11月23日に開催される"New Audiogram ver.4 -1123coast-"にて共演を果たすストレイテナーとサカナクション! この開催に先立ち、ホリエアツシと山口一郎という、現在の日本のロック・シーンを代表するふたつのバンドのフロントマンにしてソングライターであるふたりの対談が実現。現在のロックシーンに対する思いや音楽制作にまつわるエピソード、ネット時代の音楽の在り方にいたるまで、リラックスしつつも刺激的な会話が繰り広げられた。


Interview & Text : Kenji Komai
Photo : Ryo Nakajima (SyncThings)


■Special Talk Session
ホリエアツシ(ストレイテナー)×山口一郎(サカナクション)

──今回New Audiogramのイヴェント"New Audiogram ver.4 -1123coast-"での対バンが決定していますが、ここ最近の共演というと?

山口一郎(サカナクション):
先日、"RUSH BALL 2010"でご一緒させていただきました。これまでテナーさんのライヴは何度も観させてもらっているんですけど、その度に技を盗むようなつもりで観ていますね。本当にいつも勉強させてもらっています。"RUSH BALL 2010"のときはテナーさんはもちろんですけれど、すごいアーティストの方々がたくさん出演していらっしゃったので、すべてがっちり観ました。


──それはステージでの立ち振る舞いのようなところも含めて?

山口 :
機材であったり、まあ、すべてですね。


──山口さんは、バンドのフロントマンとしてのホリエさんにどのような印象をお持ちですか?

山口 :
めちゃくちゃクールなイメージですね。僕はもともとライヴでお客さんを煽ったり、繋がろうとすることがあまり得意じゃなかったんですけど、メジャーで活動するようになってからは、積極的に繋がっていかなきゃいけないという気持ちが強くなってきて、そうせざるを得くなってきたという部分もあったんです。だからホリエさんのようにクールに演奏して歌って、それでも十分にお客さんを惹きつけることができるというのはすごく羨ましいというか、ある意味、ズルいなと(笑)。


──山口さんとはまた異なるタイプのフロントマンということですね。

山口 :
もし僕がもうひとつバンドを組むなら、ホリエさんみたいなヴォーカリストをやってみたいですね。


ホリエアツシ(ストレイテナー):
それを受けていうと、たしかに日本のオーディエンスはわかりやすく煽ったら、わかりやすく返してくれっるていう、欲を言えばもっと勝手に盛り上がってくれてもいいんじゃないかって。音だけの力で勝手に盛り上がってくれたら、こっちは幸せなんだけど、やはりこちらからアクションを起こさないとアクションしてもらいにくかったりするところもある。そこは僕も常々葛藤がありますよ。あと僕の場合は「変わったな」と思われるのが恥ずかしいというのがあって(笑)。


──それはどういうことですか?

ホリエ :
ステージでの立ち振る舞いに関してはインディーズ時代からずっとやってきているスタンスがあるんだけど、あるタイミングでガラッとキャラが変わったら、その当時から観てくれている人が2、30人くらいいるとしたら、その2、30人に「変わったじゃん」と思われるのが恥ずかしい(笑)。


山口 :
ライヴでのアレンジだったり、レコーディングでもそうですけれど、わかりやすくする作業ってありますよね。サビにいく前にブリッジを挟んで解りやすくするとか、サビのテンションを上げて「ここがサビだよ」と教えてあげるとか。ライヴでもここから盛り上がるぞという場面でちょっと手を上げてみるとか。テナーのなかでそうした親切心っていうのはどれくらいあるんですか?


