前作『New Sentimentality ep』より3年、フル・アルバムとしては4年ぶりとなる新作『For Long Tomorrow』を完成させたtoe。独自の活動スタンスを貫きながら編まれていった曲の制作過程や構造が浮き彫りになっていく、このインタヴューを通しても、toeというバンドの全貌は明らかにならないのかもしれない。しかし、少なくともtoeが掲げる思想や理想はギターの山嵜廣和の言葉によって伝わってくるはずだ。さらに強靭に、さらにしなやかさを手にした新作の魅力を解明していく。

Interview & Text : Yu Onoda
Photo : Ryo Nakajima (SyncThings)

■toe 山嵜廣和 インタヴュー

──前作『the book about my idle plot on a vague anxiety』から約4年ぶりに完成したニュー・アルバムですが、バンドで生計を立てないtoeのスタイルは不動ですよね。

山嵜廣和 :
僕らがバンドを始めた頃、COKEHEAD HIPSTERSだったり、BEYONDS、ニューキー・パイクスなんかのライヴをよく見に行ってたんですけど、自分たちの中でヒーローだった彼らはバンドで飯食ってた人が一人もいなかった。いわゆる芸能っぽいものとは違うと思ってたし、自分たちがバンドをやりたいって思ったのもアンチ・メインストリームというか、テレビでやってるような音楽じゃないでしょ、ってところから始めているので。バンドをやっててお金が入ってくるのはいいんですけど、それで生活を左右されたくはないんです。だから、生活費は別で稼いで、音楽は売れる売れないっていうことを気にせず、自分たちのやりたいことをやるっていうスタンスですよね。それが心地いいし、理想的だと思ってやっているんです。


──この4年の間に、音楽ビジネスは縮小傾向にありますけど、音楽を商売にしていないtoeを取り巻く状況が好転しているのは個人的に非常に興味深いなと思ってます。

山嵜 :
僕らはお客さんにチケット買ってもらって、ライヴを見てもらってはいるんですけど、音楽ビジネスには基本的に興味がないんですよ。もともとはチケットのノルマがあったり、自分でお金を払ってまでやりたいっていう気持ちがあるので、今はライヴをやればソールド・アウトになることもあったり、奇跡的にうれしい状況ではあるんですけど、過去10年くらいはそんなこともなかったし、自分たちとしてはその時々でやりたい音楽をただやってきただけであって、たまたま今、僕たちのやりたいことと聴いてくれてる人がリンクしているだけというか。だから、次のアルバムでは好きじゃなくなっている人もいるだろうし、それでもお客さんが来なくてもバンドは続けるだろうとは思ってますね。それに今よく言われている状況というのはレコード会社とか音楽ビジネスに関係しているところが縮小しているだけで、バンドやってる人や聴いている人はむしろ増えているんじゃないかな。だって、ここ最近はライヴハウスのスケジュールを押さえようとしても結構先まで取れないですし、iPodで音楽聴いてる人も、CDウォークマンで音楽聴いてる人より全然多いじゃないですか。それに今は何かを発信する人と聴いてる人が分かれてなくて、リスナーでありながら、自分でも何か発信しているヒトが多いと思うんですよ。だから、みんな全国民がそれぞれ何かを発信したり表現したりすればいいんじゃないかって思うんですけどね(笑)。


──では、現在のバンドを取り巻く状況は今回の作品とは無関係である、と。

山嵜 :
そうですね。基本的には意識してないですし、頭の中のイメージを具現化するだけというか、それしか出来ないというか(笑)。インストのバンドだと、ジャム・バンド的な見られ方もするんですけど、僕らの場合は真逆で、ジャム・セッションしていても全然曲にならないので、取っておいた好きなリフやフレーズをコンピューターで組み合わせたり、入れ替えたりしながら、最初にデモを作っちゃうんですよ。だから、今回の曲は、5、6年前からあるリフだったり、足りないなっていうことで最近作ったものもあるし、作った時期はバラバラ。で、曲が出来た段階で、コンピューター上で考えたものを実際にバンドでやってみて、徐々に変化させていく感じですね。


──リズム・トラックを録って、上モノを重ねていった前作のレコーディング・プロセスから判断するにtoeのメロディは柏倉くんのドラムから導き出されたものなのかなと思っていたんですけど、デモの作り方から考えるとそういうことでもなさそうですよね。

