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写真という単語を分解すると「真(まこと)と写す」ということになるだろうか。その現像をまた分解すると「現(うつつ)な像」ということになるだろう。つまり「現な像」には「真が写し」出されているのである。
16分50秒に及ぶ楽曲と、自身がイギリスで撮影した写真で構成されたフォトブックが緩やかな共犯関係を結ぶ『moment A rhythm』(08年)を発表したことで、凛として時雨のTKはさらなる視覚表現を模索するようになる。それが映像へ踏み入れるきっかけだったのだが、TKの無意識の中に存在していたのかもしれない──「現な像」の中の「真」を見たいという欲望はTKに8mmフィルムで撮影することを選択させる。
「真」が何かは分からない。もし分かっていたら、撮影者のエゴが入り込む「虚」にほかならないから。だからTKは行く宛もない撮影旅行へと出る。それがスコットランドとアイルランドへの旅で、「何が写っているか分からない」状態で撮影されたフィルムは、かつて網膜に記憶されていた以上の何かとの出会いをTKにもたらすこととなる。
"TK from 凛として時雨"名義の初作品『film A moment』はそんなTKにとっての「真」の「像」に関する記録であり、日記として与えられた言葉や、映像の編集と同時進行で生み出された音楽と共に鑑賞すると、今度は我々が網膜に映るもの以上の何かを受け取ることとなる。 TKが彷徨い続ける視線に自らの目と耳を重ね合わせた時、フォトブックの100ページ分の時間と、DVDのメニュー画面を含めた約30分という時間は、まるで止まったかのように永遠のものとなる。

Text & Interview : Kaoru Abe
film A moment / TK from 凛として時雨
AIBL-9214 4,600yen (tax in)
2011.4.27 on sale
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  1. introduction
  2. TBD
  3. film A moment
PHOTO BOOK:全100Pハードカヴァー・フォトブック
<TK from 凛として時雨 『film A moment』 Interview>
──『film A moment』の制作のきっかけは、フォトブック仕様の作品「moment A rhythm」(08年)と地続きな流れの中から生まれたのでしょうか?
TK:
一度「moment A rhythm」で写真と音(での表現)というのをやったのもあって、「その先にある、音と視覚的な表現を絡み合わせた作品がどうなるのかな」と思った時、映像というものが浮かんだんですよ。でも"映像"というのは簡単だけど、何で撮ったらいいのか分からないし、どうやって編集したらいいかとも分からなくて……、なかなか手が出せなかったんです。写真はずっとフィルムで撮っていたので、映像もフィルムだったらいいのかなという漠然なイメージはあって、色々探していたところ「8mmフィルムならいいのかも」という話になり、8mmカメラを借りて旅へ出たというのが始まりですね。
──以前イギリスに関するイメージについて、「独特の灰色の感じが好きだったんですよ」というお話を伺ったのですが、スコットランドにも同様に色彩を見ていたのでしょうか?
TK:
(以前)僕が初めて行ったのはオックスフォードだったんですけど、街に活気があるのかないのか分からないというか、天気がずっと曇っているので、どうしても(見るもの)全部がそういう色にフィルターが掛かって見えていたんです。最初は「つまらないなあ」という印象だったんですけど、何度か行くうちにその感じが自分の感覚に合うような気がしてきて、そこからスコットランドにも行くようになり、その流れの中で『just A moment』のツアーが終わった時、急遽スコットランドへ行くことにしました。
──アイルランドへの撮影旅行も同じタイミングで?
TK :
いや、『still a Sigure virgin?』の後です。なので作品としては2作品にまたがっている感じですかね。
──2回の旅とも行き当たりばったりな感じで?
TK:
そうですね。アイルランドに関しては、アイルランドと最初から決めていたわけではなく、飛行機で1席空いていたのがアイルランドだったんですよ(笑)。一応候補の中には入っていて、他にロシアとか行ったことのないところも考えていたんですけど、飛行機の席が取り辛い時期というのもあり、たまたまアイルランドになったというわけです。
──偶然が導く旅に何か求めるものはあったのでしょうか?
TK:
実はスコットランドも前々日にチケットがとれた感じだったんですよ。だから何かを撮りに行ったのでなく、行って探してみる感覚に近かったですね。宿も着いたその日の分しか予約していなくて、あとはその場で宿をとりながら、最終的にはまったく知らない場所へたどり着きました。
──何かを探しながらの旅の途中で、カメラのシャッターを押したくなる、もしくは8mmカメラを回したくなる衝動は、どのような瞬間に訪れたのですか?
TK:
自分がもう一度見たい景色とか、忘れたくないものとか、またそれを見せたい瞬間が、知らない場所へ行くと散りばめられているんですよ。
──その瞬間の訪れは、カメラと8mmで違ったりしたのでしょうか?
