<COMEBACK MY DAUGHTERS 『Mira』 Interview>
──(カムバックの練習スタジオにて)今日は9時から練習ですか?
戸川:
ちょっと押すぐらい大丈夫なので、気にしないでください。
──11曲目「Cherry Blossoms」に「9時にいつもの場所で会いましょう」と歌詞がありますけど、本当にそのまんまなんですね。このリハーサル・スタジオには何か思い入れが?
高本:
彼が働いてるんで、渋々……(笑)。このスタジオ自体そんなに古くないんですよ。
戸川:
まだ1年ぐらいですね。
高本:
あの歌詞はカムバックのリハは9時からです、という誰にも伝わらない内容です。
全員:
ははははは。
高本:
そこにスポットを当てても何も出てこないです(笑)。
──わかりました。で、だいぶ前の話で恐縮なんですが、『OUTTA HERE』(前々作)のファイナルでキネマ倶楽部(*今作『Mira』のレコ発で9月に同会場でやる)でライヴをやりましたよね。会場の雰囲気を含めて、個人的には人生で5本の指に入るくらい素晴らしいパフォーマンスだったんですが。改めて振り返ってもらってもいいですか?
戸川:
僕はバンドに入って初めてのツアーだったから。ああ、やっと一回りしたなと思って。やっていくうちに磨かれてきた部分もあるし、バンドって楽しいなあと思って。
高本:
アルバムができて、レコ発の会場を探すときに、僕らの世界観を含めて見せるにはどうしようかなと考えて。キネマ倶楽部でやったことはなかったけど、自分が想像していた通りというか、ばっちりハマッたんですよね。
──どんなイメージを持ってました?
高本:
キャバレー感というか、映画的な感覚があったんですよね。あそこでしかやってない、単館映画に足を運ぶようなイメージがありましたね。
──CHUN2さんはどうですか?
CHUN2:
ワンマン・ツアーでずっと10カ所回ったのも初めてだったんですよ。地方もメンバー5人だけでワイワイしてましたからね。ライヴも一人ひとりに焦点が当たる感じで、何か芽生えた感じがあるというか。一人ひとりスキルを上げなきゃ、みたいな自覚も強くなりましたね。それを経ての前作の『BACK IN THE SUMMER』だったと思うんですよ。
高本:
自覚が出てきたら、2人抜けましたけどねえ。
全員:
ははははは。
高本:
向いてねえなあ、バンドって。
CHUN2:
……そういうツアーでしたね。
戸川:
違うでしょ!(笑)
──話を戻しますが、それを経ての『BACK IN THE SUMMER』というのは?
CHUN2:
前作はいままでのカムバックの曲の作り方とは変えよう、というテーマがありましたからね。一人ずつ曲を持ち寄って、結局TK(高本)は曲作りがうまいから、2、3曲まとめてくれたものもあるんですけど。
──一人ひとりがよりバンドと向き合うようになり、その流れが『BACK IN~』に繋がったと。そこでまた発見もありました?
戸川:
ありましたね。言っていいのか、悪いのか……みたいなことがいっぱいありますけど。
全員:
ははははは。
戸川:
『BACK IN~』のツアーを終えて、成長してる部分と、成長してない部分がいっぱい見えちゃって。僕はその辺で葛藤はありました。良くなったところと、もっと良くなっていいところがいままで通りだったり……どうしたらうまく前に進むかなと。各時にイニシアチブを握ってもらった音源だったことも大きいと思うんですけどね。
──課題も見えてきたと?
