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「月、欠け」Music Video
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<toe 『The Future Is Now EP』 Interview>
──これまで、作品ごとのインターバルを長く取って、義務で取り組むのではなく、必然性に駆られて作品をリリースしてきたのがtoeというバンドだと思うんですけど、今回の『The Future Is Now EP』の制作はどう始まっていったんですか?
山㟢:
自分にとって、バンドは仕事としてやってるつもりはなく、でも、個人的には一番やりたいことであって、やらなければ自分の人格が成り立たなくなってしまうくらいのものなんですね。そのうえで、去年は東日本大震災が起きたり、個人的にもうちの奥さんが死んじゃったりとか、そういうことがあるなかで、停滞させず、それでもバンドはちゃんと続けたかったというか、むしろ、「もっとやってやろう!」って強く思ったんですね。だから、今回の作品は去年の5、6月にはほぼ録り終わっていたんですけど、その後、バンドの機材が盗難にあって、しばらく何も出来なくなってしまった時期も挟みつつ、作品がリリースされたのはその1年後っていう(笑)
──そして、まず、3曲目の「Ordinary Days」は、東日本大震災被災者支援として去年の3月に配信で発表した曲の別ヴァージョンなんですよね。
山㟢:
そう。地震が起きて、当日はバタバタしてたけど、翌日になって津波の被害がニュースとして伝わってきて。原発にしても危ないとは言ってたものの、まだ爆発してない状況だったけど、日本の歴史において、本当に大変なことが起きたなって思った時、何かしら出来ることをやりたいって考えて、ある程度のまとまったお金を集めたかったんですよね。そして、うちのバンドはアジアほか海外でも聴いてくれてる人が多いので、大変な地震が起きたことを海外の人にも気にして欲しかった。だから、iTunesから世界に向けて配信するのがいいんじゃないかなって。それでライヴのためのリハーサルで集まることになっていた日に急遽レコーディングすることにして、前日に美濃くんの家でデモを作ったんですけど、以前から録り貯めてあったストックからメイン・リフを引っ張ってきて、いつものように構築的に作っていくんじゃなく、最終的にはバンドのインプロヴィゼーションに任せて作り上げていったんですよ。
──それ以外の3曲も録音が比較的短時間だったことを考えると、「Ordinary Days」のように、構築的な曲作りのtoeにしては珍しく、リフ主体でその場の展開に任せて作ったものということなんですか?
山㟢:
そうですね。1曲目の「Run For Word」もCM用に頼まれた曲をもとにした曲だし、このEPのために作ったのはACOちゃんをフィーチャーした「月、欠け」と最後の「The Future Is Now」の2曲だけ。それから柏倉が作ってきた「The Future Is Now」は、普段の彼は「そのまま録り直せばいいじゃん」っていうくらいの状態の曲を持ってくることが多いんですけど、この曲に関しては、断片的なフレーズを持ってきて、それを録りながら曲に仕上げていったんですね。そして、「月、欠け」はいつものパターンで俺がデモを作って、仮歌まで入れておいたんです。
──「月、欠け」は歌詞も山嵜さんが書かれたんですよね。
山㟢:
ホントは自分のなかに書きたい歌詞のテーマがあったんですけど、3分の1しか出来ていない状態のものをACOちゃんにふくらませてもらおうと思ったら、「テーマがあるなら自分で書いた方がいい」って言われちゃって(笑)。だから、レコーディング前夜になんとか書き上げたものを歌ってもらったんですけど、自分にとって歌詞は曲作りと使う頭が違って難しいんですよ。だから、まずはキーワードとなる言葉を書くんですけど、めちゃくちゃな英語で歌っている仮歌のニュアンスはそのまま活かしたかったので、その仮歌の語感にあった言葉を選んで作っていったっていう。
──つまり、紙に言葉を書くのとは違って、音としての言葉が非常に大切だと。それからこの曲は、メランコリックなアコースティック・ギターやコーラス・ワーク、ドラムのパターンにR&Bからの影響が感じられますよね。
山㟢:
ACOちゃんの歌を含め、そうですね。J・ディラとまではいわないまでも、R&Bにはアコギのリフがメインのループになっている曲が結構あると思うんですけど、イメージとしてはそういう曲が頭にありましたね。R&Bはそれ以前もちょこちょこは聴いていたんですけど、ここ5、6年で自分の好きなものがなんとなく分かってきて。それはエリカ・バドゥの『New Amerykah Part One:4th World War』が出たときだったり、あと、コモンとかザ・ルーツだったりするんですけど、共通項ってことでいうと、その辺のアーティストを一手に手がけている(プロデューサー・チームの)ソウル・クエリアンズだったり、ネオ・ソウルの流れが自分にはしっくりくるというか。今のヒップホップもチェックはしているんですけど、結局、自分の好みはその辺なんですよね。
──そうしたヒップホップ、R&Bのどういった部分に惹かれるんですか?