TK:
(カメラと)同じ場所で回していたり、何があるわけではないけど歩きながら回していたり、写真と同じ瞬間とムーヴィーでしか撮れない部分という感じで、割と両極端にそれは分かれていましたね。特にスコットランドへ行った時は、8mmフィルムを現像したらどうなるかも分からなかったので、「いいな」と思った瞬間に取り敢えずカメラを回しながら色んなものを探していた感じでした。
──8mmフィルムを現像したものと初めて出会った時の印象は?
TK:
フィルム写真の延長線戦上という感じが強かったですね。以前、デジタルのムーヴィーを試したこともあったんですけど、目に見えているものがそこにあるだけで、自分の求めているものとは違うような気がしたんです。見えているものも欲しいんですけど、見えなかったものも自分は見たいので、その意味で、(8mm)フィルムには「後で見た時にしか分からないものも見せてくれる」魔法のようなものを感じました。
──フィルムには記憶の見えていなかった部分が映し出されている感じなのでしょうか。
TK:
カメラで回している瞬間よりも実際に見ている瞬間の方が短く感じるんですよね。気づかないことも多いですし、そもそも現像したものを最初に見た時、一瞬、何を撮ったかも分からないんですよ。自分がどうしてシャッターを押したかも分からないんですけど、見ているうちにふわっと何かに気づくものがあるんです。見ていた時には見ていた時の景色があって、それを自分のフィルターを通して現像すると、見ていたものとは違うものが見えてくるというか……。
──それは写真に近い感覚?
TK:
近いですね。また8mmは1秒間に18コマあって、それが連続して写し出されているので、より何かを探している感じが伝わってくるんです。ハンディで撮っている手のブレ感なのか何なのか分からないですけど、彷徨っている感じの自分がそこには映っているような気がするんです。
──『still a Sigure virgin?』時のインタヴューで「イギリスという異次元にいるような感覚を言葉に留めておきたかった」というお話を伺ったのですが、今回のフォトブックに添えられている日記や楽曲の歌詞はそれに近い感覚なのでしょうか?
TK:
向こうで今回の作品の歌詞を書いていたというのはないんですけど、日記とは別に書き留めていた文章は多くて、それを入れながら歌詞は書きましたね。いつもは音だけで言葉を聴くので(イメージできる部分の)余地は残されているんですけど、言葉があってそこに景色があると、いつもとは少し感覚が違いましたね。目に見えるものがそこにあると言葉も音も形を変えるので、いつもより難しかったですね(笑)。
 
──TKさんの中では映像が音楽を呼ぶようなところがあったのでしょうか。
TK:
僕が撮る写真や映像って彩度が低いというか、温度感が低くて寂しい感じに見えるんですけど、そこに色をつけたかったんです。音楽に色をつけるための映像という考えもあるんですけど、音だけでも、映像だけでも見えないものを、一緒にすることで見えるようにしたかったので、どちからがブレてもいけない。そこがまたミュージック・ヴィデオとの違いだと思いますね。
──色づけという制作の新しい引き出しを持ってきたという意味で、TKさんの中で時雨の音楽はモノクロームのような感覚だったりするのでしすか。
TK:
モノクロームではないですね。「色を足してみたら音の形が変わるのかな」という感じです。例えば、向こうにいる時でいうと、高速バスに乗りながらイヤホンで音楽を聴いていると見たこともない景色と出会うというか、いつも聴いている音楽と一緒に見るとまったく違って見えるんです。きっと音楽を作った人にはその人が見ていた色があるんでしょうけど、僕はその感覚がとても好きで、それを作品でやってみたかったんでしょうね。音だけ聴いて感じる色と違うものをそこに映し出してたかったんだと思います。
──視覚と聴覚と同時に働かせる時、外の世界ともバスの中の世界のとも切り離された、自分ひとりの世界の入っていく感じなのでしょうか?
TK:
自分だけ時間が止まった感じになるんですよね。前の席に座っている人や、横に座っている人が全部無言になる……、そういう映像を見ている自分のような感じになるんです。音楽がそうさせているのかは分からないんですけど、その感覚が凄く欲しかったというのはありますね。
──バスからの景色や無人の空港ロビーなど、TKさんの移動している感覚を伝える写真には観る側にも移動しているような感覚をおぼえさせます。
TK:
今回文章も入ったりするので、写真だけの面白みだけでなく、向こう側に自分が映り込んでいるような写真が欲しかったんです。バスから撮っている写真とかも、何かを写している写真でなく、何かを見ている自分が写っている写真。そういう写真集もいいなと思っていて(笑)、綺麗なものが写っているだけでは写真集を見るだけになってしまいますけど、見た人が僕の中に入り込めるようなものにしたかったので、自然とそういう写真が多くなりましたね。
──面白かったのは、写真と映像とでは、同じTKさんが撮影しているにもかかわらず、見ている色味が違って映ることです。
TK:
楽器が違うと作る曲も違ってくるのと一緒で、音楽を聴きながらフォトブックを観た時の曲の印象と、映像を観ながら聴いた時の曲の印象って、まったく違うと思うんですよ。答え探しをする必要もないんですけど、「さっきはこう聴こえたのに、今はこう聴こえる」とか、視覚的な部分でも、1曲目を聴きながらと3曲目を聴きながらでは写真の見え方が違ってくるというような楽しみ方をしてもらえたらいいですね。
──音楽のパートは3曲でひとつの物語的な流れを体現しているのですか?