山嵜 :
僕が主導で作る曲でいえば、デモを元にレコーディングしているので、ドラムはあらかじめだいたい決まっていて、レコーディングではそのイメージからは大幅に外れないように、柏倉が自分のフレーズを入れていくっていう作り方が多いです。むしろ、最初に俺が考えているのは、打ち込み的な、そういうシンプルなリズムなので、そこであの人が叩くドラムによって、最初の想定とは違うものになって、おもしろいものになるっていう。だから、柏倉のドラムありきでメロディを作ってるわけではないですね。レコーディングに関しては、前作ではそれぞれのパートを別で録っていたんですけど、クラムボンのミトくんにプロデュースしてもらった『new sentimentality e.p.』で「クリックは使っちゃダメ」って言われたんですね。俺らとしてはかっちりスクウェアな感じでレコーディングしたかったんですけど、ミトくんからは「ズレても曲をグイッと持っていくところがtoeのカッコイイところでしょ」って言われて、実際にそうやってみたら、いい手応えがあったんですね。それからメンバーみんなレコーディング経験を積んだこともあって、どこまで抑えて、どこまで出していいのか、そのさじ加減が分かるようになったこともあるかもしれない。全部が全部エモーショナルなテイクって、最初はカッコイイんですけど、それ自体の持ってるパワーで気軽には聴けなくなることが多いし、むしろ、よく聴くものって、淡々としたグルーヴのものだったりするので、今回はその2つの合わせ技って感じのレコーディングでしたね。


──あと、toeに関しては、録った音を加工することも厭わないスタンスですよね。

山嵜 :
僕は特にそうなんですけど、ギターは別に弾きたくないというか、弾きたいし、バンドはやっていたいんですけど、その楽曲に必要がなければ弾かなくてもいいし、プレイヤーとしての欲求がそこまで高くないんですよ。だから、音を加工した方がカッコイイなら加工するし、それは曲単位で変わってくるというか、逆に言えば、ライヴでの再現性も考えていなくて、作品を作り終わった今はどうやってライヴをやるかが課題というか(笑)。


──そう考えると、頭の中にある音のイメージへいかに近づけていくかがtoeにおいては重要である、と。

山嵜 :
そうですね。そこが一番重要ですね。"俺が鳴らしたいのはこの音かな?"って、鉄琴の音を入れてみたり、決まってない部分もあったりするんですけど、鳴らしてみて、自分のイメージに合えば、"ああ、これです!"っていうことにもなるし、バンドはみんなでやっていることでもあるから、頭の中のイメージにプラス・アルファの要素が加わるのがベストなんですけどね。


──それからtoeはプレイヤーの観点から聴かれることも多いと思うんですけど、楽器は弾かなくてもいいという発言から、当事者としては楽器のスキルはそこまでは重要ではない、と。

山嵜 :
うちら全然うまくないので不思議だなって思っているんですけど、長くバンドをやってるのでうまく見せるのがうまいってことなのかもしれない(笑)。そりゃ、うまければ、それはそれでいいとは思うんですけど、自分のやりたいことが最低限出来ればいいし、技術の高さや曲の複雑さを聴かせたくてやっているわけではないんです。練習に関しても、決めないとずっとやらないし、レコーディングも2年くらい前からそろそろやろうって言ってたのに全然始められなくて、結局、ベーシックを録り始めたのが今年の3月ですからね。普段連絡も取り合わないから(笑)、予定を決めないと、みんな、いつの間にか知らないふりをしちゃってる、みたいな。そんな感じでやってるから、レコーディングに関しても、誰かが主導権を握って進めないと、インスト・バンドなのでどうにでもなってしまうんですね。だから、今回の曲も最初にその曲を作り始めた人が中心になって作業を進めたんですけど、そうは言うものの、(ベースの山根)さとしの曲は 1曲もないですね(笑)。美濃くん主導の曲が1曲、柏倉主導の曲が2曲、って感じです。


──そして、前作にもSHAKKAZOMBIEのBIG-Oやクラムボンの原田郁子さんが参加していましたけど、今回は再び参加の原田さんに加えて、土岐麻子さん、DRY RIVER STRINGSの干川弦さんが参加して、ヴォーカル曲の比重が増えていますよね。

山嵜 :
今までやってない感じをやってみたいなっていう気分と、単純に自分の聴いているものがすごく反映されるので、結果的に歌モノが増えてるんですけど、その歌モノにしても、コード進行に沿ったものというよりも、ヒップホップとかR&Bのフックみたいな、ワンループの中でのフロウで聴かせるもの。そういうものが作りたかったんです。


──ということはつまり、この作品におけるヴォーカルというのは、いわゆる歌の旋律から解放された、自由に漂ってるものってことなんですね?

