New Audiogram: オルタナティヴミュージック ウェブマガジン

OGRE YOU ASSHOLE "「ピンホール」 Release Tour"

いつものように、SEのYO LA TENGO「NUCLEAR WAR」がソールドアウトを記録した渋谷クアトロに鳴り響く。インディー・スピリッツを携えたまま、メジャー進出を果たしたOGREへの評価が堅実なライヴ活動により生まれたことは言うまでもないけれど、やはりワンマンというのは格別な思いがバンドにとって、そしてオーディエンスにとってもあったと思う。「ファイナルっぽいライヴをやりたいと思う」というヴォーカル出戸の言葉からも、それは伺えたのだった。

オープニングの「コインランドリー」から、中毒性の高いメロディ、浮遊感に満ちたグルーヴを繰り出すタイトなアンサンブル、そして出戸の歌のパワーと、そのどれもが倍増していることをいきなりつきつけられる。フェスやイベントではほとんどMCも入れずに黙々と曲を連ねていくセットが印象的だが、サイケな酩酊感を呼ぶ「ロボトミー」のフィードバックからそのままストレンジな「どっちかの角」へと繋がっていく流れには、改めて震える。ギター・リフが空気を切り裂く「アドバンテージ」、清涼感溢れる「かたっぽ」と幅の広さを見せつけた後、デビュー作の1曲目「また明日」と「ピンホール」を続けて演奏。バンドの最初期と最新型を続けて披露してしまうところに、OGREの決して変わらないアティチュードが伝わってくる。シングル「ピンホール」は、歌ものとしての強度を高めながらも、どうして今までOGREにこういう曲がなかったのかと思うほどフィットしたナンバー。タイアップのアニメ・オンエア時のエピソードを交えながら出戸が「こういう曲を書いていたんだって気付いた」、そして「おもしろい視点で曲が見れるかもしれない」と語るところには、バンドの個性を持って新しい世界に臨んでいく中での自信が満ちていて、なんとも頼もしく感じられる。

サイケな大作「ドーナツ」、緊張感に満ちた「ラムダ・ラムダ・ラムダ」、ラストの現実世界のなかにあるふとした夢幻を音にしたかのごとき「ひとり乗り」に至るまで柔らかな異物感を持つグルーヴでもって自らのスタイルを貫き通した。アンコールには、「ピンホール」収録の新境地「ボート」、そして「ネクタイ」をプレイ。作品ではキーボードなどフォー・ピース以外の音色を加えて表現していた楽曲を、さらに新たなビジョンを描き出していた。特に「ネクタイ」の、それこそYO LA TENGOなどのUSインディー直系の諧謔（かいぎゃく）を感じさせる質感には、逆に彼らの気骨を感じてしまってしょうがないのであった。

夕暮れに佇んでいるようなノスタルジックな情景、そしてリリシズムとぬめりを持ったサイケデリアを両立させるOGREのアクトは、いつも時間の感覚をひどく狂わせてくれるけれど、この夜も気がつけばあっというまに90分を優に越していた。途中フロアから「全曲やって！」という声が聞こえたけれど、そう「バックシート」も「平均は左右逆の期待」も温存した（？）しながらもこの充実度たるや、まだまだ彼らのポテンシャルは底知れない。

Text : Kenji Komai