2011.4.28 (thu) @ Toda TODASHI BUNKA KAIKAN, Saitama
凛として時雨(以下、時雨)にとって初のホール・ツアーの初日に選ばれた舞台は、"文化会館"という響きがしっくりとくる昭和の遺産の趣。ライヴハウスでプレイするのが日常な凛として時雨にとって、一見そこはミスマッチな印象を残した。だが、ひたすら暗い場所におぼろな像を結ぶだけの3人が音を出した途端、バンドにとって未知の場所は、今までにない時雨を見せてくれた。さらにそれを今自分の記憶のフィルターを通して再生している画は、TKが撮ったフィルムのように実際に見えていたものとは違う景色を見せてくれる。だから何度も時雨のライヴを体験したのにこう言わざるを得ないのだ──"I’m still a Sigure virgin"と。
『still a Sigure virgin?』発表後のツアー"VIRGIN KILLER"とは、ホールという場所をはじめ、演奏される曲も、ちょっとした試みも異なる今回の"VIRGIN KILEER SUICIDE"。元々は言葉遊びから与えられたのかもしれないが、タイトルどおり"VIRGIN KILLER"で描いた景色に別の彩りを与えながら"VIRGIN KILLER"でない何かを見せていくパフォーマンスは、直感的造形美の極致をいく音楽の生まれる様を瞬間、瞬間で見せてくれた。TKはソロ作品のインタヴューの中で作曲に関して「構築はあまり得意でない。その時、その時の欲しい音を入れるだけ」という旨を語っていたが、エレクトリック・ギターに背負わされた宿命のままに鳴らされる歪みと正確な一音一音の拮抗状態や、フィジカルなリアリティを留めるリズムと神経の繊維網に直接刺さってくる叫びのメロディの不安定な同居状態といった──この日の会場に広がっていた音楽の景色もまた、その時、その時のバンドが欲していたものとして捉えることができた。そんな音楽の景色にオーディエンスはライヴ・ハウスとは異なるリアクションを示し、座席スペースという限られた場所で思い思いに体を動かしながらも、彼らの表情にはロックの高揚感とは別の種類の恍惚が浮かんでいた。
それを可能にしたのは、クラシック・バレエやオペラが上演されそうな雰囲気を湛えた場所のマジックにほかならない。時に光の破片が散りばめられ、時にどぎついまでの原色の光が貼付けられ、時に圧倒的な暗闇が醸し出される中、絞り緞帳のもとで3人がプレイするその光景は、音楽劇と地下水脈で繋がっている──時雨でしか運べない場所へ観る者を運んでいった。そしてそれをリプレイしている今、8ミリフィルムのような画像の粗い1コマ、1コマの連続は、純粋で過激でそれゆえに痛ましくもある劇の様を伝えていた。
そして記憶のフィルムに"End"マークを打たれた時、次のライヴでまた見ぬ景色を見せてくれるであろう時雨に、またこういうのかもしれない──"I’m still a Sigure virgin"と。
Text : Kaoru Abe
Photo : Yuki Kawamoto
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