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これは髭(HiGE)による合法的なトリップだ。40分以上にも及ぶ全1曲のアルバム『Electric』は、ポップな毒気や荒涼とした心情を浮き彫りにする荒々しい手触りは後退し、彼らが持つファンタジックなサイケデリアを緩やかに強調する浮遊感満点のチル・アウト・チューン。永遠に続くかのようなこの心地よいグルーヴ感こそバンドの本質と語るこの大作を持って、より自由な表現へ向かう彼らに聞く。

Interview & Text : Kenji Komai
Photo : Ryo Nakajima (SyncThings)
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Electric / 髭(HiGE)
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2008.7.16 on sale
──前作『Chaos in Apple』のツアーが3月に終了して、その後バンドとしてはすぐに制作へと向かっていたのですか?
須藤:
なにもしてなかったですね。もともとアルバムを作るというよりかは、今回の『Electric』みたいなことをしようとは思ってたので。だから、それもすごく追われてやっていた作業ではなかったんで。好きなときにやってましたね。
──メジャー・デビュー以来、そうした時間というのはあまりなかった?
斉藤:
自由時間に『Electric』に繋がる作業をしていた、そうした期間っていうのは、わりとなかったかもしれないです。確かに年中自由は自由なんだけど(笑)。
──ではそのフリーな時間のなかでいろいろな実験をしてみたと。
須藤:
新曲作りもぜんぜんやっていたんですけれどね。曲を作るっていうこと自体がかなりナチュラルな状態になっているので、アルバムのために作っているっていう感じはしていなかったです。もちろん『Electric』をやりながら、新しい違う曲も作ってたけど、それが次のアルバムのためというよりかは、ただ作っていただけとか。趣味で(笑)。自分たちがアガることに忠実にまずは動き回っていたのが今年の前半だったかもしれないです。

──組曲のようにいくつかの要素が組み合わさった『Electric』のアイディアというのは、もともと温めていたものだったんですか?
須藤:
ちょうど『Chaos in Apple』の作り終わりくらいに思いついていて。1曲をとにかくずっとフルで、はじめディスク限界までやろうと思っていて。ずぅっとただダラダラかけていて、ダラダラ聴いていてなんにも進んでいない!みたいなCDを作りたかったんです。それがはじめじゃないかな。プログレなのかアンビエント・ミュージックなのか解らないけど。そういうちょっと今まで髭(HiGE)がやってきたことと違うことを、リリースしたいというよりかは、ライヴでやったらいいなと思っていたんだ。“Acoustic”の四分打ちアレンジはもうけっこうやっていたから。それをズルズルやるのは面白いかなと思ったんですよね。
──リスナーとしてもそうした環境音楽的なものに興味が向いていたこともあるのですか?
須藤:
まぁそうかもしれないですね。だから、とにかく自分たちの人生に寄り添えるような音楽というか、それは3分間の興奮するロック・ミュージックではなくて、違うことにも興奮ってあると思うから。エクスタシーみたいなものもあると思うし。そういうものを引き出す音楽を髭(HiGE)でやってみたかったのかもしれないですね。
──でもそのアイディアを実現化するのは相当たいへんだと思うのですけれど、とっかかりはどのようなものだったのですか?
須藤:
自分たちにないものをみんなで実験を繰り返しながら作ったのかもしれない。例えばキックの音ひとつとったって、ふたり(佐藤"コテイスイ"康一、川崎"フィリポ"裕利)がバスを踏む音はぜんぜん違うわけだし、そういう音作りにすごく時間をかけて。
斉藤:
やり方が解らなかったから面白かったっていうのはあるかな。今までだったら、生ドラムの音のかっこいい感じというのはエンジニアと相談しながら、やり方はなんとなくあるんだけれど、どうやって作るの?このキックみたいな。そのほうがむしろ面白いというか。そんな感じで転がっていってるから。明確にこの音を狙ってこの音を作りましたっていうのはぜんぜんないし。
──そうしたキックの一音まで突き詰めるという取り組み、打ち込みとかクラブ・ミュージック的なアプローチと言えますよね。
須藤:
そういうことでしょうね。テクノとかハウスの方法論っていうのは今までとってこなかったから。でもリスナーとしてものすごくリスペクトしている分野ではあるし。メジャーのキャリアのなかで4枚のアルバムをリリースして、少し息抜き、ガス抜きというか、だから俺たちが次、またテクノとかハウスとかインダストリアルに走っていくことはないと思います。そういうことを『Electric』で自分たちのものにしたから、自分たちのロックのなかでエッセンスとして入ってくるだろうけど、これからはもう打ち込みでもうドラムセットに座らなくても良くなってくっていうバンドにはならない。また元に戻っていくと思います。
──興味があったリミックス的な手法や打ち込みの音色について、これまであまり表に出して来なかったのが、ここに来て露わになってきたというのは、心境の変化もあるのですか?
