2008.3.29 (sat) @ Zepp Tokyo
幕が下りそこにメンバーのシルエットが幻想的に映し出されるオープニングから、「白い薔薇が白い薔薇であるように」が鳴りだすと満員のフロアから一斉に手が挙がる。自身初となるキャパシティでの"Chaos in Apple Tour"追加公演はそのようにして始まった。バックに掲げられたアブストラクトなペインティングを目の前にすると、改めてZeppの会場の大きさを実感してしまうけれど、アルバム『Chaos in Apple』とツアーを経て、彼らがライヴ・パフォーマンスに紛れもない自信を持っていることは、この夜のアクトでも確かに感じられた。

続く「ハリキリ坊やのブリティッシュ・ジョーク」そして「ギルティーは罪な奴」になると、早くもコテイスイが拡声器を手にステージ前方まで存分に駆け回り客席を煽る。「ドーナツに死す」「王様はロバのいうとおり」と、彼らの大胆さとデタラメさとロマンティシズムと確信に満ちたオルタネイティヴな楽曲の魅力が観客を震わせる。フィリポとコテイスイの個性的なドラミングの応酬から生まれる、重層的なリズムを土台にした演奏の力の入り具合はもちろんだけれど、「お台場は便利な街だから……」と大舞台を茶化しながら、ヴォーカル・須藤はいつにも増して楽しもうとフロアに語りかける。
活動初期から彼らが持つ、何をしでかすか予測不可能な野蛮で危険なにおいを最も強く感じたのは、「B級プロパガンダ」で宮川のベースと重厚なリズム・セクションによりブーストされるアンサンブル、そして「A-ha」と続く流れにおいてだった。中盤でトライバルなインプロ的セクションを設け、須藤がドラムセットに向かい、クレイジーなリズムを刻む。永遠のように感じたそのセッションに続いて、抜けるようなポップ感を持つ「GOO」が続く構成には、彼らの緻密な楽曲の妙と、プリミティヴなバンドとしてのダイナミズムという双方のバランス感覚の冴えが感じられた。
ファンの間でも名曲と人気の高いバラード「君のあふれる音」では、斉藤がギターをキーボードに換えプレイ。そして後期ビートルズを思わせるサイケデリアを醸しだす「ダブリン」では須藤が後方の照明によじ登り、その恍惚感を増長させる。カラフルな照明も相まって、このあたりの比較的ゆったりとした楽曲のディープネスには、彼らの集中力のすさまじさが端的に表れていた。


須藤は「本当に最後の最後ということだけど、特に感慨もなくて。それは僕たちがこれからだからだよ」と、この日のライヴが特別ではないことをしきりに強調していたけれど、それは彼らの演奏への集中力とテンションからも明らか。ストレンジなインスト「vs ハワイアン」に続いて「ブラッディー・マリー、気をつけろ!」「髭は赤、ベートーヴェンは黒」といったこれまでの人気曲であり、真骨頂であるグラマラスでキラキラとした楽曲のアッパーさ、そしてこの有無を言わさぬ性急さがアルバムの混沌を象徴していた「溺れる猿が藁をもつかむ」ではこらえきらなくなったようにフロアでダイブが始まる。
「この薄汚い世の中でここは僕たちだけの世界だ」というMCの後は当然「ダーティーな世界(Put your head)」。本編最後にあたり、須藤は「選択の余地はなかった。かっこつける暇はなかった」となんとも髭(HiGE)らしいとしか言いようのない形容で感謝を述べ、「これはみんなの歌だよ」と「ハートのキング」をプレイした。絶望とせつなさとスケールの大きなアンサンブルのなか交錯する。〈確かなモノなど何もない〉、いや本当にそうだ。でもそんな情け容赦のない世界で、髭(HiGE)は音楽に夢を託し、僕らリスナーは彼らに限りない夢を託していることを感じずにはいられなかった。

「寄生虫×ベイビー×ゴー!」に続き、アンコールでは新曲を披露。〈僕の好きなママのジュース〉というフレーズがセクシャルで、カオティックなリズムと2本のギターがからむ、またもや新境地なナンバー。そしてここで、「電波にのって」で終了の予定が、突然「僕らマヌケな5人組だから」と「マヌケなクインテット」を演奏してくれるという嬉しいハプニングも。奇しくもアルバムの後半と同じ構成となった本当の最後、「電波にのって」のトリップ感が会場全体を震わせる。
UKのディスコパンクやニューレイヴでもなく、USのグランジ/オルタナ・リバイバルでもなく、髭(HiGE)としてのロックの方法論を身につけたことへの矜持のようなものさえ感じさせた。パワーコードの持つ即効性と魅力を存分に用いながら、どこか軽妙さを忘れず、ニヒリスティックな世界を語りながら、どこか憎めないチャームやこぼれ落ちるメランコリーを持って、デカいZeppの空間を自らの色に変えてしまう表現力には感嘆することしきり。特に今回は、ツイストされたポップセンスよりも、ロックバンドとしての骨太さとたたずまいを感じさせるアルバムの内容そのままの、楽しめるけれど胸にどっしりとしたものが残るライヴだった。そして髭(HiGE)のライヴに“感動”って言葉は似合わないだろうか。でもとにかく、愛すべき髭(HiGE)の世界にまたしてもどっぷりとはまってしまったのだった。それにしてもこの夜須藤は何回「ありがとう」と口にしただろう。

Text : Kenji Komai
Photo : Wataru Umeda