<DEXPISTOLS 『LESSON.07 "Via"』 Interview>
──DEXPISTOLS単独名義の初アルバム『LESSON.07 "Via"』が遂に完成しました。元々は1年前に発表の予定だったんですよね。
DJ MAAR:
延びてしまったのは、時間の問題やDJが忙しかったりもあったんですが、DEXPISTOLSの曲を作ってアルバムをコンパイルするテンションになれなかったのが正直なところで。アルバムならコンセプチュアルなものを作らなきゃと思ったんですが、自分たちのコンセプトを考えたときに、いろんな曲書けるし、いろんなものから影響受けてきたし、いろんなとこで遊んできたし、自分たちの“これだ”ってものが見えてなかったんです。それで、みなさんにご迷惑をおかけして延期をしてしまったんです。そのあと311があって、いろんな価値観も変わったりもありましたね。そうした中、活動してくうちに、自分たちのやってることって支離滅裂のようでいて筋が一本通ってる、それがオレらのコンセプトだってようやく思えるようになったんです。制作途中だった曲、新しい曲、前にリミックスした曲を入れたアルバムっていうのも、オレららしくてありかなって、ようやく完成したんです。
DJ DARUMA:
内容は、ここ数年のベスト的なものになりましたね。いろいろあったけど、ここで出すタイミングだったのかなって。なんか、反省会みたくなっちゃったけど(笑)。
──いろいろあったけど結果、納得できるとこにたどり着けたわけですね。では、音の方向性としては、どんなものを目指したんですか。
DJ MAAR:
やっぱり、DJとミュージシャンの中間的なものを作りたくて。単にフロアのみで機能するもの、家のリスニング向けたものだけというのは作りたくなかったし。そういう意味では、自分たちのやりたいことを表現できたかなって。支離滅裂なトーキョー感やパーティ感、今のもの昔のものから受けた影響をオマージュ的に表現できたと思います。その中に自分たちなりのアンチテーゼや意見が入ってます。ただカッコいいねってものより、ちょっと異質なものを人に投げてみたいっていうのは常にあるんです。もちろんトレンドにはのってるんだろうけど、僕らはパッと聴いて“いいか悪いか分からない”と思わせるものを作りたいんです。
──すごく引っ掛かるものって、どこかいびつさがありますよね。
DJ MAAR:
そうですね。単純に盛り上がれるものより、自分はもっと“ヤバい!”って感覚、ゾワッとつかまれる感覚のものが好きだし表現したいので。
──では楽曲に触れながら話を進めましょう。シングルにもなったZeebraさんをフィーチャーした「Fire」は、アルバムの流れで聴くとさらに勢い感が増しますね。元々リスペクトしてたZeebraさんと共演したこと改めて振り返ってどうですか。
DJ DARUMA:
僕らさんぴん世代だし、やっぱりすごかったし信じられないですよね。成長してカルチャーの中に入っていくに連れて、自分が見てた人たちと音を作ったり表現したりできるのはうれしいです。ほんとすごく上手くコラボできた曲だと思います。
──「Saturdays vs Bird Of Paradise」はVERBALさんをフィーチャーした、切れ味のいいマッシュアップチューンですね。
DJ MAAR:
実はこれ、オリジナル「Bird Of Paradise」とマレーシアのラップサップってDJユニットのリミックスと、MYSSのリミックスとVERBALくんのラップっていう4つの要素でできてるんです。元々は2年前のFUJI ROCK用に作ったもので、アルバムの中では一番古い曲になるんです。でもこれは今もDJでかけてます。このバージョンに飽きたらオリジナルかけたりってサイクルがあるんですよ。2つ作っといてよかったなって思います(笑)。
DJ DARUMA:
ウチらのクラシックになりましたね。あとTVですごい使われてて、ワールドカップの時期はよく聴きました。DEXの曲って結構ジングルで聴くんですよ。
──意外とテレビユースだったと。ロックバンドFACTの「Hate Induces Hate」のリミックスもかなり攻め攻めな音ですね。
DJ MAAR:
これはFACTのリミックス盤にしか入ってなかったんで、知らない人も多くて今回収録したんです。結構今のフロアにもマッチしてますね。
──Bob Sinclarの「Lala Song feat. Sugarhill Gang」のリミックスは、サイレンが効いててオールドスクールでマイアミっぽいなと。
DJ MAAR:
オレ的にはマイアミと、あとシカゴハウスのマッシュアップなんですよ。
──なるほど(笑)。元曲にはSugarhill Gangがいたり、いろんなものがギュッと詰まってますね。
DJ DARUMA:
まさに、支離滅裂で筋を通すDEXっぽさがすごく出てると思います。なんかDJに近いというか。