須藤:
世の中の流れとかね。やっぱり2006年とか2007年とか世の中の流れ的にエレクトロって世界的に盛り上がって、今はそろそろひとつ収まりをみせているけれど、たぶんそういうものも影響しているしね。心境の変化というよりは、素直に今聴いているものに俺たちも反応したっていうことなんじゃないかなと思うんです。
斉藤:
総じてタイミングだったっていうか、俺たちのなかでも。それを細かく説明すれば世の中の流れも入ってくるし、自分たちのモードもあるしっていう。だから新たに聴いている音楽は変わっていってるけど、もともと持っていた要素ってなんにも変わらなくて、それを今やったら『Electric』になるっていうだけで。
須藤:
今俺たちがいちばん踊れるのがなにかっていうことに対して忠実になったら、このBPM遅めになった(一同笑)。100切ってますからね、97くらいで行ってます。歩いてているみたい。ハットが決まらなくてたいへんだった(笑)。とにかく難しかった。
フィリポ:
ハットがはまんなかったですね。でも普通のBPMだったらもっとありきたりになっちゃっていたと思うんですね。だからあの遅さがいいんじゃないかって。
須藤:
そうだね、いつ聴いても自分の人生に寄り添えるね、ほんとうに。朝起きて聴けるもん。例えばすごくぼーっとテレビの音消して音楽聴いているときも、なんかそのテレビに夢中になれるし。そういうの好きだからさ。あんまりうちらアッパーのテンポで曲書かないんですよね。アッパーな曲もいっぱいあるけど、本質的にはミディアムからミディアム・ローというかちょっと遅めが好きですよね。5人の独特のグルーヴがそこにはまる。
──音がレイヤーのように次第に重なっていって、クライマックスを迎え、最後また穏やかに終わっていく、この構成というのは?
斉藤:
どこがいいかっていうのは結果的に僕らがするけど、流れや展開についてはほぼ偶然だったりする。
須藤:
いつも俺たちはスタジオのなかで5人で集まって作ってる。でも今回はエンジニア・ルームというか、楽器を鳴らさないところで、こういうところで作る音楽っていうことに対してうちらはキャリアがないし、ただプロトゥールズで音の組み合わせで音楽ができていくっていうことだけですごく興奮できたし。仮に世の中的に新しくなくても、俺たちのなかではすごく新しかったから。
フィリポ:
打ち込みの音楽を聴いて、たぶんこんな風に作ってるんじゃないかなっていうことを考えるようになったかも。
──いま皆さんが目指す「生活に根ざした音」は、ざっくりとしたオルタナ感とかヒリヒリした空気じよりも、もっと柔らかいというか……
須藤:
うっとりするような感じ。あんまりなんにも考えていなかったんですけれど、自然にうっとりとしちゃったというか。あんまり音がシャキシャキしてないですもんね。それは計算でもなんでもなくて。その日適当に集まって適当にやりはじめて、そうすると金属音みたいなものがどんどん取れていっちゃって、真綿のなかにいるような雰囲気になった。
斉藤:
今までもそうなんだけれど、とにかく自分が気持ちいいなっていうところしか考えなかった。それがこういう音なんだなって。やっぱりなっていう感じがした。
──さて、この後、このアルバムを再現するライヴも行われますが?
宮川:
いつも同じような感じですけれど、最後に楽しくビールを飲みたいですね。今回の制作で、やっぱり音についていろいろ考えることがありましたね。シンセでベースを作ったりして、生のベースとの違いやお互いのいいところがわかったので、いい経験になったと思います。
コテイスイ:
ライヴやる前は楽屋とかではいつもと変わらないんですけれど、でもバッて出ていくと、アガってくるっていうか、自分が自分でなくなっちゃうから、そうなれている間はいいんだろうなって。ぜったいいつもの自分じゃない感じはいつもしているんだけれど、それが気持ちいいってぜったい思っているから。それがあるってことは最高なことだなって思いますね。
須藤:
完全再現、というよりはひとつストーリーをちゃんと捉えて、あとはそのときのノリでやっていくと思いますけれどね。プレイすることを楽しみたいと思っています。
髭(HiGE) OFFICIAL WEBSITE
http://www.higerock.com/
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http://www.myspace.com/higerock