TK:
最初は普通に1曲の予定だったんですけど、気づいたら3曲になっていたんですよ(笑)。構築美とかそういう風に捉えてくれる人もいるかもしれないんですけど、僕は構築をあまりうまくできる人間ではないので、その時その時の欲しい音を入れていくだけなんです。キーだけは一緒で作って、それをそのまま並べた状態があの流れで、並べて聴くと組曲みたいになってはいるんですけど、でも曲の感じはバラバラなんですよね。
──インストゥルメンタル・ナンバーの「introduction」は言葉を必要としないというのがあらかじめ見えていた?
TK:
そうですね。本当はあれを元にした1曲だけという感じだったんですよ。ああいうピアノのインストがあってDVDが終わる……下手したら5、6分ぐらいのプロダクトを予定したんですけど、結局違うものになりましたね。19分ぐらいになるとは、2ヶ月前の自分は思ってもいませんでしたけど(笑)、実は発売を発表してからも2分延びていますから。(DVDの)メニュー画面をひとつのコンテンツにする発想もそもそもなかったですし、今は13分ぐらいの曲と写真のスライドショーのようになっていますけど、それも最後の最後でメニュー画面用に曲を作ったんですよ。だから(音楽パートは)全部で30分ぐらいになるんですよね。
──『still a Sigure virgin?』の制作も最後の最後でマスタリングをし直していますが、自分の頭の中にあるパーフェクトなものを追い求める結果がそうさせるのですか?
TK:
パーフェクトなものには絶対ならないんですよ。そもそも思い描いているものがないので、パーフェクトなものが存在していないんです。「何が欲しくてこのプロダクトを作り始めているのか」というのを作りながら見つけているので、自分が欲しいものを理解するのに時間がかかるんですよ。だから出来上がったものはスリルがあって凸凹しているんですけど、自分が欲しいものをちゃんと見つけられたら、それが自分にとっての完成なんでしょうね。
──ゲストで参加されている湯川潮音(Vocal)、BOBO(Drums)が奏でる音も欲しいものを探す過程の中で出会った音なのですか?
TK:
(今回は)時雨にはないものを作りたかったし、それを自分も見てみたかった分、最初は(制作に)スッとは入り込めなかったんですよ。自分でも曲の形を変えなくてはいけない部分もあって…そういう意味では(自分が欲しいものを)見つけるのを手伝ってもらった感じですね。だから出来上がった時は、凄いものを携えて戻ってきたというか、予想し得ないものになりましたね。
──BOBOさんが参加している曲(「film A moment」)の映像では演奏シーンも織り込まれていますが、それは曲を作っている段階から見えていたのですか?
TK:
あれだけハードな曲が今回入るとは思っていなかったんですけど、曲が出来た段階で「どういう映像かな」というのを考えた時に演奏シーンが欲しくなったんですよ。1曲目(「introduction」)、2曲目(「white silence」)が8mmの映像のみで構成されているので、3曲目だけは演奏シーンを入れて逆に8mmがフラッシュバックの様に出てくる感じにしてみたかったんです。あの曲だけは他のディレクターさんとかにも入ってもらってミュージック・ヴィデオのような作りにしました。そこからDVDでいうとメニュー画面に戻るんですけど、烈しい演奏シーンの後に、(静謐な)写真のスライドショーが始まります。
──そのコントラストの落差を挿み込まれる無音の映像が加速させている感じがあります。
TK:
無音の8mm映像っていいなと思っていて、サイレント・ムーヴィーじゃないですけど、瞬間的に凄く狂気的に思えて。何が次に起こるか分からないというか……、音と密接に関わり合うということでいうと、観ている時ってある程度音に体を委ねていると思うんですよ。それがなくなると一瞬にして空気が変わるというか、夢から醒めたような気分になるんです。今までよりかかっていたものがなくなるので、前後に音楽がある分、そこには独特の空気感が生まれますよね。
──写真を撮りに旅へ出ることからスタートした今回の一連のプロセスは、時雨で1stアルバムを作った時の闇雲さと通じる部分がありましたか?
TK:
映像に関しては、誰もまだ摘んでないところで花を摘んでいったので、それに近い部分はあったと思いますね。
──完成させた今は、時雨の作品と同様に自分の手元から作品が離れていく感覚があったりしますか?
TK:
今回は自分を刻み込んだという感じだったので、ちょっと違いますね、時雨の作品の時とは。嫌という程、自分と向き合って、自分が何を欲しいかを必死に探して、それを作品に投影したので、「自分が見てたものを見てください」という感覚です。
 
TK from 凛として時雨
『film A moment』特設ページ
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凛として時雨 OFFICIAL WEBSITE
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