BRAHMANの全メンバーとパーカッショニストのKAKUEI、そしてスコットランド系アメリカ人のヴァイオリニストであるMARTINによる OVERGROUND ACOUSTIC UNDERGROUNDが、約3年4か月ぶりとなる2ndフル・アルバム『New Acoustic Tale』を完成させた。弦の響きや余韻のあるビート、そして装飾のない生身の歌声による豊潤でぬくもりのある音楽は、さらなる深みと彩りを増して、心の奥底からじんわりとあたためてくれる。そんなとっておきの新作について、TOSHI-LOWが語ってくれた。

Interview & Text : Takayuki Ohtani
Photo : Ryo Nakajima (SyncThings)

■OVERGROUND ACOUSTIC UNDERGROUND インタヴュー

──3年4か月ぶりのフル・アルバム『New Acoustic Tale』、素晴らしく充実した内容になりましたね。アコースティックな繊細さと演奏のダイナミズムがみごとに調和していて、アルバム全体を通して"ナマの音塊"が突き刺さってくるスリリングさを感じました。アルバム制作はどんなプロセスで進んでいったんですか?

TOSHI-LOW :
2007年にミニアルバム『all the way』を出した後、いろいろイヴェントに出たりしてたんですよ。そのたびにリハを重ねて、バンドとしても段々いい状態になってきていた。で、1年ちょっと前から、また本格的に曲作りを始めまして。メンバー間でかなり密接にやりとりをしつつ、徐々に楽曲を貯めていった感じですね。ただ、僕らの場合いつもそうなんだけど、最初にカチッとトータルコンセプトを決めるとかは全然なくて。むしろ試行錯誤というか──ひとつひとつの曲をできるだけベストの形に追い込んでいった結果、落ち着いたのがこの形だったと。


──先にヴィジョンがあったわけではなく、1曲ずつ可能性を試していった結果として、今回のアルバムがあったわけですね。その分、バンドとしての一体感みたいなものが前作以上に増してるようにも感じました。

TOSHI-LOW :
だとうれしいですね。音楽って、ある意味誰にでも開かれてるものじゃないですか。例えばこの部屋にアコギが2本あって、僕とあなたが何気なくそれを鳴らしてるだけでも、それは十分音楽として成立してる。でも、それがバンドの音になるためには、それなりの時間が必要だと思うんですよ。実際、OAUにしても、 1stの段階ではまだ個々のプレーヤーの集合体という感じで。完全なバンドにはなりきれてなかった気がします。あの時点ではまだ、僕とMARTINが出会ってからそんなに時間も経ってなかったし。しかもMARTIN以外のメンバーは、アコースティック楽器の扱い方について誰ひとりまともに知らなかった(笑)。それを少しずつ自分のものにしていくなかで、やっと少しバンドらしい音が出せるようになったかなと。


──もちろん1stアルバムのフレッシュな感じ、"今まさに新しい何かが始まっている"という空気感も、あれはあれですごく良かったですけど(笑)。

TOSHI-LOW :
うん。どんなバンドでも、一番しょっぱなにしか出せない音っていうのはあると思う。でも、2枚目でまた同じことをやっても仕方ないし。かといって、例えば BRAHMANでやってるラウドな音楽のアコースティック・ヴァージョンをやったりするのは、寒いと思うんですよ。それより、OAUでしかできないことを各個人が細かく突き詰めていく。じゃないとやってる意味がないし、今回のアルバムも、たぶんその結果なのかなという気がしてるんですけど。


──OAUでしか出せない音って、例えば?

TOSHI-LOW :
一口にアコースティック編成と言っても、そこにはいろんな良さがあると思うんですよ。それこそ音の塊じゃないけど、アコギをがーっと掻き鳴らすようなグルーヴィーな曲もありだろうし。逆に、もっと音の隙間を感じさせるというか、微妙な空気の震えみたいなものを伝えるのも、ひとつの魅力だろうし……。やればやるほど、奥が深いなと思えてくる。楽器だけじゃなく、実はヴォーカルにも同じことが言えて。コーラスを付けるときも、あるいは自分がメインを取る場合にしても、ほんの髪の毛1本くらいの力の入れ方で曲の表情がガラッと変わったりするでしょう。


