2010.8.20 (fri) @ shibuya O-EAST, Tokyo
やけのはらとのコラボ・シングル「Rollin' Rollin'」、ダウンロード販売システムDIY STARSでの「検索少年」の直販、そして7月にリリースしたオリジナル・ニュー・アルバム『billion voices』の各所からの絶賛……と、明らかに七尾旅人の周りには今新たな風が吹いている、というか渦巻いている。そのニュー・アルバムのレコ発&自身のバースデイ・ライヴが、それまでの彼からすると少々、意外なハコ、渋谷O-EASTでおこなわれたのだが、もう書きたいことが多すぎて、逆に"圧倒的なライヴだった"と断じてしまいたい誘惑に駆られてさえいる。しかし、なんとかこの夜の素晴らしさを言うなら、七尾旅人の全身には相変わらず歌が溢れ、そしてその歌は彼が時代ににじり寄ったのでもなく、世間が彼ににじり寄ったワケでもないのに、いつの間にかとても普遍的なものとして響いていたということ。
具体的なことも書こう。開演前だが、フロアに入ると彼はすでにステージに"いた"。弾き語りオンリーの地味なセッティングなので覚悟するようにと冗談めかしながら、いきなり二十歳当時に作った楽曲を連発。2階席にいる子どもや赤ちゃんの声が余りにも自然だが、嬌声が激化(!?)すると歌詞に「カオス!」とアドリブで盛り込んだりして場が和む。他にも、イヴェント・ライヴでのアウェイ感慣れした身に「ワンマン! なんだこの肯定感? シンガーソングライター的な」と突っ込んでみたり。この日のライヴは2部構成だったのだが、前半のハイライトは新作のなかでも圧倒的なイメージの飛躍を見せる「シャッター商店街のマイルスデイビス」。基本的にはシンプルなアルペジオやリフの繰り返しながら、積み重なる物語や、言葉にならない感覚的な発声が渾然一体になり、ピークを迎えてバッサリ終わった。普通の日常がままならない今の日本のアーバンライフの、悲しさの先にある何かをこの演奏に見た気がする。
15分程度の中休みを挟んで、2部がスタート。休憩中に公募したPVコンテストの映像も流された「検索少年」や、この夏亡くなった彼の友人が死ぬ直前にYouTubeで見ていたという「8月」など4曲を一気に演奏。まずい。ここにいるほとんどの人を好きになりそうな温かい気持ちになってしまう(悪いことじゃないけれど)。その後、おなじみ「Rollin' Rollin'」でやけのはらが登場。プリミティヴな風貌とやたら腰の低い態度のギャップが、この新しいアンセムで揺れる人たちの気持ちをさらにやさしくしているようだ。
そしてまた新たなな仲間が。新作に参加しているSalyuがライヴを観にきたついでに(ホントにそうかな?)「one voice」を歌うというサプライズも。新作を作り上げ、しかも誕生日なんだから素直にお祝いしたい、そんな気持ちはむしろ観客のほうに強く感じた。お祝いムードの流れの後に放った最終盤「あたりは真っ暗闇」の、荒涼とした雰囲気を描く演奏、家族や大切な人を守ろうとする気持ち。地味な元ロック少年・現おじさんの心象と取れる「I Wanna Be A Rock Star」での爆発する喜びの表現。みんなが自分の歌を歌えばいい、という意味のことを七尾は言うが、それがどういうことか五感で察知できた。だからbillion voices。
ちなみに終演時の時計は23時。「予定を大幅に超えてるから」と客出しも自分で歌いながらおこなった彼。足腰は疲れきったが、心にも身体にも歌がみなぎっていた。
Text : Yuka Ishizumi
Photo : Yukitaka Amemiya
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