DJ MAAR:
それはこのアルバム自体にもあるよね。ただのピークタイムチューンだけじゃないし、ただずっと120のBPMじゃないし。アルバムの中で一晩のDJの流れが表現できたと思います。
──Suzi Kimの「Try Me」を、G.RINAさんフィーチャリングでカヴァーしてますが。
DJ DARUMA:
この曲は、2人ともすごい好きだったんですリリースされた当時に。DEX結成当初も“あ、「Try Me」知ってるんだ”って意気投合したんですよね。17くらいのクラブキッズだった頃、このレコ-ドが全然買えなくてっていうのを全然違うとこで同じように経験してたっていうのがうれしくて。カヴァーやるならって、すぐこの曲が出てきたんです。あとトーキョー、日本のものじゃないですか。そこもいいなって。
DJ MAAR:
まあ、この曲は青春の1ページですよ(笑)。
──2人の共通言語的な曲だったと。アレンジは、高速なビート感と、G.RINAさんのいいクセのあるボーカルがばっちりハマッてます。
DJ MAAR:
結構いろんなバージョンを試してて、このアレンジに落ちついたんです。結構大変でした。どうするのが一番カッコよくなるか、普通のハウスにしてもしょうがないしって、いろんな要素入れて面白いものになったなって。G.RINAさんさんも気に入ってくれて、それが何よりかなって。なにげに、一番時間を割いた曲です。他の曲とのバランスを考えてマスタリングも最後にやり直したり。スーパーロウを残しつつ、歌を聴こえるってようにしたんで。
──音のこだわりも、このアルバムでは前以上に考えたんじゃないですか?
DJ MAAR:
メチャメチャ考えました。オレ、そこまでDTMをテクニカルにするのは好きじゃないけど、1個1個の音は気になる方で。というより音色のチョイスですね。例えば「Try Me」のタンバリンの叩き方でも5種類くらい試したりしました。今回作ってるときに思ったのは、結局“もの作るというのは自分の中から違和感を消す作業だ”って気づいて。
──おお、確かにそれはありますね。
DJ MAAR:
自分の中で好じゃないってものを抜いて、バランスよく作り上げる。でもそれって一番難しいことなんですよね。音色のチョイスもそうだし、曲の流れも考えて、音も選んだりってこともしました。
──そこって、実はアーティストの色が一番出るとこだったりする重要なポイントだと思います。さて「Midnight Sevenstars」はGOTH-TRADさんのリミックスでダブステップになってます。
DJ MAAR:
これは今どこのフロアでかけてもフィットするし、ダブステップ、ダブってものをやってきた第一人者のゴスくんのスキルでちゃんと先を見たものを作ってくれたなって。感謝ですね。
──そして、アルバム中でもっとも意外性があったのが、Dragon Ashの「Grateful Days」です。ACOさん、YOUR SONG IS GOODのSaito“JxJx”Junくん、Junji Chibaさんをフィーチャーして、明るくてフレッシュなカヴァーに仕上げてます。
DJ MAAR:
Chibaくんは、いろんなバックバンドやアレンジをやってる人で、ストリングスのアレンジがすごく上手い人なんです。なので、せっかくだからストリングスをガツとやってもらいましたね。このアレンジは、オリジナルで歌ってるACOちゃん、ジブさん、ケンジくんって2人のラッパーの、オレなりのオマージュなんです。オルガンのフリースタイルとストリングスのフリースタイルがあって、サビにACOちゃんの歌があるっていう。311のあとにレコーディングしたけど、このタイトルがきちっと伝わるものにしたかったんです。あと、オレなりのNYディープハウス、ガラージに対するオマージュもあるし。昔のディープハウスってすごくポジティブな、恥ずかしいくらいのタイトルがついてたじゃないですか。多分ゴスペルが入ってるんでしょうね。祈り=PRAYが入ってる。なのでオレ的にはソウルフルにしたいなって。JJくんのオルガンもソウルフルになって、面白いとこにいったなって。なんて、あたかも狙ってたとこにハマったように話してるけど、実は10テイクくらい作ってて(笑)。
──そうだったんですか(笑)。でも、すごく生音が映えたアレンジになってます。
DJ MAAR:
自分でもシンセ一本で終わるっていうのに飽きてたのもあるし、きちっと人の演奏のスキルを前に出したものを作りたいと思ってたんです。今ってラップのスキルがすごく注目される時代だけど、逆に楽器のプレイヤーのすごさにオレ的には目がいくんですよね。音が心地よかったりするし。去年ジェームス・ブレイクやドレイクとかが流行ったのは、きっとみんながああいうものを欲してるからだと思う。特に今の日本ではそういうものが求められてると思うので、それがしっかり作れたなって。
──ですね。そもそもこの曲をカヴァーしたきっかけは?