──たしかにそういう緊張感というか、意識の細やかさみたいなものは、アルバム聴いててもすごく伝わってきますね。

TOSHI-LOW :
轟音のバンドをやってると、それってなかなか気付かないポイントだったりするんだけどね(笑)。ただ、前は"ハードに歌うかソフトに歌うか"程度の違いしか意識してなかったのが、OAUを始めてからもっと細かい──それこそ針の穴みたいなニュアンスの違いを強く意識するようにはなった。それによって伝わるものが全然変わるんだって痛感した部分は、すごくありますね。あと、アコースティックな音楽の場合は、演奏してる人間の正体がストレートに出ちゃうところもあって。まあ、もちろん突き詰めて考えれば、どんな音楽だってそうだと思うんだけど……。


──なかでも特別、ゴマカシが効きにくいと。

TOSHI-LOW :
そうそう。鳴らす努力をし続けないと、絶対に鳴ってくれないし。じゃあ、楽器の練習だけしてればいいのかというと、そういうわけでもなくて(笑)。単に音楽の技術だけじゃない人としてのあり方みたいなものまで、そのまま映し出しちゃったりするんですよ。人間的な積み重ねがないとどうしようもない世界っていうのかな……。ある意味、ラウドなロック以上に、生身の自分が試されるっていうかね。僕だけじゃなくて、たぶん他のメンバーも同じようなことを感じていると思うけど。


──でも逆に言うと、それを4年間ずっと続けてきたことで、見えてきたものも大きかったのではないですか?

TOSHI-LOW :
そう思います。1stアルバムをレコーディングしてた頃は、自分のできなさ加減に戸惑ったり、落ち込んだりしてばかりで。"やめときゃよかった、こんなバンド"とか、すげえ思ったりもしたけど(笑)。今となっては、自分が一番努力してこなかった部分──例えば、声の細かい伝え方なんかに気付かせてくれたのは良かったなと感じてるし。OAUでやってることが、ぐるっと回ってBRAHMANに還ってきてる部分もかなりある気がします。剛速球で投げっぱなすだけじゃなくて、差し出すべきところでは歌をちゃんと届けることも大事だなと。


──OAUとBRAHMANって、もちろんサウンド的にはまるで違うけれど、創り手の確信に満ちた"強い音"という部分ではかなり繋がってる気もするんですが…。

TOSHI-LOW :
結局、自分のなかにあるものしか表現してないわけだしね。どっちも自分のなかにすごくある要素なんですよ。ひとりのなかにすごくヘヴィでおっかない部分と、穏やかでやさしい部分が両方あるって、考えてみればいたって普通の話じゃないですか。ただ僕の場合、それを表現として出していく際には、これくらい両極端のスタイルの方がやりやすかったというだけの話で。


──振り幅をマックスにとったのがよかったと。ところで今回のアルバムでは、演奏の一体感だけでなく楽曲のバリエーションもより豊富になってますよね。アイリッシュ・トラッドを思わせるグルーヴィーの曲もあれば、フォークロックみたいに疾走感のある曲、ちょっとカントリーっぽい懐かしいニュアンスの曲もあったり。個々のナンバーは、どうやって作っているんですか?

TOSHI-LOW :
まずMARTINがアイデアを持ってきて、それをみんなで膨らませるというのが一番多いパターンかな。ただ、1stの頃はあまりに手探り状態で、途中で行き詰まってばかりだったんですよ。最近はアレコレ言わなくても、誰かがすっと次の展開を出してきたりできるようになってきました。楽曲によっては、俺やギターのKOHKIが、アタマからケツまで書いて持ってきた曲もあったりして。その意味で今回のアルバムは、1stよりある種の"日本感"みたいなものも出てるだろうし。自分のパートについては、良くも悪くも"自分節"が出ちゃってる部分もあると思う(笑)。でもまあ、"自分が出て何が悪い?"と開き直りも出てきたというか……。少なくとも1stに比べると、よりいろんな角度から曲が出来てるという気はしますね。


──特別、誰かがリーダーシップを取っているわけでもない?

TOSHI-LOW :
うん。そこは不思議なんだけど、やっていくなかで全員でバランスを取り合ってる感じですね。例えば、少しダークめな曲がひとつできると、反動ですごくポップなアレンジの楽曲が出てきたり。もっと細かく言うと、ある1曲のなかでそういう平衡感が働くこともあるし。誰かがイニシアティヴを取るわけじゃないのに、何となくいいところに収まる感じ。この4年間は、その"しっくりくるポイント"をみんなで探り合ってた時間だった気がします。


──ちなみに、TOSHI-LOWさんのなかでアルバムのキーになってる曲、とりわけ思い入れの強い楽曲とか、あったりします?

