髭のニューアルバム『それではみなさん良い旅を!』がいい。ファンとしてはなんだか投げ出されたような気分になるアルバム・タイトルだが、その謎は聴けば解消されるはずだ。これまでフロントマンとしてすべての作曲を手がけてきた須藤寿が、メンバー全員での作曲を提案。結果、ハード&ドライな王道ロック・チューンから、ドリーミーな髭流ポップ、トライバルな開放感に溢れる楽曲や、ちょっとドローンでクールなものまで、全方位に展開。しかしそのことがむしろバンドの揺るぎない核……どこか謎で愛嬌があり、答えを性急に求めないロックバンドのプライドのようなもの……が曲と演奏のリアルさで表出しているのだ。9月に開催した初の日比谷野外音楽堂でのライヴでもアルバム収録の新曲を披露し、いい意味でから騒ぎ感のない、もっと前向きな愛情に溢れた表現を見せてくれた彼ら。バンドとしての新たな旅の始まりを作品として送り出す今、ここに至る心境、そして今の髭について須藤寿に話を訊いた。


Text & Interview : Yuka Ishizumi
Photo : Ryo Nakajima (SyncThings)


■髭 『それではみなさん良い旅を!』 Interview

──9月の野音でも感じましたけど、バンドのムードはすごく良さそうですね。

須藤:
まぁ、そうですね。基本的には「すごい楽しい」とすら思ってませんよ。何も思ってないっていうような状況ですよ。だから自然ですね。1年前の「バンド、存続できるのかな?」っていう厳しい時期を乗り越えたら、割と何も考えない楽しい時間ですね。無心というか。


──アイゴンさんの加入はやはり大きかったと。

須藤:
僕は大船に乗ったつもりなので。もう完全に任せちゃってるんで。とは言え、僕が結局、自分でモノを言わないと気が済まないタイプなんで、一応、言ってるしね。それでも話がこじれることなく、アイゴンさんが解決してくれるだろうって信じてますね。それぐらい人としてもミュージシャンとしても尊敬してます。


──メンバーの中に敬語使う相手がいるって面白いですね。

須藤:
だってものすごい年上ですよ?


──(笑)。そりゃそうですけど。

須藤:
そこはもう任せてください。完璧にやってみせますよ、僕は。年功序列、得意なんで。ま、僕は特に気を遣ってるんじゃないですかね。やっぱりモノ作りの時はいちばん生意気なこと言ってるわけですから。みんなのほうがもっとフランクかもしれない。


──今回のアルバムはメンバー全員が曲作りに関わったことが大きな変化ですね。

須藤:
去年、自分が音楽を続けていく過程の中で弾き語りのライヴをやることが増えて、一緒に何かやれたらいいなあと思ってたんですよ。たそれは僕から提案させてもらいましたね。『サンシャイン』作ったのが1年前ぐらいなんで、さすがに似たようなテンションでもう1枚分作るには、時間もモチベーションも必要だし。それならみんなの才能をもっと世の中に発表するべきだっていう話はさせてもらいましたけど。もともと、みんながもっと作曲するべきだっていういうのは、バンド結成時からずっと言ってたことなんです。で、アイゴンさんが入ってからは「もうリード曲でもなんでもいいから書いてください」って、みんなの前でも言ってたし。それをみんなも肌で感じ取って、で、アイゴンさんもすごくラクに作曲してきてたんで。「あ、そのくらいホントにラクなんだ」って、堰が切れたんだと思うんですけどね。


──じゃあ、最初に作ってきたのはアイゴンさんですか?

須藤:
そうです、そうです。今回入ったのは「さよならフェンダー」と「トロピカーナ」の2曲ですけど、アイゴンさんがいちばん書いてきていただいて。でも僕が書ける曲しか歌詞書かなかったんで2曲しか採用されなかったんですけど。


──アイゴンさんらしくやって、そのまま髭になるんだなと思いました。

須藤:
それはホントに。いろんなものを俯瞰してやれるんだなって。「トロピカーナ」は「髭にない曲で、あっても良さそうなのにと思って書いてきた」って言ってて、「なるほど、面白いな」と思ってやってみたら、僕たちらしい愛嬌もあるし、でもあのビート感はなかったし、「髭はここだな」っていうピンポイントを見抜く力、それにはおみそれしましたっていう感じなんですけど。


──今回、レコーディングで須藤さんはギター弾いたんですか?

須藤:
僕は一切弾かないです。


──では、アイゴンさんと斎藤さんの相性はどう思いますか?

須藤:
完璧だと思いますね。特にあのふたりは最高にリズム感がいいんですよね。だからああいうギタリストふたりが傍にいると、「あ、僕ってギタリストじゃないんだな」って本当に思わせてくれますね。それに一切ギター持たなかったことで客観的にみんなの演奏を聴くことができたし。


──全員で曲を書いて集めたことで、トータルなイメージを共有するのがむしろ難しい面はなかったですか。

須藤:
なんだかんだ言っても、みんなが曲を書いてくるんですけど、僕が書けるものしか歌詞を書かないんで、最終的には選曲から曲順まで全部僕がやらせてもらってるようなもんなんで。今回は「旅」っていうトリップ感を曲のテーマとして統一することだけ伝えて、自由にやってもらったものを僕がまとめるんでって、話をさせてもらいましたけど。


────そこで筋が通ってるんだと思いますけど、今回の歌詞はわかりやすいものはわかりやすく、比喩に徹するものは比喩に徹しているというか。

須藤:
うんうん、そうですね。


──内省的な心情みたいな表現はほぼなくて。

須藤:
内省的な感情は、もう人に任せようかなと思って。そういうのを表現するのは日本人は上手じゃないですか? ね? もう……、内省的なものをハッピーの中から見つけようと思って。そっちのほうが僕の個性を活かせるなと。表層的な内省感っていうか、わかってほしい感って、僕は照れちゃうんで。傍から見たら掴み取れないものから掴み取れる人だけ掴み取ってパズルを組み立てるみたいなほうが僕の中ではすっきりするんですね。だから言葉選びは、より意味をなくしてると思います。




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