2009.6.8 (mon) @ Shibuya O-WEST,Tokyo
ACTs : DEERHUNTER / AKRON/FAMILY / ATLAS SOUND
去年から続く、シューゲイザー・リヴァイヴァルの波から派生したニューゲイザー・シーンの最重要バンドと名高いDEERHUNTERとUSオルタナ・シーンにおいて、圧倒的な世界観とパワフルなステージングで注目を集めているAKRON/FAMILYのカップリング初来日ツアーが実現した。それをなんとしてでも観ておきたいといった熱心なオーディエンスが開演前から当日券を求め列をなし、なんともいえない緊張感が人でいっぱいになった会場中に立ち込めていた。
ATLAS SOUND
オープニングを飾るのはDEERHUNTERのBRADFORD COXによるソロ・プロジェクトATLAS SOUND。簡単なサウンドチェックを済ませると、"Hello"と簡素に挨拶し、美しい旋律のアルペジオのループを重ね始めた、そこに乗る深いリバーヴのかかったささやくような歌声が会場全体に染みわたっていく。際限なく重ねられていくギターの音がギター・サウンドの領域を軽々と乗り越え、美しい音像を紡いでいくと、リズムをとる足踏みさえも演奏の一部のように聴こえてしまう。ネオンカラーで彩られたエフェクターを巧みに踏みわけ、美しいループ・ユニゾンを重ねると、かすれそうなファルセットヴォイスを聴かせる。その繊細な演奏はBRADFORD COX自身を象徴しているかのように繊細で刹那的な美しさをもっていた。
AKRON/FAMILY
ステージにかかっていたタイダイの星条旗にライトが照らされると、AKRON/FAMILYの3人が登場。お香の煙がもくもくと彼らの足元を煙し始めると、ベースのマイルズが"とにかく盛り上がって行こうぜ"と英語で声を荒げ、オーディエンスを煽りはじめた。3人それぞれが自分の楽器と声をクレッシェンドさせるかのように実に、丁寧に音を奏で始める。牧歌のような響きを持つ、その音はアメリカの壮大な大地を喚起させ、感嘆にも似た感情を湧き起こさせる。続く「RIVER」の後半から徐々に演奏に熱が帯びてきて、心地のよいグルーヴが生まれると、まさに川渡りをしているような、躍動感に満ちた感覚が会場中に広がり、会場全体が高揚しはじめる。
アコースティックなサウンドスケープにハーモニカのメロディがしみわたると、今度はギターのセスがメインヴォーカルをとる。AKRON/FAMILYの3人の外見は一見体格がよく、立派なひげをたくわえていて、荒々しい外見なのだが、土臭くも美しい歌声をきかせてくれる。その歌声はスピリチュアルでトラディッショナルな響きを湛えていて、一見ロック・シーンとは相反する性質なのだがAKRON/FAMILYは、そのすべてをエクスペリメンタルに飲み込んで昇華させてしまう。
ベースのフィードバック・ノイズで終わると、先ほどまでサンプラーを乱れうっていたドラムは一転土着的なリズムに変わり、ベースがまた手拍子を煽る、そこにのるギターのフレーズとベースの応酬でトライバルなバンド・グルーヴがうまれ、いつのまにか全員がパーカッションになっている。繰り返される反復にオーディエンスの沸点はさらにあがるばかり、オーディエンスの歓喜の声が演奏の一部のように狂騒へとフリークアウトしていく。
インプロビゼーションのようなフリーキーな演奏と交差するマイルズのシャウト、というか絶叫。本能の赴くまま踊り狂うように演奏すると、そのまま客席に飛び込んだ。ステージに戻り、荒々しい息を整えるかのように吐息にディレイをかけサンプリングすると、母国情緒あふれる美しい旋律を奏でる。最後はドラムのダナもステージの中央にでてきて、3人で空にむかって誰もが息をのんでしまいそうな美しいハーモニーをノスタルジックに歌い上げた。
狂騒と壮厳を衝撃的にまぜこみ、恍惚へと導く。それは未知の領域へ踏み出しているかのようなコズミックなサウンドではあるが、決してオーディエンスから遊離せず、すべてを巻き込み、楽しませている。むしろステージと客席の境界線なんて、あたかも最初からなかったかのようにさえ感じさせるのだ。AKRON/FAMILYが鳴らす音に感じるのは、ロックにおける多幸感と解放感。理解するのではなく、感じるのだというロックの基本的なスタイルを独自のスタイルで体現しているステージだった。