TOSHI-LOW :
それは教えない(笑)。なぜなら、すべて分け隔てなく、思い入れが強いから。こんな言い方すると嘘っぽいけど、でもホントなんですよ。今回は1曲ごと、すげえ苦労したしね。レコーディング直前で何とか形になった曲もあれば、逆にずっと以前から温めてたのに、どうしても思ってる感じがでなかったものもあるし。そもそも曲の持ち駒が少ないこともあって、ブラッシュアップが大変だった。


──なるほど(笑)。例えば1曲目「A Strait Gate」のゆったりした導入部とか、すごく印象的でした。ゆったりしたフィドルの旋律にアコギが重なっていき、後半に行くにつれどんどんテンポアップして盛り上がっていく感じとか…。

TOSHI-LOW :
あれはね、ライヴでリハ代わりに演奏できる曲として書いたんですよ。例えばフェスなんかだと、ぶっつけ本番でいきなりステージに出なきゃいけないことも多かったりするんですけど。そういうとき、各自モニターをチェックできるような楽曲がひとつあればいいなと思って。だからこの曲を聴いたときは、俺がステージ袖に向かって"もう少し音量上げて"とか"下げて"とか言ってる風景をイメージしてもらうと(笑)。


──アルバムの幕開けにもぴったりですね(笑)。そこから2曲目の「New Tale」へとつながる流れも、個人的にはすごく好きでした。TOSHI-LOWさんの歌うフレーズと、MARTINさんのフレーズが、せめぎ合うように疾走していく躍動感が絶妙のバランスで表現されていて……。

TOSHI-LOW :
うん、ありがとう。日本語と英語をミックスしつつ、曲としてチグハグにならないようにするのは、一番難しかったかもしれませんね。ただ、さっき話した" しっくりくるところ"を探っていくと、メロディも歌詞も自然と収まるべきところに収まっていくんですよ。例えば僕とMARTINはいつも別々に歌詞を書いていて、お互い干渉は特別そんなにはしないんだけど。テーマもタイトルも決めず、それぞれが書いたものを"イッセーノ"で持ち寄ると、不思議に似たようなことを歌ってることも多い。この曲もそう。細かい言葉の内容がどうこうじゃなく、ニュアンスとして、言わんとしてることがごく近くなっていくというか。


──それも凄いですね。そうやっていろんな要素がシンクロしていくのも、バンドならではの面白さというかマジックじゃないですか?

TOSHI-LOW :
そうかもしれない。逆に言うと、そういう繋がりが育ってくるからこそ、固定したメンバーで続けていく"バンド"というスタイルが、自分は好きなんだと思うんですよね。いわゆる本格派のトラッドを追求してるつもりもまったくなくて。あくまで、好きな匂いのする音楽を、自分らなりの方法で演奏することが大事だと思う。テクニックだけなら、俺らよりうまいミュージシャンなんて腐るほどたくさんいるから。


──でも、OAUみたいにキレのあるアコースティック・ミュージック──それこそハードコアにも通じるような強度を持ったバンドは、そうはいない気がしますよ。

TOSHI-LOW :
そっすね(笑)。アコースティックとかトラディショナルというと、デパートのBGM的な音をイメージする人もいるかもしれないけど、ああいうソフトなものだけがアコースティックじゃないと思うので。僕ら、普段はあまりこういうことを言うクチじゃない──むしろ"聴きたい人は聴けばいいんじゃん"みたいなタイプなんだけど、このアルバムに関しては、いろんなフィールドの人に聴いてもらえるといいなと思いますね。子供とかジイちゃんバアちゃんから、それこそパンクが好きな人まで、ね。


──来年1月からは全18公演のツアーも始まりますね。最後に抱負を一言!

TOSHI-LOW :
アコースティックのライヴって、楽器を使って震わせた空気が、その場にいる人たちにダイレクトに届くじゃないですか。そういう音楽の一番シンプルな楽しみをうまく伝えられればいいなと。まあ、轟音やアクションでごまかしたりもできないし、実はそれが一番自分自身にとって難しいことだと思うんですけど(笑)。でも、だからこそやりがいはあるかなと。




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