<LOSTAGE 『ECHOES』 Interview>
──取材、けっこうやってるみたいですけど、音楽誌は何誌ですか。
五味:
えっとね、今のところ「音楽と人」、「indies isuue」、「ギター・マガジン」。あと「Follow Up」も音楽誌っていうなら、その4誌ですか。
──広告はなしで。
五味:
広告なし、ですね。出稿料で何ページとか規定のある雑誌もあったんですけど、僕らお金ないんで。まぁお金……あったら出すか?って言われたらわからないですけど、まぁでも実際ないから仕方なくて。
──以前のツイッターのやり取りで「広告費なしでやってみれば、各誌の本気度は計れる」って書いたんですけど。それを感じることはありますか。
五味:
うーん……でも結局やっぱ、なしでやってもらうことに対する後ろめたさ、みたいなのがあるんですよ。もしお金持ってたら、ちょっと払えるなら払いたいって気持ちにだんだんなってくるし。で、それはちょっと違うような気もするし。他の人からはお金取ってんのに、僕らだけなしでも興味あるから取材やりますっていうの……もちろんありがたいんですけどね。でもちょっと……それでいいんかな?って思うことはあります。
──でも、そもそも火を点けたのはあなただよね。意地でも取材してやるって思う雑誌が多いのは当然だと思う。
五味:
や……あれね、取材っていうものを否定したわけじゃないんですよ。音楽の作り手がいて、ライターさんがいて、取材のやり取りが文字になって。そこで生まれた文章っていうのは、作品を補足したり、新しい切り口を見つけるものじゃないですか。作品の一部とまでは言わないけど、それに近いものやと思うんで。ただ、それをお金払って雑誌に載せてもらうのは違うというか、やる必要ないとやっぱり思う。広告は広告としてお金取るのは別にいいんですよ。その2つを抱き合わせにしてやってる不透明な部分が気持ち悪いなと思うだけで。僕はそういうところではやりたくない、って言っただけなんですよね。
──ただ、音楽雑誌の立場からすると、自分たちがカネの亡者扱いされてるように感じると思うよ。「広告費とかじゃない、音楽への愛でやってんだよ」って今回の作品に対して言いたくなるだろうし。
五味:
あぁ。うん、でも……カネの亡者とまでは言わないですけど、やっぱお金やな、っていうことは事実なんで。それを認めてくれないと、やっぱこっちも話にならんというか。
──(苦笑)。その意見を突き詰めていくと、全部の音楽雑誌、メディアなんかなくなっちまえ、ということになる?
五味:
……や、なくなっちまえ、とは思わない。ツイッターって文章が短いから全否定してるみたいに取られるけど、そうじゃなくて。すでにもう成立してるシステムとかを否定する気もないし、それで生活が成り立ってる人がいるのもわかるし。そのシステムをどう変えていこう、とか言うつもりもないんですね。ただ僕はそこでやらないって言っただけなんで。そのことでガーッと攻撃してこられても、どうしていいのかわからんというか。僕は自分のやり方を探してるだけなんですね。
──ただ、そのわりに五味くんは今もメディアを突っ撥ねないですよね。今回も音楽誌の取材にちゃんと応えてる。それこそCorrupted(コラプテッド:大阪のハードコアバンド)みたいに「取材は一切受けません」ってスタンスでもいいわけですよね。
五味:
あぁ……そうですね。たぶん僕、「その人」を見たいんです。たとえば僕の発言に対して怒るんやったら、そこに熱意とか誠意があるからで。じゃあそれは一体何なのか知りたいって思うんですよ。仕組みを全部僕が変えてやる、とかじゃなくて。ただその人が何を考えてて、そこにどんな熱意があるのか。そのうえでお金がこうやって動いてます、っていうのを見たいっていうのはありますね。個人的な興味としても。
──長年取材してて思うのは、まず疑いの目を向けはするんだけど、根っから人が嫌いなわけじゃない。それが五味くんなのかな、と。
五味:
あぁ……合ってると思います。人と話したりするの好きですし。自分じゃない誰かと交わって出てくるものって、やっぱ想像を超えたものになるじゃないですか。バンドってまさにそれですし。だから好きですね、人は。人に向かっていきたいし。
──ただ、かといって「みんなウェルカムだよ」とは言わない。本気でぶつかれる関係、熱意100%で対峙できる関係性でありたいという気持ちが強い?
