2012.2.18 (sat) & 19 (sun) @ Yebisu Garden Hall, Tokyo
ACTs :
Day1 : THE HORRORS / OWEN PALLETT / WU LYF / ZULU WINTER / YOUTH LAGOON
Day2 : SPIRITUALIZED / ATLAS SOUND / TORO Y MOI / ANNA CALVI / PERFUME GENIUS
タイトルからもお解りのとおり、All Tomorrow's Partiesをはじめとした海外イヴェントのムードとスピリットを受け継いだフェスティヴァル、ベッドルーム・ポップ、シューゲイズ、チルウェイヴなど様々なカテゴライズを受けるアクトが登場するなか、世界的な〈インディ復活〉をつくづく実感させられる2日間だった。
Day1 : 2012.2.18 (sat)
YOUTH LAGOON
昨年日本デビュー作リリース以来スポットを浴びるYOUTH LAGOONが初日最初に登場。「とても静かだね」と笑いながら、アルバムのオープナー「Afternoon」の高揚感など、驚くほど伸びやかな声やフロアに鳴らされるバスドラのイーヴン・キックには、『ザ・イヤー・オブ・ハイパーネイション』で感じられた内省を受け継ぎながらも、彼が単なる宅録少年ではなく、クラブ・カルチャーも吸収しているのだという発見があった。
ZULU WINTER
続くロンドンのZULU WINTERは英国の逆襲を実感させる、まさに2012年的なバンド。数年前だったらアウトだったかもしれない、と思わせるくらい大仰なまでのドラマティックなアンサンブルとメロディ、そしてブラック・ミュージックとは対極のダンスの要素を盛り込んだリズムの感覚。ジョイ・ディヴィジョンとカット・コピーのミッシング・リンクを埋めるような、といったら大げさかもしれないけれど、とにかく癖になるサウンドだった。
WU LYF
昨年のフジロックにも出演したWU LYFは荘厳なオルガンの響きからスタート。「ハッピー・バレンタイン!」と叫ぶエラリー・ロバーツのジェームス・ブラウンばりの野太いボーカル、ラスティック的とも言えるプリミティヴなビート感、そこに'10年代のゴスを加えたサウンドに時代感覚を狂わされる。他のバンドにはない骨っぽさはやはりライヴ・パフォーマンスでこそ映える。
OWEN PALLETT
そして鬼才ヴァイオリニスト、OWEN PALLETTもまた、飄々としながらとんでもないことをやってのける。みずから奏でる楽器を次々とループさせながら、ルイ・フィリップあるいはイェンス・レークマンの系譜に位置する、トレードマークともいえるカンペキな箱庭サウンドをステージでも現出。MCもほとんどすることなく、テレビゲームとシンフォニックなポップソングを掛けあわせた世界観には、リアル・ジーニアスの一言。
THE HORRORS
1日目のヘッドライナーを務めるのはTHE HORRORS。日本でも確実な知名度と人気を確立する彼ら、ボーティスヘッドのジェフ・バーロウをプロデューサーに起用したり、来日公演でオプトラムを前座に起用したりといった慧眼もさることながら、ライヴを観るたびに、その変貌ぶりに驚く。初期のギスギスしたゴシック感から、最新作の『Skying』では、堂々たるサイケデリック・サウンドを獲得。でその要となるジョシュア・サードのケヴィン・シールズばりのアトモスフェリックなギターワークに酔いしれる。終盤にはボーカルのファリス・バダワンがフロアに降りてきてクラウドの上で歌いあげる姿には神々しいものさえ感じさせた。
Day2 : 2012.2.19 (sun)
PERFUME GENIUS
変わって2日目の先頭はPERFUME GENIUS。最新アルバム『Put Your Back N 2 It』を引っさげての初来日ライヴ、その歌の説得力とソングライティングの美しさに息を呑む。2人のサポートメンバーとアイコンタクトを取りながら、底なしの悲しみとそこに灯る希望を綴る。途中リズムトラックのトラブルがあったものの、この曲は歌いたいとビートなしでこなした姿には、シャイなたたずまいからはうかがい知れないほどの度量があった。
ANNA CALVI
一方ANNA CALVIはアーティスト写真でいえば最も妖艶でありながら、最も気風の良いロック感を醸しだしていた。エディット・ピアフのカバー「Jezebel」など、ストラップ位置高めにギターを持つ佇まいから鳴らされるオールドタイムかつオルタネイティヴなギターサウンドは、デヴィッド・リンチの挿入歌に起用されてもおかしくない。川勝正幸さんは彼女の音楽を聴いていただろうか、ふとそんなことを思ってしまった。
TORO Y MOI
TORO Y MOIは2日間のなかでもっともダンス・オリエンテッドなアーティストだと思っていたけれど、想像以上のアーバンでフュージョンで80'Sブラコンな演奏に嬉しい驚き。さらにそこに初期ハウスのビート感にネオアコ、シューゲイズのキラキラ感をミックスする手さばきは、たとえは安直だけど、アメリカ版CUBISMO GRAFICO FIVEといった趣き。最新シングルにも収められたジャム&ルイスプロデュースのダンス・クラシック「Saturday Love」カバーまでプレイしてくれた!
ATLAS SOUND
トリ前を務めるのはATLAS SOUND。ステージでひとりアコースティック・ギターに多様なエフェクトとループを施し、たちまち音の壁を生み出していく。「MODERN AQUATIC NIGHTSONGS」ほか、桃源郷のような強烈なアシッド感を伴うサーフサウンド。深海の中のようなリヴァーヴにこのまま何時間でも浸っていたくなる。クールなフェスティヴァルをありがとう」こちらこそ、君と一緒の時代に生きていることを誇らしく思える。
SPIRITUALIZED
ラストのSPIRITUALIZED。女性コーラスを含む白い衣装でまとめられたバンドメンバーとともに登場したジェイソン・ピアースに声援が飛ぶ。1曲目こそ「COME TOGETHER」だったものの、その後は今年リリースされるニュー・アルバム「Sweet Heart Sweet Light」からの楽曲が並ぶ。これまでの彼らの作品やライヴに時間を重ねるごとに減っていく神経症的なタッチは、ここにきてさらに息を潜め、多幸感で満たされる。ゴスペルとサイケデリック・ミュージック(なんならそこにヴェルヴェット・アンダーグラウンドを加えてもいい)が、反復を重ねることで快楽を有むという共通点があるのなら、ジェイソンはその接点に可能性を見出したのだろう。大団円にふさわしい祝祭的な雰囲気たっぷりの分厚い音の波と戯れながら、輝くような週末は終わりを迎えた。
Text : Kenji Komai
Photo : Kazumichi Kokei