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eastern youth
“極東最前線／巡業〜地球の裏から風が吹く〜”

沸点間際の音の粒子は摂氏零度

アルバム『地球の裏から風が吹く』を引っ提げて21か所を回った今回のツアー。正直なところ、全国どこもソールド・アウトとは言い難く、Vo・吉野寿のMCによれば「一人ひとりにこう、餅を渡すように歌を渡してきた」地方だってあったそうだ。しかしこれは自嘲や卑下ではないだろう。ここ数年、事務所からの独立やレーベル移籍を続けることで余剰という余剰を削いできた彼らには、手渡しの距離で行うコミュニケーションがどれだけ大切なものかがわかっているのだ。満員のO-EASTを「これだけ人がいっぱいいると……怖い！」と茶化しながらも、3人が音を鳴らした瞬間、空気は凛と引き締まる。

新作を中心に進む前半。イースタン・ユースといえば“文学性の高い歌詞をギリギリのテンションで弾き叫ぶ”というイメージを抱く人は多いだろうし、数年前までは確かにそういう曲が中心だったが、新作での彼らは無理にさわがない。特に変わったのは吉野のギタープレイだと思うが、ディストーションに頼ることなく、一音一音をていねいにつま弾き、歌にじっくりと焦点を当てていく演奏は、「透明」という形容詞がぴったり。エレキでありロックでありパンクであっても、本当に必要なもの以外は削ぎ落とされているから根本がきれい。本当に大切なものだけが磨かれているから、バンド全体が静かに発光しているような感じだ。熱いとかエモいとか、そんな簡単な感想だけじゃ到底片づけられないイースタンユースの“今”を目の当たりにした気分だ。

そして今があれば当然過去もある。中盤にさりげなく「青すぎる空」を披露し、続けざまに初期の「いずこへ」を連発したのには驚かされたが、観客もひときわ盛り上がる10年前の名曲を、もったいぶらず、今も同じテンションでやり続けられるのがこのバンドのすごさだろう。文字どおり「何処へ」向かうかわからない我が身を嘆いたり笑い飛ばしたりしながら、吉野が歌っていることは結局変わらない。成長していないという意味ではなく、思いきり迷ってるクセに「ゴールなんかいらねぇ」と大見得を切って仁王立ちしているところが10年前も20年前もずーっと変わらないのだ。情けなさと表裏一体の強さ、泣き笑いの人生を一人の男が生きているのだなと思える実感こそが、結局イースタン・ユース最大の魅力なんだろう。

そしてまた当然だが、付き合いが長くなればなるほど、一人の男の人間的魅力は味を増していく。吉野も言っていたが「どこ行ってもワーッて盛り上がってた昔」じゃわからない、「一人ひとりに歌を渡している今」だからこそ、伝わってくるモノは格段と増えている。

再び新曲中心へと戻った本編のラスト「沸点36℃」を前にして、吉野は「よくミュージシャンが言うセンキューセンキューセンキューじゃなくてさ、本当に『ありがとう』って感じなんだよ。来てくれて、ありがとう」と語っていたが、まったくこれは、MCでも挨拶でもセリフでもなかった。観客一人ひとりの心と琴線に届く嘘いつわりない“本心”と呼ぶべきものだった。いろんなライヴに行っているけれど、これだけ心のこもった言葉を聞いたのは何年ぶりだろう。もちろん昔からいいバンド、誰もが認める素敵なライヴ・バンドだったけれども、イースタンユースは今バンドとして何度目かの全盛期を迎えている。そう断言できるくらい最高のライヴだった。

Text : Eriko Ishii

Set List
01. 地球の裏から風が吹く
02. 滑走路と人力飛行機
03. 五月の空の下で
04. 野良犬、走る
05. ギラリズム夜明け前
06. 青すぎる空
07. いずこへ
08. 雨曝しなら濡れるがいいさ
09. 旅行者たちの憂鬱
10. 踵鳴る
11. 白昼の行方不明者
12. サンセットマン
13. 沸点36℃
-Encore-
14. 夜がまた来る
15. 赤い胃の頭ブルース
14. 荒野に針路を取れ