ホリエ :
(笑)。なくはないですよ。ちゃんとアレンジするときにメンバーで話し合うし。たまに使うのが、サビの後にドラムがブレイクしてそこでみんなが手を挙げるみたいなのをイメージするところを、俺たち「フーッ!ポイント」っていうんですよ(笑)。「ここフーッ!ポイントじゃねえ?」そう言いたいだけみたいな(笑)。


山口 :
僕らの場合は「ドフューッ!ポイント」ですね。「サビ前のドフューッ!をもうちょっと足そうよ」とか。最近はカオシレーターを使ってやっていることが多いですね。ここでサビにいくんだよというバトンをお客さんに渡す、そういうことでサビ前にポイントを作ることが多いですね。


ホリエ :
そうか、サビ前のほうがいいのかな。


山口 :
僕らはサビ後はほとんどノリでいっちゃいますね。


ホリエ :
でもサービス精神は大事だよね。こうやってメジャーでやってる以上。特にフェスだと知らない人もいるしね。


山口 :
今年はフェスにたくさん出させてもらったので、その親切感の大切さというものをより感じることができて有意義な経験になりました。


──山口さんはサカナクションのフロントマンとしての意識について、途中でターニングポイントのようなものがあったというお話でしたけれど、それは自覚なり責任感が強くなってきたということなのでしょうか?

山口 :
それもあるんですが、僕はいま30歳なんですけれど、17歳からビクターの育成バンドとしてずっと育ててもらっていたんです。でもなかなかデビューできなくて、CDもぜんぜん出せなくて。その頃は音楽業界がバブルで、まだ元気のいい時だったんですが、まさにそんな時代に僕はくすぶっていたんです。その後、次第に音楽業界がだんだんその当時の勢いを失い、失速してきた頃に、ようやくデビューすることができたんです。その契機になったのが"RISING SUN ROCK FESTIVAL"がおこなっていた"RISING STAR"(出演者を一般公募で決めるというステージ)の第1回目に選ばれて出演したときのライヴ。その時はそのライヴに出られた嬉しさもあって、思いっきりお客さんに乗せられたというか、僕も自然と盛り上がって、煽ったり、お客さんと繋がろうとしてたんだと思うんです。そうしたら、それを観たビクターのディレクターの人がデビューさせてくれたんですよ。だからちゃんとお客さんと繋がろうとすると結果も付いてくるんだなと、これまではそれが足りなかったんだなとひとつ理解することができましたね。そこから、じゃあどうやったら自分でギリ恥ずかしくない盛り上げ方ができるのかということを、ずっとライヴをやりながら模索している感じです。


ホリエ :
でもサービス精神は大事だよね。こうやってメジャーでやってる以上。特にフェスだと知らない人もいるしね。


──ホリエさんも試行錯誤を続けながら、そうした転機を探していたんでしょうか?

ホリエ :
僕もまだまだ模索していますね。一時期から、アクションというものが大事だなと思いはじめていて。僕の場合、喋りが下手くそなんで、いつも盛り下げることしかできないですけれど(笑)。ストレイテナーの演奏はすごくテンションが高いから、そこで波に乗って歌や演奏に集中してしまうと、なかなかアクションまで意識するというのは大変なんですけれど、じょじょにできるようになっていると思ってます。でも地方のお客さんはすごいシャイだし、お客さんにいきなりオープンになれというのはなかなか難しいから、固定でもいいからお客さんが盛り上がるようなことを言ったらどうかということで、この間のツアーからはじめて曲中に地名を叫ぶことにしたんです(一同笑)。


山口 :
やはりライヴ・ハウスか地名ですよね。僕は北海道なんで、東京のライヴ・ハウスに関しては、それぞれ略してなんて呼んでるのかわからなかったんです。赤坂 BLITZなら、「ブリッツ!」なのか「赤ブリ!」なのか(笑)、なんて叫んだらいいんだろうと考えたりしましたよ。北海道っていくつもライヴ・ハウスがあって、ジャンルごとに別れていたりするんですけれど、東京でもそういうのあるんですか?。


ホリエ :
ありますよ、下北ならどことか、ギター・ポップ系だったらどことか、一応ライヴ・ハウスごとに毛色らしきものがあって。でもストレイテナーはどこにも居場所がなくて、とりあえず屋根裏でずっとやっていた。屋根裏はなんでもありだったから、キワモノからストイックなバンドまでなんでもあって、ブッキングでライヴをやると、キワモノと対バンしなくちゃならない(笑)。


山口 :
北海道ってほとんどがハコ貸しだから、ブッキングがないんです。だから僕らが北海道にいた時はハコ貸ししか経験してなかったから、ぜんぶ自分たちでハコを借りて対バンを見つけてチケットを売ってって、ゼロからやらなきゃいけなかった。東京のバンドってブッキングがメインだから、そもそもの考え方が違うんだなと思った。


ホリエ :
ブッキングをやってる中で、自分たちと合うバンドや好きなバンドに出会っていくことが多かったな。自分たちが力をつけていくと、かっこいいバンドとやっと知り合える。どこからか惹かれ合うというのでじょじょに広がっていくところはある。


──ホリエさんはサカナクションの作品やパフォーマンスをご覧になってどんな印象がありますか?