戸川:
そうですね。
高本:
これまで曲の土台は僕が組んでて、それに苦痛も感じなかったんですよ、曲作りが好きだから。ただみんなのカラーが曲に色濃く入ったときに、バンドは成長するものだと思うし、よりそういう風にしていきたくて。じゃあ、まずは写真集に付けたコンセプチュアルな作品で、ツアーを振り返りながら、写真を見ながら、各々が1曲作りましょうかって。スタートは良かったんですけど……カムバックという名前を背負った曲作りなので、バンドにおける自分の立ち位置が明確に見えてくるんですよね。軽い気持ちでやりましたけど……それが小坂の逃亡に繋がったのかなと。
──今日はそればっかりですか。
高本:
今日は脱退について、まだ一言も触れてません(笑)。まあでも、メンバーそれぞれ思うことや、こうしたいという気持ちが出てきたんじゃないですかね。それを経ての今作というのはすごくあります。より自由に作ってるし、このバンドは誰が作曲者とかはどうでも良くて。カムバックという全体に対して、どういう曲にしたらいいのか、これまで以上にアイデアを出しながら作れた音源ですね。
──『BACK IN~』を経たことは、バンドにとって大きかったんですね。
高本:
大きいと思います。一人1曲って掲げてやったから、それがいい影響を及ぼしたんじゃないですかね。各々の立ち位置で考えたことを、作品に盛り込めるようになったから。
──今作は『BACK IN~』の空気感も受け継ぎながら、儚さと哀愁感もグンと増した印象を受けました。メジャー一発目とは思えないくらい、自然体のカムバックらしさが溢れ出た作品ですね。
戸川:
嬉しいですね、それがいちばんいい。
高本:
いいタイミングで松原が手伝ってくれて、レコーディング直前に正式メンバーになりましたけど、制作にはずっと関わってましたからね。彼が加入することに対して、何も不安はなかったです。カムバック変わっちゃうんじゃないかって、それを全然感じさせないタイプの人間ですからね。なんか短時間で、僕たちの半端じゃない10数年間を見せたつもりなんですけど、全く問題なく。それについてはどう?(笑)
松原:
もともとカムバックの音楽が僕の好みと近くて……。で、ええと、その、サポートでしばらくライヴをやって……。
CHUN2:
どうした? おかしいぞ、今日(笑)。一回落ち着こう!
松原:
で……吾郎さん(前任ドラマー)のライヴも観てきたので、その良さも出したいし、自分の良さも出したいと常に考えてました。曲作りも最初はヘルプで参加していたんですけど、だんだん僕の色が強くなっていったかもしれない。
──というのは?
松原:
結構古臭いドラムが好きで、そういう要素がすごく入った気がしますね。なんか、ビッグバンドで叩いてるドラムの人が好きで。それこそBEATLESとかあの時代のドラムも好きだし……野暮ったいというか、ああいうものが好きで。そういうテイストが入ったんじゃないかな。
──それを受けて、変わった部分はあるんですか?
高本:
いや、変わってないですね。僕たちもともとそういう音楽が好きですからね。古い音楽が好きだから、彼がいいんじゃないという話も全くしてないんですよ。たっくん(戸川)がサポートで(松原に)声をかけたんですけど、とてもいいドラム・プレイヤーだし、今のところはすげえいい奴だと思うし、彼は僕らのライヴも観ているから合うんじゃないかって。でも予想以上に根っこの部分で、普遍的ないい音楽をやろう、という意識がお互いに近くて。それならもっと好きなテイストを出してもらおう、よりまかせてもいいんじゃないかと思いました。
CHUN2:
ドラムは個性が出る楽器だと思うし、最初スタジオに入ったときにドンパン!がめっちゃでかいんですよ。まあ、落ち着けと。ビッグバンド、BEATLESもそうだけど、FOO FIGHTERSも好きみたいで。
松原:
ふふふ、デイヴ・グロールも好きなんですよ。
CHUN2:
そのごちゃ混ぜな感じも面白くて。
──なるほど。今作を作る上ではどんなことを考えました?
高本:
ないっす。カムバックというバンドの色を濃くしよう、各々が思うカムバックをもっと突き詰めてみようと。それは作品のことだけじゃなくて、こういう曲をライヴでやれたら面白いよね、という話し合いもしながら方向性を決めたんですよ。すべてがこのメンバーで演奏することが前提にやりましたね。いままではファンな気持ちが強かったから、例えばBEATLESみたいなバランスでどうこう、みたいな話し合いもあったけど。今回はそういう話し合いは少なかったですね。もちろん曲単位で煮詰まったときに、こういう雰囲気でいいんじゃないみたいな話はあったけど……今回はより個々の要素が強く出たんじゃないかな。
戸川:
バンドマンや演奏者として、日々アップデートしてるところはあるけど、核心的にドカンと変わる感じはないので。ただ、メンバー一人ひとりが成長しているという意味では変わったのかなと。
──今回は二度目のNYレコーディングですが、前回と違った点はありました?