山㟢:
メランコリックな部分ですかね。逆に自分はハッピーだったり、アゲアゲな音楽は全然ダメだったりするので(笑)。あと、エリカ・バドゥなんかは普通のヒップホップ、R&Bと比べるとシンプルではないというか、トラックがすごく凝っているから、よく聴くと、すごい変なことをやっていて、自分のなかではプレフューズ73なんかと通じるところがあるんですよ。
──例えば、コモンもアルバム『エレクトリック・サーカス』ではステレオラブと共演していたり、ザ・ルーツもライヴではクラシックロックのフレーズを引用したり、ヒップホップのなかでもオルタナティヴなマナーが感じられるものですからね。
山㟢:
とはいえ、toeはバンドなので、そういう要素を自分たちなりに消化するんですけど、それによって、自分たちの意図に反して別モノの曲になっていくところはバンドの醍醐味だと思うんですよね(笑)。例えば、パンク・バンドのクラッシュにしても、レゲエをやっていても、最終的にはクラッシュになっていると思うんですけど、自分はそういう音楽が大好きなんですよ。
──ヒップホップということでいえば、この作品には収録されていないものの、S.L.A.C.K.を要するヒップホップ・グループSick Team、そして、そのトラック・メイカーであるBudaMunkがリミックスを手がけた「月、欠け」の12インチ・シングルが限定でリリースされるんですよね。
山㟢:
はい。それは……ただ単純に僕がSick TeamやBudaくんのファンっていうだけなんですけど(笑)。自分のオフィスが彼らの所属するJAZZYSPORTと同居していることもあって頼みやすかったということもありつつ、色んな人に聴いてもらえるんじゃないかなということで、そのアナログに関してはJAZZYSPORTのフォーマットに則ってやりたかったんですよね。
──なるほど。
山㟢:
しかし、Budaくんのトラックはスゴかったですね。スネア・ドラムの位置がズレていたり、ループ・ミュージックでなければ出せないグルーヴがあるというか、それを真似してバンドでしても、ただ下手な演奏に聞こえてしまうというか、真似することは不可能なんですよね。あと、自分たちの曲をもとにSick Teamがやってくれてるのも単純にうれしいというか、オリジナルの歌詞もあらかじめ渡してあったので、それをリリックで汲み取ってくれたり、そのリリックに「Sick Team、Budamonk、toe」って入ってるのも最高だし(笑)。S.L.A.C.K.のゆらっとした後乗り気味のラップとISSUGIのタイトなラップの対比もまた格好いいんですよね。
──今回のEPとリミックスのアナログを通じて、そういうtoeの新たな指向性が切り開かれてるように感じたんですけど、今回の『The Future Is Now EP』は歌のないインストゥルメンタルを基本とするtoeがそのタイトルにメッセージ性を込めているように感じられました。
山㟢:
「The Future Is Now」って、直訳すると「未来は今」じゃないですか。で、コーエン兄弟に同じ邦題の映画があるんですけど、自分はその作品が好きだったりして。でも、「未来は今」って、変な日本語って気がするんですよね。だから、いつか、そのタイトルを英語にした「The Future Is Now」をタイトルに使いたいなと思っていたんです。あとは、自分たちが子供の時に観た映画『BACK TO THE FURTURE PART 2』の時代設定が2015年だから、もうすぐそこですよね。そういう意味でまさに「未来は今」であるはずなのに、そんなに変わってないというか、こんなになっちゃいましたよっていう思いもあったりして。
──そして、「未来」と「今」に加えて、「過去」という意味では、長らく廃盤だった2003年の1stEP『songs, ideas we forgot』と2005年のファースト・アルバム『the book about my idle plot on a vague anxiety』がEPのリリースに併せて再発されましたけど、これは狙ってリリースしようと思ったんですか?
山㟢:
いや、それがたまたまなんですよ。ホントは新譜が1ヶ月早く出るはずだったのがズレて一緒になっちゃっただけ(笑)。でも、今回の再発で改めて思ったのは、「僕の考えたGhost & Vodka(シカゴのポストロック・バンド)」をやろうとして、結果的に別モノになってる最初のEPから始まって、やっていくうちに自分たちなりの音楽になってきちゃうんだなって。でも、「過去」と「今」と「未来」か。上手いこと言いますね。そういうことにさせてもらってもいいですか?(笑)
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