DEERHUNTER
続く、DEERHUNTERは思わず息をのんでしまうほどの轟音ノイズからドラムが疾走する「CRYPTOGRAMS」で幕をあけると、容赦なくフィードバックノイズを浴びせ、倍音のうずにオーディエンスを飲み込んでいく。インターミッションを挟まずに演奏し、オーディエンスを高揚へと、冷静に導いていくかのような演奏、それは先ほどのAKRON/FAMILYとは対照的に、まるで僕たちのやり方はこれなんだ、と誇示するかのように冷静で淡々とした自信にあふれていた。
エコーのかかった甘いメロディとフィードバックのリフレインが心地よい「NEVER STOPS」を吹き抜けるように演奏すると、今度は気だるくメロウなガレージナンバーを鳴らす。転調したかのように「HAZEL STREET」につなげると直線的なドラミングが際立ち、ランニング・ベースが相まって、なんともいえない疾走感が心地よくひろがっていく。淡々と演奏しているようにみえつつも、演奏には熱が帯び、BRADFORD COXの声もオープニングのATLA SOUNDとはまた違った熱が入り、その喉を絞めたかのような歌い方ゆえにヒリヒリとした感覚をもってオーディエンスの耳をリフレインする、そこにのるミニマルに展開するベース、エコーの中をはねまわるギター、ストイックに刻み続けるビートは、オーディエンスになにかを思い出させるかのように音像を広げていく。
DEERHUNTERがもつ魅力は内的世界に秘めた陰と陽のコントラストを幻想的で耽美な轟音と煌めくメロディに喩し、心的風景を音像として書き出している点といえるだろう。DEERHUNTERのソングライティングを担当しているBRADFORD COXはマルファン症候群という先天性の遺伝子の病であり、自身でもゲイだということをカミングアウトしていて、そのことが影響しているかは定かではないが、彼自身の内的世界をDEERHUNTERというフォーマットで表現しているのであれば、鳴り止まぬ轟音の中でみつかる煌めくメロディに彼の怖ろしいほどの純粋さを感じずにはいられないのだ。多彩なアプローチをもちつつも、等身大のままでポップを追及するその姿勢には感動すら覚える。
アンコール後、少し恥ずかしそうに登場したCOXは、オーディエンスに"Do you like a music?"と本当に素直に問いかけ、絶賛されたニュー・アルバム『MICROCASTLE』のラストを飾るスローバラード、「TWILIGHT AT CARBON LAKE」を演奏。悲しくも幻想的なメロディのなか、見え隠れする退廃的な一面と、彼らの音楽に対する真摯な一面、いろいろな側面が合わさって、堰を切ったかのようにフィードバックとともに吹き荒れた。その感情を曝け出すかのようなその音は少し怖くもあるのだけれど、だからこそ私たちを惹きつけるのかもしれない。
Text : Chihiro Onodera
Photo : Ryosuke Kikuchi(AKRON/FAMILY), Kazumichi Kokei(ATLAS SOUND / DEERHUNTER)
AKRON/FAMILY Set List
01. MEEK WARRIOR
02. RIVER
03. THE ALPS & THEIR ORANGE EVERGREEN
04. LAKE SONG /NEW CEREMONIAL FOR MOMS
05. ED IS A PORTAL
06. EVERYONE IS GUILTY
07. MBF
08. SUN WILL SHINE
09. LAST YEAR
DEERHUNTER Set List
01. CRYPTOGRAMS
02. WHITE INK
03. NEVER STOPS
04. DR. GLASS
05. HAZEL STREET
06. NOTHING EVER HAPPENED
07. VOX CELESTE
08. OCTET
09. SPANISH CARAVAN
10. LIKE NEW
11. CIRCULATION
12. AGORAPHOBIA
-ENCORE-
13. TWILIGHT AT CARBON LAKE