山嵜 :
そうですね。だから、楽器に近いものというか。だから、干川が参加した「Say It Ain't So」なんかが特にそうなんですけど、寂しげなループのギターとコードで追ってないボソボソっとしたヴォーカルっていう構成になっているっていう。でも、みなさんが想像するヴォーカル曲って、長い音楽の歴史で言えば、ここ最近生まれたものであって、クラシックなんかは基本インストじゃないですか。そういう意味でヴォーカル曲にもこうじゃなきゃいけないっていう、そういうこだわりは特にないというか。


──それから歌モノをやるってことは歌詞で言葉を扱うわけですし、今回は曲タイトルにも日本語を使っていますよね。言葉はイメージを限定することもあるし、広げることもあると思うんですけど。

山嵜 :
基本的には自分たちがやってることに深い意味がなくて、タイトルは締め切りギリギリに必要に迫られて、自分の好きな本からの引用だったり、そんな感じで付けているし、歌詞に関しても、タイトルを選んでいることの延長線上にあるもので、その時その時で考えたっていうくらいで、むしろ言葉に関しては、音とのハマり具合の方が重要かもしれない。


──個人的にはサックスをフィーチャーした「Our Next Movement」はFela Kutiみたいなアフロ・ファンクを思わせる方向性がtoeにとって新しい作風であるように感じました。

山嵜 :
そうですね。この曲はPhil Ranelinみたいな70年代のアフロ・ビート、主旋律ではなくリフっぽいホーンとポリリズムの組み合わせをやってみたくて、レコーディングの途中で作り始めて、なんとか形になったものなんですよ。


──この曲を聴くと、toeは新しい音の風景を切り開いていきたいっていうベクトルで音楽を作っているように思うんですけど。

山嵜 :
やっぱり、同じようなことをやってても飽きちゃいますからね。それにtoeっていう名義は何をやってもいい括りだと思っているので、お客さんに対してっていうよりも、その場その場でやりたいことをやりながら変わっていく感じですね。まぁ、でも、そうはいっても、やってる人間は変わらないですから、うちのバンドっぽく収まってしまうところもあるとは思いますけどね(笑)。


──では、最後の質問です。冒頭で述べたように、現在の理想的な状況はtoeを始めた時点で想像していなかったことだと思うんですけど、ここから先、5年後、10年後のイメージは?

山嵜 :
ライヴにお客さんが来てくれて、たまにお金がもらえるくらいCDも売れるっていう今の現状が維持出来るといいなとは思います。僕ら、武道館やりたいとか、そういうことはまったく考えてないんですよ。だから、その時その時でやりたいことをずっとやっていくんだろうなって思いますね。ただ、まぁ、僕らはライヴハウスに入り浸って活動してきて、バンド・サウンドに限って云えば、国内で一番新しくてカッコイイ音楽はライヴハウスにあると思っているんですけど、いままで音楽フェスと称されるイヴェントはそういうシーンを無視して、商業ベースで成功している人たちばかり出てることが多いなと思ってて。その辺に関しては、憤りを感じてましたね。音楽フェスを名乗るからには、そういうライヴハウスに出てるバンドをフックアップして、"これが日本の最先端にある超カッコイイ音楽ですよ"って見せないとダメなんじゃないかって思っていて。その状況は最近になって凄くよくなってきてると思うんですけど。普段のライヴに来てくれるお客さんとフェスに集まってきてくれるお客さんとは結構違うとは思いますが、僕らも人が沢山集まる場所にたまには呼んでもらえるとうれしいですね。イヴェンターのみなさん、僕らを無視しないでっ!(笑)。




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締め切り : 2010年1月5日



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