2008.6.6 (fri) @ SHIBUYA-AX
AXで行われた9ミリ・パラベラム・バレットのワンマン。1500人以上を収容する大型ライヴハウスは一瞬でソールドアウトとなったが、そこに十代とおぼしき若者がなんと多いことか。2年前まで無名に近かったこのバンドの勢いに飛びつき、キューミリ、キューミリと騒ぎ出したのは雑誌媒体などのメディアだったと記憶しているが、その熱波は作られた話題として終わることなく年若いロック・ファンを巻き込み、もしかすると今までライヴハウスに無縁だったかもしれないリスナーまでを一気に動かしている。開始予定の7時から約10分、客電がふっと消えた瞬間の、怒号と嬌声が入り交じった歓声というか悲鳴の大きさは、近年あまり聴いたことがないようなものだった。これが、時代の勢い。そう確信させる熱量がここにはある。
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「Wildpitch」から始まり怒濤の高速ハードコア・ナンバー「Sector」へとなだれ込むオープニング。これまではラストやアンコールに披露されることの多かった「Sector」も、今では別に特別なハイライトではないのだろう。というか、新曲すべてが鮮烈なハイライトを作っていて、どの曲にも圧倒的なクライマックスが訪れる。そういう前提がすでに存在しているから、ハイテンションでぶっちぎる高速ナンバーを切り札として使う必要がないようだ。
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事実、1年前の彼らのライヴは「何が起きているのか全然わからないけどとにかくすごい!」という嵐のような、人を圧倒するカオスの塊としての魅力があったわけだが、今は少しずつ確実に違ってきている。アルバム『Tarmination』に収録されたミドル・テンポの曲をゆっくりと聴かせるタームが中盤用意されていたように、起伏を作り起承転結を導こうとする全体への目配りが感じられる。客を圧倒するだけでなく、波に乗せて共に高みに昇ろうと手を差し伸べる温かさがあると言ってもいい。普段から前髪で顔を隠して客席を見ようともしないベースの中村が、積極的に顔を上げて客席を煽っていたのも頼もしい変化のひとつ。闇雲に騒ぎたてるメディアの熱量に対して、そんなの大袈裟ですよとけおされ気味に笑っていた4人はもういないのだ。観客の期待を全身で受け止める覚悟。周囲の喧騒などは関係なく、この4人とこのオーディエンス全員で新しいアクションを起こしてやろうという心意気。そういうタフな野心を彼らのライヴに感じたのは初めてのことだった。
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もちろん、そういう頼もしさとは別に、相変わらずムチャやってんなぁと笑ってしまうシーンはいくつもあった。ギターの滝は急にヘヴィメタ化したり、また急に楽器を弾かずバンザイの姿勢で走り出すという荒技を何度も見せてくれたが、そういうムチャも含めて、この4人の立ち居振る舞いはすっかり王道という言葉が似合うようになってきた。へんにスポイルされることなく勢いを止めることもなく、ただ過ぎていく嵐から人を巻き込む竜巻のようなものに形を変え、求心力をひたすら伸ばし続けている。このエネルギーはどこまで伸びてゆくのだろう。現在は新曲を10曲以上も携えながら、この夏は8か所のフェスを席巻する予定だという9ミリ・パラベラム・バレット。何度でも繰り返すが、引き続き、要注目だ。
Text : Eriko Ishii
Photo : Teppei Kishida(★), Ryota Mori(★★)