高本:
前回よりは普通でいられたというか。気負いなく、リラックスしてやれましたね。ただ、状況的には前回よりはるかに厳しかったです。前回はしっかり曲作りした状態で行ったけど、今回は諸事情でそこまで詰められなかった。でもレコーディング自体は満喫しよう、という気持ちはありましたからね。
CHUN2:
今回はすごく楽しかったですね。松原ともずっと一緒にいて、もっと面白い部分も出てきたし、刺激的でしたね。
──松原さんは初のNYになりますよね?
松原:
そうですね。フル・アルバムをレコーディングすること自体が初めての経験で、NYどうこう以前にいろんなことが新鮮でした。大変だったり、楽しかったり、もう全部が初めてって感じで。あと、ライヴとリハの時間しかメンバーに会ったことがなかったので、今回共同生活ができたことは大きかったですね。みんなリラックスしてたので、レコーディングも不自由なくやれました。
戸川:
今回リラックスできたのは……1回目のときは気合いが入りすぎちゃってたんですよね。2回目は同じ場所だから、次はこうしようってレコーディング中に考えることができたんですよ。今回も合宿スタイルで、レコーディング・スタジオで寝泊まりしていたから、オンとオフがほとんどなくて。だから、作業の工程から緩やかな気持ちで臨もうと思ったし、それが良かったんじゃないですかね。
──そういう空気感も反映されてるんでしょうね。あと、今作から日本語詞に初挑戦してますが、まずは高本さん以外のメンバーはどう受けとめました?
戸川:
僕は大賛成というか、いいことだなと思って。母国語で表現することも面白いし、そこもカムバックらしさに繋がるんじゃないかなと。洋楽の影響を受けていたところから先に進んだ感じはありますね。
松原:
最初にやると話を聞いたときは、不安だったんですけど。聴いたら、何の違和感もなく馴染んでるし。曲を作ってるときもこれが日本語、これが英語みたいな感覚もなくて。日本語は言葉の意味がスッと入っくるけど、音楽的な隔たりは全く感じなかったですね。
CHUN2:
僕もすごくいいなと。いままで英語で聴いてきたけど、日本語にすることによって一発で意味が伝わってくるし、英語との違いもそれほど感じなかった。
高本:
有り難いですね。自分の日本語に慣れて聴けるのは……1年後くらいかなって。それは嫌とかではなくて、日本語の楽しさや難しさが今回わかったので、やりがいはすごく感じてます。自分の思ってることをもっともっと面白く伝えていけたらなと。そういう野望はできましたね。
──今後は日本語曲が増えていきそうですか?
高本:
そうっすね。1年後に聴いて、すげえ嫌だったらやめます。
全員:
ははははは。
──メジャーに舞台を移したこともあり、より多くの人に届けたいという意識の表れとも言えますか?
高本:
ほんとそれですね。こういう機会をもらって移籍することになったし、どうしてもたくさんの人に聴いてほしいですからね。そのためには、カムバックとしての存在感を強めるしかない。メンバーが抜けたときに、なぜまだ続けたいんだろうと思ったときに、特に理由もわからなかったんですよ。でも要はこのバンドでもっとやりたいことや、できることがもっとあるんじゃないかって。そのためには、バンド色を強めることがいちばんいいんじゃないかなと。
戸川:
レコード会社的なことは考えてないもんね(笑)。
高本:
何か言われても無視しますから。
全員:
ははははは。
高本:
まあ、そんな自分勝手なこと言ってますけど、熱意を持ってオファーしてもらったので。これだけ長く続けて来て、それがいちばん嬉しかったですからね。で、9月からレコ発が始まるんですけど、鍵盤が抜けたので、まとめて全国ツアーすることは厳しいんですよ。でも自分たち的にはいい作品を作れたと思っているので、時間をかけてでも、なるべく多く回りたいですね。
──ライヴはサポートで鍵盤奏者を入れる形ですか?
高本:
そうですね。今のところはこのメンバー4人でやるのが楽しいので、そこを伸ばしながら、いつかいい人に巡り合えたらいいなと。