ホリエ :
何回か一緒になったことがあるんだけど、この前の"RUSH BALL 2010"のときに初めてちゃんとステージの袖で観させてもらった。あの時のライヴのMCでは俺らが思っていることを代弁してくれたと思った。


山口 :
ありがとうございます。


──その時のMCでは、どんなことを言ったんですか?

山口 :
こういう場であらためて言うのなんか恥ずかしいですね(笑)。簡単に言うと、調子悪いけれど、こんなにお客さんがいたら大丈夫な気がするって。それは音楽シーン全体が不景気だからということじゃなくて、バンドというかロックというものがちょっとメディアから軽視されているような気がしていて。メディアの表面に流れている音楽の中に僕らが好きな音楽ってあまり含まれていないような気がするんですね。それはなぜそうなってしまったのかとか、回復するにはどうしたらいいのかとか、メーカーとかマネージメントが考え抜くということも必要ですけれど、もっとアーティストとして何かできることがあるんじゃないかとずっと考えていたんです。僕らは音楽業界が落ちてきてからデビューしたから、売れた経験がないんです。最近「サカナクション調子いいよね」と言われるけれど、僕らが音楽を聴いていた時代って100万枚、200万枚売れているバンドがいたから、それに比べると「2万枚すごいね」って言われてもピンとこない。今はそういう時代じゃないというのもわかっているけど、ちゃんともう一度何か取り戻すためにアーティストがもっと勉強したり、Twitterとか発信する場所がいろいろある時代だからこそ、どんどん発言していったほうがいいんじゃないかなと。それが"RUSH BALL 2010"のMCに繋がったんです。


ホリエ :
CDが売れないという、表面的にはそういう時代で、これから先CDがまた盛り返す時代がくるかどうかはわからないですけれど、ライヴにあれだけ人が集まるというのが、ともかく作っている身からすると勇気をもらえる。気持ちが伝わる。


山口 :
やれるかもって思いますよね。


ホリエ :
そういうMCがあったので、その後打ち上げで細美(武士)くんと大木(伸夫)くんと一緒に飲んだときも染みてました(笑)。


──ホリエさんはあまりそうしたメッセージを直接MCでは発しないですよね。

ホリエ :
僕は今年のフジロックで実はすごく言いたかったことがあって。それをお客さんが集まったら言おうと思ってたんです。ぜんぜん集まってこなかったら言えないなと思ってすごく不安だったんですけれど、集まってくれたので、フジロックって邦楽も洋楽も関係なく聴いてる人たちがたくさんいると思うので、「これからも日本のロック・ミュージックをよろしくお願いします」と言ったんです。それと、山口くんのMCとはちょっと繋がる部分があった。


──それはストレイテナーが日本のロックを背負って立つというホリエさんのなかでの自覚があったからですよね。

ホリエ :
そうですね。逆に洋楽のロックはもっと売れてないですけれど。


山口 :
ホリエさんはCDにこだわります?


