閉塞感を抱えていた若い世代にとって、彼らの登場が福音であったことは想像できる。ただその支持層がここまで膨れ上がってくると話は別だ。集まったファンは果たして凛として時雨というバンドをどのように受け止めているのか。そしてその前で彼らがどんなステージを見せるのか。今回のツアー最終日に僕が確認したかったのは、特にこの2点だ。
最新作『just A moment』の冒頭を飾る「ハカイヨノユメ」で幕を開けたこの日のステージ。新作からの楽曲を中心に次々とハイ・エナジーな曲が繰り出されていく。やはり驚くべきは鉄壁のアンサンブル。スタジオ音源と比べてもまったく過不足がない。むしろ若干前のめりに演奏される事で彼らの楽曲特有の焦燥感が増している。そしてとにかくどの曲も沸点に達するのが早い。イントロ3秒から5秒でほぼ決まると言っていいだろう。目まぐるしい転調も、過剰なようでいて聴衆を一切弛緩させないまま展開していく。確かにこれはサディスティック。
そんな激しい状態が30分以上続いた後、ムードは一変した。「moment A rhythm」。この日最初のハイライトは、間違いなくこの曲だろう。坦々と刻まれるビートの上でTKは声を抑制させながら朗々と歌う。嗚咽のようなギター・ソロ。演奏が終わった後の長い沈黙。歓声はおろか拍手のひとつも上がらない。この日の主導権はステージ上の3人が握っていることを、この瞬間誰もが思い知ったのだろう。「鮮やかな殺人」がスタートした時の爆発力の凄まじさといったら! もう聴衆はステージ上から放たれる音に身を委ねるのみだ。
会場の熱気が最高潮に達した頃、ようやくMCが入る。ピエール中野のハイテンションっぷりには多少面食らったが、この日会場の空気が緩んだのはこの時間だけだった。最後は「Telecastic fake show」、「nakano kill you」、「感覚UFO」と一気に駆け抜けて終了。アンコールはなし。
総じて、彼らはこのZEPP TOKYOでのツアー・ファイナルを終始自分達のペースでやり切った。今このサイズの会場で、聴衆に一切の思考を放棄させ、飲み込んでしまえるバンドは同世代では彼らだけなのかもしれない。凛として時雨は未だ正体不明の怪物のまま、支持層を拡大し続けている。リスナーが彼らを掴むのが先か、あるいはそれすら飛び越えてゆくのか。どちらにしても彼らには必ずもう1度大きな転換期が来る。そう確信するのに十分な一夜だった。
Text : Yuya Watanabe
Photo : Yuki Kawamoto
Set List
01. ハカイヨノユメ
02. 想像のSecurity
03. COOL J
04. Hysteric Phase Show
05. JPOP Xfile
06. Tremolo+A
07. Sadistic Summer
08. DISCO FLIGHT
09. moment A rhythm
10. seacret cm
11. 赤い誘惑
12. 鮮やかな殺人
13. テレキャスターの真実
14. mib126
15. Telecastic fake show
16. nakano kill you
17. 感覚UFO
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