2011.5.20 (fri) @ SHIBUYA-AX, Tokyo
3月21日の振り替えとなった、アルバム『MUDA』リリース・ツアー・ファイナル公演、渋谷AX。地震の影響で延期が発表されたときには、チケットを買ったファンは複雑な気持ちを抱いたかもしれない。でも誰よりそう思っていたのはメンバーのはずで、彼らは当日、USTREAMでアンプラグドのライヴを中継した。それも、スタジオからでも事務所からでもなく、トロンボーン・ハマケンの部屋から。周囲からの苦情を気にしながら。なぜその場所を選んだのかわからないけれど、彼らの会話や演奏を聴きながら、また以前のように笑って音楽を楽しめる日々が戻ることを祈った人も多かったのでは、と想像する。
それから約2カ月。本当のツアー・ファイナルが実現した。まずは、4人揃って「こんばんは、SAKEROCKです」と大きな声で挨拶。星野源の、「今日はこんな調子でのんびりいくから」というMCから、本当にほのぼの、ゆらゆらとした「進化」でライヴがスタートした。アルバムがリリースされてから半年が経ち、震災以前には全国8カ所でツアーを行ってきた彼らの音は、さらに味わい深く響く。ジャジーな「電車」はほんわかしているし、「穴を掘る」の音は丸くて優しい。彼らの進化とは、演奏が鋭くタイトになることなんかではなく、よりあったかい音になることなんだな、と思う。だからといって力が抜けているというのではなく、一音一音には力が込められていて、妙な説得力がある。「今の私」のトロンボーンの<ボワンワンワ~ン>というフレーズが、今まで以上に胸に迫る。
途中、寡黙なベーシスト、田中馨が、青森・大間にある原子力発電所の建設反対の署名を集めていることについて語る。「こんな空気にしてごめんないさい」と改まった口調ではあったけれど、2000人のオーディエンスを前に、というよりは、ちょっとした集まりで発言した、というたたずまいが良い。そしてまた、そうやって普段から考えていることをみんなで一緒に共有しようとできる彼らのライヴが良い。あの日以来、そのことについて考えなかった人なんていないのだし。
続いては、すでに定番曲となった「ホニャララ」を経て、『MUDA』の楽曲を連続プレイ。これまでで一番ギターが歪んでたであろう(推定)「Green Mocks」、すべての楽器が思いっきり鳴った「Goodbye My Sun」、ハマケンのスキャットとマイケルばりのステップが光る「FUNK」と、怒濤の展開。気づけばライヴは終盤に差し掛かっていた。そして、この日のハイライト、「生活」。彼らの楽曲はいつもどうってことのない日常を描いていると思うし、ずばりそのままのタイトルのこの曲は、当たり前にあるはずの毎日がこれほど大切に思えたこともなかった、最近の日々についての曲のようにも聞こえる……こちらの勝手な解釈をただただ受け入れてくれるのがインスト曲の良いところだ。
と、感傷に流れがちなこちらの気持ちを察してか、アンコール前にスクリーンに映し出されたのは、ツアー中、ひたすら吉川晃司のモノマネでKARAやら少女時代やら大黒摩季を歌い踊るレーベルトップ、角張渉氏の姿。新しいネタを仕込みながらこのツアーを渡ってきたようで、なかなかのクオリティーだ。なぜかNHK「プロフェッショナル」風にまとめられた映像でこれでもかというほど盛り上げて、アンコール曲「MUDA」へとつなぐ。曲と同時に「MUDA」という文字が光る電飾が降りてきて、最後の最後にほんのちょっと非日常を演出。それでも、この日のライヴには特別に記憶に残るものだったし、それは、9月3日に決定した彼らの初野音ワンマンまで続くだろうな、と思う。
Text : Ayumi Tsuchizawa
Photo : Tomoya Miura
-Set List-
01. 進化
02. 電車
03. 穴を掘る
04. 老夫婦
05. ちかく
06. 選手
07. 今の私
08. 七七日
09. ホニャララ
10. Green Mockus
11. Goodbye My Son
12. HIROSHIMA NO YANKEE
13. Hello-Pô
14. FUNK
15. WONDER MOON
16. Oyabun
17. URAWA-City
18. KAGAYAKI
19. モー
20. 慰安旅行
21. 生活
22. 菌
23. GUNPEI
-Encore-
24. MUDA