ホリエ :
情報を知るきっかけはインターネット。YouTubeとかMySpaceが多いんだけど、結局CDが欲しくなるから、僕はCDを買う。持っていたいから。


山口 :
僕もそうなんですけれど、配信で買ってよければCDで買い直すパターンが多いです。今の若い人たちは僕たちがレコードからCDに変わったときのように、配信に変わっていってることは認めざるをえないところがあって。だったら配信のかたちをもっと僕らCDユーザーも納得できる配信のかたちはないかなと思っていて。例えばアルバムで聴いてほしいしジャケットもこだわってるから見てほしいからデジタル・ブックレットで見られるようにしたり、iPhoneでもアルバムをアプリで配信するとか、いろいろ考えられる時代のような気がするんです。そういうことを考えるのっていつの時代もアーティストのアイディアであるべきなんじゃないかと思っていて。メーカーがこういう風にやれば売れるからというのではなくて、自分たちの作品を今の時代に合ったケースでどういう風に広めていきたいか、そこを考えていくのも僕らの世代ならではなんじゃないかと思っていて。意外と上の年代の方ってそういう事に無頓着というか、CDやレコードが好きというところで止まっていて、大衆目線でなんとか音楽で食べていきたいんだって、メジャーになってからも試行錯誤している立場からすると余裕があるように見える。そういう人がもっとそういうことに着目して、早くアイディア出してくれたりしてくれたら、僕らはそれに対して追従できるという感覚があるんですけれど、それがもっとやって欲しいなと思う。


ホリエ :
そういう人の方が影響力あるしね。そういう人たちクラスのロック・ミュージシャンがこれから出ていけるのかとも思うよね。


山口 :
CDというかたちではないかもしれないけれど、違ったかたちでは可能性あると思うんです。そこを諦めたくないというか、見つけて行けたらそれこそロックだと思うんですよね。


ホリエ :
いまロック・ミュージシャンってタレントになることを放棄している人が多いから、それも原因のひとつかもしれない。俺らの世代って誰もタレントになりたがらない、テレビに出たがらないから。


山口 :
そのかわりネットがありますよね。Twitterも顔が見えないけれど生活がより見えるから。


ホリエ :
でもテレビの影響力って、ドラマの挿入歌と主題歌って、そりゃ売れるわって。


山口 :
僕らの年代が60歳になったときって、きっとインターネットやってない人いないと思う。だから一気に時代が変わる瞬間がきっとくると思うんです。テレビ見ます?


ホリエ :
俺は見るけれど、インターネットって特に音楽だと能動的に情報を探る、リンクを辿って出会うことはあるにしても、何もしないで聴こえてくることってないじゃない。探求心があって好きじゃないと出会えないと思うから。テレビの魔力ってただ付けているだけで自動的に情報が入ってくるところが、インターネットと違う。もっとインターネットで誰もが受け身でも見られるところに音楽があればいいんだけれど。そのへんどう変わっていくんだろうなって。MTVみたいなものだと、日本だと極端にユーザーが少ないし、音楽が消費でしかないから、それがネットによって変わる瞬間がきたらいいですよね。


山口 :
インターネットで自分の知りたい情報をぐっと探っていって、ある程度自分のテリトリーが解ったうえでテレビを見ると、そのギャップにびっくりする。世の中はこんな風になってたんだ、自分の探ってたのとぜんぜん違ったって。どっちが真実かっていったら、僕らは自分の探っていた世界を信じたいけど、世の中的にはこっちが真実、その感覚っていつも不安になるんですけれどね。そこがもっと一緒になると、新しい時代が見えてくるような気がする。


──リスナーとのコミュニケーションの取り方が変わってきて、具体的なソングライターとしての方法論にもそれに合わせて変わってきましたか?

ホリエ :
リスナーはもちろん意識するし、ライヴを意識するし、今自分が発していきたいものがいちばん大事ではある。リスナーの意見に左右はされないけれど、ライヴで新しい曲を「どうかな」と思ってやると、意外とリアクションがいいとか、日が当たらない曲でも「この曲がいちばん好きです」と言ってもらえると、すごい自信でるし。最近は、曲ができたらすぐにスタジオに入ってアレンジして、デモを録ってということをやりはじめて。それはバンドとしては普通のことなんだけれど、ここ何年かは制作期間をがっつり設けて、頭のなかでのアイディアをそこまで溜めておくということが続いていたから、これからはコンスタントに作っていきたいなというところに戻ってきた。


山口 :
羨ましいですね。


ホリエ :
ライヴをやってツアーをやっていくとどうしてもそういうサイクルになっていくじゃないですか。ツアー中に曲を作ろうぜってなかなかならないでしょ。それを変えたいなと思って。途中でも「このリフどう?」って投げかけ合って、時間があったらスタジオに入って録ろうよというのがやっていけたらと思う。



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