96年の処女作「grope our way」と、翌年の「WAIT AND WAIT」。そしてバンドの名前を世に知らしめた出世作『A MAN OF THE WORLD』。インディ時代の楽曲を改めてリ・レコーディングしたアルバム『ETERNAL RECURRENCE』を発表したBRAHMAN。音質や音圧、そしてバンドから滲み出る迫力そのものが昔とはまるで異なる作品だが、ここから見えてくる彼らの変化、そして変わらないコアとはなんだろうか。TOSHI-LOWに話を聞いた。

Interview & Text : Eriko Ishii
Photo : Ryo Nakajima (SyncThings)


■BRAHMAN TOSHI-LOW インタヴュー

──今回の再録は、以前所属していたレーベルとの確執から始まった話ですよね。

TOSHI-LOW:
単純にまず、何年もの間(印税等の)支払いがなくて。「過払いしてたから相殺してます」「なんすかそれ?」みたいな。単純に過払いって言われても、その時に支払った税金等もあるので、いろいろ整理しましょうって話をしようと思ったら、いきなり訴えられて告訴されてて。こっちとしては「は?」っていう(笑)。初めは怒ったりもしたけど、そんなのと付き合っててもしょうがないから、じゃあどうするかと。どっちにしろ作品はしばらく(店頭から)なくなってしまうのが確実だから。もともと企画盤みたいなものは好きじゃないけど、そのままグダグダ裁判を待っているくらいなら、一歩踏み出したかったというか。


──ファンとしては懐かしい作品でもあると思うんだ。特に『A MAN OF THE WORLD』は、この作品から入った人が圧倒的に多いと思う。

TOSHI-LOW:
だろうね。あんなに枚数が出るなんて誰も想定してなかったし。バンドとしても、あの作品を出してから考え直さざるを得なかった部分はすごくあって。だってそれまで責任なんか何もないままやってたわけで。それがいきなり、自分が思ってもみないような公の場になってくる。知らない人が自分の曲を知っているとか、もう大幅に自分のキャパシティを超えてて。もうワーッってなってるだけで直視できてないっていうか。


──でも、売れて嬉しいっていう気持ちもなくはなかったでしょ?

TOSHI-LOW:
もう少し多くの人の前でやれたらいいなって思ってたし、実際ライヴハウスが埋まる状況になってとっても嬉しかった。でも、ずっとインディのチャート1位になって売れてるのが、思ったより嬉しくなかったのね。なんかわかんないけど得体の知れない不安があって。嬉しい気持ちよりも不安のほうがどんどん大きくなっていったのはすごく覚えてる。


──あと当時、ライヴと作品に差がありすぎるって言われてましたよね。

TOSHI-LOW:
それは自覚あったよ。レコーディングに対して圧倒的に技術がなさすぎたし、ライヴ中心に考えてたし。理論とか全然なくて、もう気合いでしょう(笑)。


──ただ、技術や精神は差し引いても、曲の骨格は今もまったく変わってない。

TOSHI-LOW:
そうだね。もちろん好みの変化はあるし、20代前半で好きなものと30代半ばで食べれるものは違うでしょ? もうポテトフライなんて頼まないからね、絶対(笑)。ただ、いきなり違う店行くんじゃなくて、いる居酒屋は一緒って感じ。頼むものが変わってるだけで、そこが結局は好きなんだと思う。


──もうポテトフライが食えないのと同じように、今回のレコーディングで「これ今やるのかよ」みたいな感覚はなかったの?

TOSHI-LOW:
と、思ってたの。もっかい食うのかなぁ、今食ったらもたれるでしょうって。でも思ったよりは大丈夫っていうか。意外にシンプルで、自分たちがイメージしたよりヘンテコなもんじゃなかった。だから、もう全然違うなっていうのはない。当初からそこだけは考えてたし、来年恥ずかしくてできないものはやらない、もっと自分たちの中から出てくる曲だけでいいでしょうって、当時からRONZI(Dr)と話してたから。


──そのために必要なものって、何だと思います?