DJ MAAR:
最初に、ACOちゃんと何かやろうって話があって、どうせならこの曲のカヴァーじゃないかって。でも名曲中の名曲だし、触っちゃいけないハコって印象もあるじゃないですか。やるなら中途半端なものにしたくなかったし、自分なりの解釈でやりたいなって。とにかく、歌詞の内容とタイトルだけを考えて作っていったんです。
──なるほど。さて、JON-E & Campanellaフィーチャリングの「ヌンチャクJazz」ですが、すごいカオティックなパワーを放つサウンドに仕上がってますね。
DJ DARUMA:
元の「New Jack House feat. JON-E」をillicit Tsuboiくんにリミックスしてもらって「ヌンチャクJazz」になったんです。Campanellaくんってラッパーが入ってて、相当トチ狂ってるけどカッコいいなって。
DJ MAAR:
フリージャズですね、もはや(笑)。ハンパじゃないですね、ツボイくんは。オファーしにいったとき“一番ヤバいとこ出してください”ってお願いして、“生音とかジャズっぽいのヤバいよね”って話になったんです。で、生っぽいブレイクスが来るかと思ったら、まさかここまで狂ってるとは(笑)。でも実はスゲー今っぽい音の帯域が出てるんですよ。ダブステップとかのベースサウンドの美味しいとこの帯域が出てる。なんどもいうけどツボイくんハンパじゃないなって(笑)。
──間違いないです(笑)。さて今回のアルバムのリード曲になってる「Mid Night City」はRYO the SKYWALKERさんをフィーチャーしたダンスホール寄りなナンバーです。
DJ DARUMA:
ムーンバートン的な、108のBPMで表現したいってとこからMAARがトラック作って、RYOくんがやってくれたらいいねって話になったんです。で、聞いたらやってくれることになって、すごくいいものに仕上げてくれましたね。
DJ MAAR:
よく分からない感じになってるし、トーキョーぽいって思うし。でもリリックを聴いてると、初期のクラッシュみたいなパンク感が出てるし、オレらとRYO君からの風営法へのメッセージでもあるし、元気がなくなった街に対してのメッセージでもありますね。
──正直、風営法の問題って難しいなと。単純に遊び場奪わないでくれと思ったりもしますけど。
DJ MAAR:
まあ、システム変えたいとか考えたこともあるけど、それには枠の外に出てしかるべき立場にならないとダメだなって。それは政治家になるとかNPO作るとか。でもオレはプレイヤーでいたいし。それなら決められたルールの中でやるしかない。その中でいろんなテクを磨けばいいし。そんなんじゃ甘いっていう人もいるかもしれないけど、とにかくオレらまだまだがんばりますよって気持ちですね。
──こういう状況でもやれることはやるということですね。そしてラストはSebastien Tellier「Divine」のリミックスが、ムチャクチャ朝っぽい爽快さに満ちてます。
DJ MAAR:
これってダフト・パンクのギ=マニュエルのプロデュースの曲で、データ送られてきたときに“ヤバいぞ! オレ、ダフト・パンクの音いじってる”って思った記憶があります(笑)。トラックが少ないけどカッコよくて、朝な感じに仕上げていったんです。
──アルバムがこの曲で終わると、希望感みたいなものが感じられますね。
DJ DARUMA:
そうですね。DJでもこの曲で最後に終わることが多いんです。
──アルバムは、1曲ごとのカラーも強いし、全体通しての強さ も感じられるものになったなって。完成して、今、どんな思いがありますか。
DJ MAAR:
まずは、できてよかったなって(笑)。もちろん、スキルとかまだなとこもあるけど、それも今のオレらなんです。もっともっとオモロいことができる余白もあるし、やりたいアイディアもさらに出てきましたね。正直、これができる直前は、これだけのいいメンバーに参加してもらってアルバム作れて、もう日本でやること無いかなと思った瞬間もあったんですよ。でも今は、まだまだ日本でやらなきゃいけないことあるなって思いがあります。もちろん海外に向けてもこれからもっとやっていこうとは思ってますよ。とりあえず、ひとつの通過点として作品がコンパイルできたのでよかったですね。
DJ DARUMA:
タイトルの『Via』っていうのは“経て”って意味なんです。いろんな経由をしてここに来た、今、現在の僕らはこれですよって意味でタイトルにつけたんです。2011年の震災を、日本人としてもDJとしてもDEXPISTOLSとしてもたどり着いた今の僕たちの音なんで。あと『ごっつええ感じ』の“経て”ってコントがあって、それ2人とも大好きだっていうのもあるんですけどね(笑)。
──いろんな“経て”が含まれてると(笑)。でも、ここからDEXPISTOLSの世界観が、また広がっていきそうな作品でもあるなと思いましたが。
DJ MAAR:
それもあるし、どんどん面白いことをやりたいですね。もちろん放射能の問題も風営法の問題もあるけど、東京をもっと面白くしていかなきゃいけないなっていう、使命感みたいなものはありますね。パーティが好きだし、その中から、これからもオレらが表現したいものってどんどん出てくると思ってます。