五味:
そうですね。もちろん僕も自分でお金のこと考えてるから、100%じゃないかもしれない。90%の熱意と10%のお金かもしれないし。で、それと同じくらいの割合の人やったらいいんです。一緒になんかいいものが作れると思う。でも、お金40%で熱意60%の人やと、何かがズレてくると思いますね。もちろんお金のこと考えるって、悪いことやとは思ってないですけど。
──なるほど。最初から話が思いきりズレてるようだけど、そういう五味くんの性格、今回のアルバムに強く出てると思うんですね。疑いながらも閉じてはいないし、より誠実でよりよい人生を求めている姿があって。
五味:
ありがとうございます。嬉しいです。
──曲の雰囲気も、3人編成になってから出せなかった部分が、また出てきたような。
五味:
なんかね、4人から3人編成になってフル・アルバムと前のミニ・アルバム出してますけど、あの2枚は「3人になった」ことをすごい意識しながら作ったんですよ。もともと4人やった、それをどうやって超えていこうか、みたいなプレッシャーに意識が向かいがちで。しばらくは鳴ってないギターの音が聴こえたりしましたからね。だから自然なバンドの音の鳴らし方とはまた別のほうにエネルギーが向かうんですよ。だったらさらに引き算してみるとか、別の楽器入れてみるとか。アイディアはいろいろ出すんですけど。
──以前の音に対して闘うような感覚もあるし、3人になったことでナメられたくない、みたいな気持ちもあった。
五味:
そうそうそう。でもそれって、この曲がどうやったらいいものになるか、っていう話とは別なんですよね。で、今回は今までの何かじゃなくて、今の自分と闘ってる感じに自然となれたから。3人のLOSTAGEが一番自然って思えるくらいに体が慣れたんでしょうね。
──そこで出てきたのがメロディの良さだった。優しさと寂しさの中間みたいな以前のニュアンスというか。
五味:
うん。まぁもともと歌もの好きで、いい歌を唄いたいなぁって気持ちも出てきたし。なんかね、音楽が好きになる原点というか、いらん情報がなくても音楽として楽しめるものを作ろうとしたんですね。僕らにLOSTAGEという名前がなくて、自主でやってるとかそういうトピックもなくて、ただ流れてても「あぁ、これはいい曲やな」って思える曲というか。やっぱそのためにはカクカクした変拍子とかじゃなくて、いいメロディが欲しかった。前のミニ・アルバムで『NEVERLAND』って曲作ったのも大きいですけど、やっぱ気持ち良かったんですよ。ああいうポップなメロディが。
──メロディアスな曲が増えたアルバムは、『GO』とか『脳にはビート 眠りには愛を』の頃もそうだけど、あの時とは歌う内容もはっきり違う。
五味:
あぁ。あん時はメジャーやったから。なんとなく「ん? メジャーってなんや?」みたいなとこがあったんですよ。もちろん周囲の期待にも応えれんねやったら応えたい、売りたいとも思ってたけど。でもその反面「俺はそういうところから来たわけじゃない」みたいな意地も強くて。それでなんか、おかしなことになってましたね。歌詞もちょっとわかりにくくしたり、音もちょっと聴こえにくくするとか。そういうことわざとやってたんで。でも今は全部自分やから、ほんとストレートになったと思う。
──「NAGISA」のサビは、最初“悪魔に誘われて/悲しい夢を見てる”で、これは昔の五味くんも書いたと思うんですね。でも最後は“僕らはまだ/美しい夢を見てる”という言葉で終わっていて。これはほんとグッと来た。
五味:
ん。まぁ照れももちろんあるんですけど。なんか……もうそろそろ言ってもいいかなって(笑)。32歳の今の感じ(笑)。ハタチそこそこの時は説得力がなかったんですね。愛がどうとか言うのも抵抗あったから。もちろん今も知らないこと多いけど、昔よりは経験も増えたし。ずっとヒネって書いてたけど、ヒネクレてたのが一周して当たり前のことがまた言えるようになった感じ。
──そこで出てきた言葉が“美しい夢を見てる”。これは音楽、そしてバンド活動そのものを指していますよね。
五味:
まぁ、僕が見てる夢そのものですね。今もまだ希望を持ってやってるから。レーベルのことにしてもバンドにしても。
