2012.9.21 (fri) @ Shimokitazawa SHELTER, Tokyo
地元・京都を差し置いて彼(女)らが初のワンマンの会場に選んだのは、同じく初の企画ライヴを行ったというSHELTER。ロゴ入りのバックドロップとともに、学祭よろしく折り紙で編んだチェーンが飾られている。そんなデコレーションや、MCでも披露された学園モノ(?)のような演出を抜きにしても、tricotの音楽にある種の〈放課後感〉を感じることはたやすい。いささか集団行動が苦手そうな4人が、気ままに、でも真剣に音に向かった結果、とんでもないグルーヴが生まれてしまった──かっこよさを気取るのではなく、そのままの佇まいでかっこよさを見せることのできる、数少ないバンドだと思う。
このワンマンの前の週、新宿のライブハウスを縦断する大規模なイベントでトリを務めたtricotを観て、ぶっとんだ。テクニカルなギターワークと緩急のタメの効いたリズムセクションが絡み合う立体的なアンサンブル。ロックンロールの楽しさをここまで破天荒に、でもしっかりと轟かせるアクトは久しぶりだと感じた。
ソールドアウトとなったこの夜は、祝祭的なイベントでのアクトに比べて、より楽曲の魅力を堪能することができた。メッセージ色の強い「夢見がちな少女、舞い上がる、空へ」から「ひと飲みで」に続く冒頭の流れは鳥肌モノだったし、持ち味である性急なアグレッシヴさに加え、中盤でのミッドテンポの楽曲でも決して集中力が途切れなかった。
それでも結成から2周年を迎えたメンバーは「3年目は攻めて行く」と強調する。今のインディーギターバンドがとかく歌謡曲的なムード、あるいは洋楽志向へとそれぞれのベクトルに閉じていってしまうなか、湿っぽさが見当たらないtricotの描く少女性は、日本ならでのオルタネイティヴなロックを奏でるアーティストとして得難い存在だ。
本編ラストにプレイされた「slow line」中嶋の声の吸引力と繊細さがそれをもっとも象徴していた。ハチャメチャさだけでなく、喪失感をきっちりと伝えるために、これだけのエネルギーと複雑で丁寧なアレンジメントを費やす。それが彼らの真骨頂だと思う。
アンコールでは12月5日に発売される『バキューンEP』がリリースされること、そして12月10日に渋谷WWWでの自主イヴェント「爆祭」の開催が発表された。アンコールではその新作から「おもてなし」をプレイ。彼女たちの破壊的な音の塊がさらにソリッドに展開する、これからの活動にますます期待が高まる仕上がりだった。
ラストはメンバーとオーディエンス双方のダイヴ合戦で終了。全国流通になったのが5月にリリースされた6曲入りのアルバム『小学生と宇宙』なので、tricotには6曲しかないと思っている人がいるけれど……というMCがあったけれど、まさしく彼らのドライヴ感と楽曲のクオリティの高さはライヴで体感すべきだ。
Text : Kenji Komai
Photo : Ohagi