2011.12.5 (mon) @ Kudanshita NIPPON BUDOKAN, Tokyo
2011年、ロック・バンドはいるがロックンロール・バンドは絶滅危惧種だ。その定義を時には子どもじみた欲望とイノセンスで愛の夢を求め、時には禍々しいほどのエロティシズムや扇情で今あることに疑問を持ちブチ壊す、とするなら、この日、ひとつのロックンロールバンドが命を全うした。それはライヴが進むに連れ、実感を濃くしていったのだが。

ピアフの「愛の讃歌」とともに登場したメンバー。ステージは驚くほどシンプルだ。1曲目の「REBEL SONG」を志磨遼平が歌いだすと同時に客電がつき、張り詰めていたファンの緊張が一気に爆発する。志磨の何度も突き上げられる拳は力強さよりやむにやまれぬ行動か。「人間不信」「愛する or Die」ではカオスの中に切実さが渦まく。パンクでグラムでダークなのに絶望を笑い飛ばすタフネスが痛快。そして志磨の心の赴くままのパフォーマンスの軌跡を描くようにのたうつヴォーカルのシールドが白い軌道を描く「ガンマン、生きて帰れ」。カリスマティックなフロントマンはバレエ・ダンサーのように舞い、天使のように跳ぶ。そしてラスト・アルバムから寓話的なスロー「ラストワルツ」を演奏したが、この段階では終わりに向かう意識よりこのバンドの(というか志磨の、と言うべきか)その時々の純化された音楽表現に対する真摯さが迫ってきた。それはさらに世界を敵にまわしてもバカにされても諦めない自分の真実を歌う「それすらできない」で切実さを決定づけ、熱狂的なファン以外もマリーズの世界に掌握されたように見えた。そして繊細なアコギ2本のアンサンブルと丁寧に包むようなリズム隊の演奏が美しい「ダンデライオン」が、ここにいるすべての人の心に染みこんでいくのがわかる。アルバムでの表現に比べると素朴と言っていいほどシンプルに歌い、奏でられていたことに心の柔らかい部分が反応していたのかもしれない。

その後の「BABYDOLL」、ベースの栗本ヒロコが歌う「すてきなモリー」、「コミック・ジェネレイション」には妙な言い方だが今や洋楽アーティストにも稀有な外タレ感が漂い、間違いなくそれは今にアップデートされたロックンロールなのだが、同時に時空を超えている。新しさの罠に拘泥しない「マリーズの素材感の強さ」を再認識した。そして次に演奏されたメジャー1stシングル「Mary Lou」の逆説的なキュートネスが何度も膝を折り激しく動きながら歌う志磨が増幅されていく。何か言葉をと促され、栗本と富士山富士夫はシンプルに「ありがとう」。西くんこと越川和磨は「武道館って遠いもんやね、志磨ちゃん」と一言。思えばこの一言以外、この日や解散、バンドについて想像させる「言葉」はなかった。


後半はラスト・アルバムの中でも永遠の別れの物語「JUBILEE」が、今ここで流れる涙を宝石に変わるようなマジックを起こし、志磨の「さらば青春! さらば青春!、こんにちわ、輝かしい未来!」の叫びとともに「ジャーニー」へ。ステージに突っ伏しながら「止まると俺、死ぬから」と歌う樣に半泣きで「反則じゃん、それ……」と心の中で突っ込むが、目の前でマリーズが演奏していることは真実なのだ。しかし感傷的な気持ちに陥ることなく、最強にブッ壊れていて輝かしい「ビューティフル」が高らかに鳴る。美しく生きることにしか興味がないんだ、この人は、という憧憬と共感の思いと、やはりマリーズはRCサクセションやブルーハーツに匹敵するバンドだというある種冷静な思いが、どうしようもない残念さとともに広がっていく。メンバーの思いは残念というレヴェルにないと思うが、志磨の動きはさらに激しさを増し、西くんのギターは最後までブルースを鳴らし続けた。ファンの大合唱も胸に迫るなか、本編終了。


当然、これで終われるはずもなく間断なくアンコールが続き、再びメンバーが登場。そこに「懐かしい曲をやります」と披露された初期の名曲「YOUNG LOOSER」。勢いや激しさだけでなく、ここにきて毛皮のマリーズというバンドが完全に武道館という空間を支配した印象だ。それは8年11ヶ月にわたるバンドの軌跡を総括したとともに、彼らの音楽の軸にある凛とした美しさが一貫していたからだろう。ますます多くなるメンバーの名前や「やめないで!」の絶叫。そこに流れる「THE END」のイントロはこの日、本物のシャンソンより悲しかった。が、後半のパンクな展開でステージはカオティックに加速していき、最後は志磨がマイク・スタンドを投げ捨て、西くんのフィードバック・ノイズだけが残った。想像していたが本当に一切の説明も、派手な演出もなく「毛皮のマリーズのライヴ」だけで最期をまっとうした4人。


が、全員がステージを去ったと思われたその時、会場のある一部にざわめきが起こった。後で知ったのだが、志磨が髪を切っていたのだ。「JUBILEE」の歌詞にある「ひとふさの髪を 祈りを込めて送ろう」に重ねずにはいられない。あまりの潔さにむしろその存在の大きさを思い知ったこの日。ちなみにマリーズ最期の日は12月25日。その日何が起きるのかはまだわからない。
Text : Yuka Ishizumi
Photo : Mikio Ariga
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