──具体的にコレとは言えないでしょうけど、五味くんが見ている理想の音楽の続け方、バンドの在り方っていうのは、どういうものですか。
五味:
うーーん……もしかしたら僕、今いるところが僕が理想にしてた場所かなって思うんですよ。もちろん具体的に言えばメンバー3人が音楽でメシ食えるっていうの、目標ですよ。ひとつの。でもそれが叶ったら、今度はそれを続けていくことが軸になるじゃないですか。今って漠然とそこに行きたい気持ちがあって、音楽でお金稼ぎたいって気持ちがあって、そこに向かって前進してる感じがあるんですよ。ちょっとずつ、そこに向かっていってる感じを常に持ててるのが理想というか。
──あぁ、なるほど。
五味:
で、そうなることができたとして、じゃあ目的達成ですって言うの……それは僕の思ってる場所とはちょっと違うなって。なんか矛盾してるかもしれんけど。ほんと、この感じ。今の感じが僕の理想なんですね。この感じを持続したい。
──そう言えるのは素敵なことだし、たぶん「音楽で食う」という言葉じゃなくてもいいのかもしれない。もちろんわかりやすい指標ではあるけど。
五味:
あぁ……でもやっぱその言葉を使いたい。僕の場合、メンバーひとり弟(五味拓人/ギター)じゃないですか。具体的な話になるけど、ドラムの岩城は普段スタジオで働いて、ドラムの客演とかもやったりしながら、まぁ普段から音楽に近い生活スタイルなんですね。で、僕は今レーベルとバンドしかやってない。でも弟は普段パチンコ屋で働いてるんですよ。これがただの友達やったらそこまで感情移入してないかもしれないけど、やっぱ弟なんで。僕の影響でバンド始めてるし、バンドやってなければ違う人生やっただろうし。やっぱね、こいつバイト辞めさして、もうギターだけ弾いてたらいい、って言いたい。その思いがめっちゃくちゃあるんですよ。だから僕「目標は?」って訊かれたら「まずバンドで食いたい」って言いたいですね。LOSTAGEをそこに持っていくのが僕が今考えてる一番具体的な目標。
──なるほど。やっぱり五味くんは優しい……というのも変だけど、自分に関わってくる相手に誠実でいたいし、関係ねぇって突っ撥ねられないんでしょうね。これ最初の話に戻りますけど。
五味:
ん……。まぁ全人類に対して、ってことではないと思うけど(笑)。でも、人は好きです。一番面白いし、音楽は人が作ってるから面白いと思うし。だから音楽も好きなんですよ、人がやってるから。
──人間性と音楽はどんどん近づいてますよね。この音は五味くんの性格そのものだなっていうのが、作品を重ねるごとに出てくるようになった。
五味:
あぁ。僕、すごく性格変わったと思うんですよ。開いた……って自分で言うと変ですけど、昔より心がオープンになったなって自分で聴いても思う。アルバムとか出すたびに、なんか開いていってる感じ。精神衛生的にも、どんどんすごくプラスに作用してる気がするし。
──だから今は“さあいこう あしたへ”と歌える。いわばJ-ポップでも使われるような言葉ですけど、でもこれが一番しっくりくる歌詞だった?
五味:
うん。じゃないと曲が成立しなかった。前向きじゃないと矛盾する。僕らが今やってることを考えると。独立してCD作って、売るためにツアー回ってて、それで「死にたい…」とかネガティヴなアプローチしても説得力ないじゃないですか(笑)。責任も当然あるし、あとは可能性を僕らも感じてるから。やっぱ、そういう言葉になりますね。で、それを言ってもいいなって、自分で許せるようになった。昔は世の中わかってないぶん不安も大きかったし、抱えてるもんもすごいあったから。行き場のない感じがずーっとあったんですね。もちろん今も不安ありますけど、じゃあどうやって生きていくか、どうやって音楽と突き合っていくか、どうやって自分の人生をまっとうするか。そういう気持ちのほうが大きいですね。
──ちなみに昔の、2006年頃のインタヴューですけど、「音楽は非日常であるべき、それがロックだと思う」みたいな言葉があるんですね。
五味:
あー、そんなこと言うてました? ……今とまったく逆ですね(苦笑)。今はほんま生活感あるほうがいいと思う。自分でもグッとくるし、それが自分にしかできんことやと思ってるし。日常と地続きのロックバンドでありたいと、今は思いますね。