2011.5.28 (sat) Shibuya AX, Tokyo
2010年4月の代官山UNIT、同年10月の恵比寿LIQUIDROOMに続く待望のワンマン・ライヴもまた、前2回同様に超満員のオーディエンスの万雷の歓声に迎えられた。作品を作り、ステージに立ち、目の前のリスナーへ音楽を届ける――。メンバーのプロフィールすらいまだ明かさずとも、メンバーによる積極的なメディアへの露出がなくとも、彼らの音楽を通した純粋な表現がこれほど熱い支持を受けている。andropを取り巻く現在の状況は、いち音楽ファンとして本当に素晴らしいことだと心から思う。
興奮、陶酔、感動、共感……。様々な感覚で、andropの世界は聴き手の感性に触れる。静かに漂うさざ波のようなシンバルの音色、ギター・アンサンブル、リズムセクション、ファルセット・ヴォイス……。繊細に重なる一音一音から、一気に増した力強さが圧巻だったのはオープニング・ナンバーの「Tonbi」。続いた「Colorful」も、ファンのハンド・クラップと楽器陣の演奏、そして歌声が融合してひとつの巨大なリズムを奏でているよう。渋谷AXは、andropが持つ興奮で強烈に打ち抜かれ、序盤から一体感で包み込まれる。
そして、「Amanojaku」や「Alpha」をはじめ、この日のセット・リストの要所に組み込まれて光を放ったのは最新作『door』収録の新曲たち。「今日は自由に最後まで音楽を楽しんでいって下さい、よろしくお願いします――」。そんなメッセージに続いた「Q.E.D.」は、メンバーがギターをキーボードにスイッチ、PCのディスプレイを前にしてデジタル・サウンドをバンド・サウンドに融合させる。そこから放つ"踊れる"感覚、ロックという枠にとらわれない"自由"なアプローチからは、ダンス・ミュージックやシンセ・ポップ系のような陶酔感を味わうことができる。
興奮、陶酔に続くのは、感動と共感――。音源未収録の新曲「Noah」は、これまでの彼らのライヴでも強烈な印象を残した、音響と映像のシンクロで魅せる。夜の虹、ポタポタつたい落ちる雫は、波となる――。断片的にしか聴き取れなかったのが申し訳ないが……そんな一節では、まさに歌詞のとおりの美しい光景がスクリーンを彩る。「Merrow」や「Basho」でも、まるで雪のように、星のように光がきらめきながら音と溶け合う。音、言葉、映像、照明が一体になって作られるその感動的な空間は、音源を聴くだけでは体験することができないandropの真骨頂だ。
「これからも、色んなことがあると思うんですけど……。その中で、今日、今ここで生きている意味だったり、今ここに立っている意味だったり、今こうやってみんなと出逢えた意味だったり。今日のこのことが、明日からの何かの意味になればいいなと思ってます。今日はどうもありがとうございました――」
アンコールでは、初の渋谷AX公演を一緒に作った人々へ深い感謝を贈った。そして、「March」は、サウンドと言葉の一つひとつが心を強く強く揺らした。<明日は見えなくても 僕らは今日を生きる さよなら 会えなくても そこから今始める――>。東日本大震災からの復興、日常生活での苦悩や葛藤、長く続く人生の道……。その中で、"今日"を精一杯生きることはかけがえのないものなんだと、andropはメッセージを伝えているかのようにもその場面では感じた。
サウンド・アプローチはかなりオルタナティヴで刺激的でありながら、等身大の言葉とメロディが共感を呼ぶ。誤解を恐れずに言えば、彼らの音楽は、J-POPとしても十二分に成立するぐらいのキャッチーさ、大衆性を備えてもいると思う。ロックであり、アートであり、そしてポップスでもあり……。ジャンルの壁など軽やかに乗り越えてしまう力が、andropの音楽には間違いなくある。音楽の世界の新時代の扉を開けるのは、きっと、彼らのような存在なんだろう。
Text : Toshitomo Doumei
Photo : Rui Hashimoto (SOUND SHOOTER)