TOSHI-LOW:
……待つことじゃない? 完成までに時間かけてくしかない。場合によっては発酵してから完成することもあるし、作品がゴールじゃないからね。自分たちの場合は作ってから自分たちのモノにするのにすごい時間かかるし、そこまで行って初めて完成に近いかなぐらいだから。


──流行は取り入れたら後で恥ずかしものだけど、人としての感覚って成長とともに変わっていくじゃない。そういう意味での違和感は?

TOSHI-LOW:
恥ずかしいっていうか、例えば、青いな、拙いなって思うことはいっぱいある。でもその許容範囲ってあって、一生懸命やってる、何でもいいやってやってるわけじゃないのは伝わるから……良しとしてやろうって(笑)。それがなかったら初めからダメだと思うしね。適当な語呂合わせだったら今は歌えないだろうけど。だから、その時はこんだけの表現しかできなかったけど、これはこれで、その時のベストだなって思う。今だったらこうは言わないな、みたいなのはあるけど。


──歌詞は特にそうだろうね。

TOSHI-LOW:
だけども、じゃあ今と真逆のこと言ってるかっていえば、意外とそうでもなくて。同じようなこと言ってんだよね。言い方が変わったけど、その後『A FORLORN HOPE』っぽくなるものもあれば、『THE MIDDLE WAY』で書いた虚無感みたいなものを書いてる曲もあるし。あと『ANTINOMY』のもっとコアな部分とか。その原型がすべてあるなって自分で読み返してもすごく思ったし。


──ただ、当時と一番違うのが強さだよね。嘆いたり傷ついたりせず、まずは受け止める今の感覚と、10年前のTOSHI-LOWくんの歌詞には、かなり乖離(かいり)がある。

TOSHI-LOW:
要はバランスだと思う。(強さと弱さが)9対1になったりするだけで、その1がないわけじゃないの。内股で、なよなよして、「もう止めようよ」っていうあの子が今もいるわけよ(笑)。その内股の自分は、確かに今の自分のバランスの中で外目では少なくなってるけど、いなくなったかって言えばそうじゃなくて。そいつがじつはずっとそういう歌を歌い続けているわけで。生まれ変わった、とかできないからね。むしろ全然ツギハギだらけで、そのツギハギのところにその時の感覚がいつもあって。それを払拭して「俺もう変わったから」って言い出すと、ボロが出るんだと思う。


──なるほど。

TOSHI-LOW:
確かに今は強いと思うよ。その内股の自分をわかったうえで、すべてを受け止めようとしてるから。そんな昔の自分を忘れないためにも、当時とは違うってわかったうえで今のBRAHMANをやりたいから。そういうことが自分でもわかって、今回はすごいスッキリした。もちろん不毛な争いから始まった作品だけども、音楽にどういう意味を持たせるかとか、そんな小賢しいことも今は必要なくて、単純にバンドをやりたいっていう意識にすごく戻ってる。曲に対してもそう。もっと単純な、バカバカしいくらいの展開の曲でもいいかなって今思うもん。


──最終的には「バンドが楽しい」っていう結論(笑)。

TOSHI-LOW:
だって俺、何やりたいって、バンドを苦しむためにやりたかったわけじゃなくて。その楽しみ方が「ピースでしょ」っていう人たちとは違うだけで、根本にあるものは「楽しみ」だと思う。表現のおもしろさだったり、ステージに上がってドキドキして“何かになれるんじゃねぇか"って思ってた10代のころとか。もちろん今だったらヒーローになれるなんて思ってないし、「自分自身になる」っていう言葉を使うんだろうけど、そういう、何か強いものをもらえる場所がバンドだっていうのは、今もピュアに思ってるんだなぁって。そういうことがわかっただけでも、なんか、捨てたもんじゃないって思うよね。




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