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LIVE REVIEW

contrarede presents 4AD evening

2011.1.24 (mon) @ Shibuya O-EAST, Tokyo
ACTs : ARIEL PINK’S HAUNTED GRAFFITI / DEERHUNTER / BLONDE REDHEAD

なんたって"4AD evening"である。そう聞いただけで色めき立つ音楽ファンは、決して少なくないはずだ。1979年の設立以来、時代の先を読む鋭い臭覚と、目のつけどころのよさで、信頼に値するレーベルであり続けている4AD。ロンドンを拠点にしながら、アメリカ出身のPIXIESにいち早く着目し育て上げた、というだけでも、私なんぞは足を向けて寝られないわけだが。

さて、その4ADの名を冠した今回のイヴェントは、昨年(2010年)30周年を迎えたレーベルをお祝いする意味合いが強く、新たなディケイドに突入する31周年目の1月に開催された。会場となった渋谷O-EASTには、ARIEL PINK’S HAUNTED GRAFFITI、DEERHUNTER、そしてBLONDE REDHEADという3バンドによる競演を待ちかねるファンがつめかけていた。

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場内にThe Mamas & the Papasの「夢のカリフォルニア」やTHE MONKEESの「I'm a Believer」が流れた後、トップ・バッターとしてステージに登場したのは、USインディ・シーンの中でもカルト的な人気を誇る、ロサンゼルスからのARIEL PINK。その名の通り、と言うべきか、フロントマンのARIELはきらきらシャイニーなジャケットに、レッドにもショッキングピンクにも見えるスリム・ジーンズ。右目の横には、ラメのワンポイントも施されている。他のメンバーも、きらきらシャイニーなアイテムは必須のようだ。と、まずは挨拶代わりにド派手な出で立ちで観客を煽った。

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硬くヘヴィなリズムをバックに、自由奔放と言うよりはむしろ、素っ頓狂と言いたくなるようなヴォーカルとキーボードが暴れまくる様は、様式化にはほど遠いフリーキーな美学にのっとったアート・メタルか、あるいはダンス・メタルか(!? なんてものがあるかどうかは知らないが)の趣。どんなに破壊力のある音を繰り出しても、飄々としたヴォーカルが猛獣使いさながらの手腕でその音を手なづけていくのも痛快だ。けれど、時折、奇声とも嬌声ともつかない声を挙げるアリエルは、自分がいてもいい場所を常に探し求めているような、例えるならば、置き去りにされた子猫を思わせた。

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二階席から一階エリアを見下ろすと、呆気にとられている風な観客も多かった。ARIELが「4ADのフリーク・ショウにようこそ」と言葉を残し、なぜかステージに持ち込んでいたトートバッグを小脇に抱えて帰って行った後には、見てはいけないものを見てしまった時の、好奇心が満たされた喜びと罪悪感が混ざり合った、なんとも奇妙な心持ちが残された。キツネにつままれた、みたいな。

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続いては、DEERHUNTER。ジョージア州アトランタ産の彼らにとっては、これが2度目の来日となる。いやもう、まったくもって素晴らしいステージだった。長身男Bradford Coxの「シーブーヤー!」で幕を開けるや、そこにはディストーション渦巻く音の洪水ができあがっていった。身体に気持ちのいいドラムスと、ギター音の残像にすっぽり包まれていると、一転、すべてが吹き飛ばされた。「Hazel St」で彼らは、ほら、僕らはここにいるよ、と言わんばかりに存在の主張をさりげなくやってのけた。鮮やかな展開。そして「Come on little boy~」と「Don't Cry」の愛らしいメロディが聞こえて来たら、私の涙腺も決壊寸前。


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彼らが描くサウンドスケープは、かくも大きく深遠なものであったか、と改めて痛感。ドラムスがカウントをとり、ギターがリフを刻み、曲がどんどん育ち、聴くものはそのスリルと快感に溺れるわけだが、そんな中で、無垢な輝きを放つメロディを拾い集める体験もまた、宝物を探し当てた時のような喜びをもたらしてくれる。

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09年の初来日からまだ2年も経っていないが、ライヴという場において、彼らが観客と真っ正面から対峙し、観客をリスペクトしながらエンターテインするという術を身につけていたことも大きな変化として記しておきたい。自分たちだけがいいのではなく、そこにいる全ての人に伝えたい、届けたいという欲求の自然な高まりは、彼らのパフォーマンスをよりダイナミックかつドラマチックなものにしていたと思う。

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ラスト。ステージ上が真っ青なライトに染まった。それはあたかも深海のようで、さしずめ彼らはその深海を人知れず悠然と泳ぐ深海魚。この神秘的で魅惑的な光景をいつまででも見ていたいと思った。


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この夜のラストは、BLONDE REDHEAD。日本人女性ヴォーカルのカズ・マキノとイタリア人の双子パーチェ兄弟による3人組で、93年の結成以来ニューヨークを拠点に活動をしている、まさにインターナショナルなバンドだ。過去に何度も来日しているが、その都度タイミングが合わなかった私は、なんと今回が初体験だった。白い衣装で揃えた3人がステージに姿を現すと、それはもう大きな大きな歓声が上がる。日本でこんなに人気があったんだ、とちょっと驚いた。

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1曲目は「Black Guitar」。静かなオープニングに観客も息を殺す。2曲目の「Here Sometimes」では、プリミティヴなリズムにシンセの音が重なり、ムーディな世界観を築き上げていこうとする。が、実験的ではあるけれど優等生の顔がちらつくまっとう過ぎる音には遊びが少なく、少々気詰まり。さらに、カズの歌も、その世界観を完成させるには、まだ何かが足りない気がする。出演バンド3つのうちでは、4ADのベーシックなカラーを最も表出させているバンドであるとは思うが、音の完成度にも歌はついていっていない、私はそんな風に感じてしまった。ゆらゆら横に揺れながら歌う姿も、どこか中途半端で、煮え切らないし……。

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これは、彼女のヴォーカルが好みかそうでないかによって、大きく見解が別れるバンドだなぁ、と思っていたところ、終盤、この日最初で最後のMCでカズが言った。「実は、この2ヶ月、声が出ませんでした。日本に帰って来て、ある人に会ったら声が出るようになって……(以下略)」。ということは、この夜の彼女は、まだ本調子ではなかったということなのか。ならば、次回は、本調子の時に観てみなくては。

Text : Mika Akao
Photo : Tadamasa Iguchi





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