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OGRE YOU ASSHOLE "「浮かれている人」ツアー"

いい悪いは関係なく、最近、勝負を挑んだり、オーディエンスを煽り、面白いMCをし……言わば、音楽以外の力も味方にして満腹になって帰ってもらう、そんなライヴが多いことに、ほぼ真逆なこの日のライヴを観て気がついた。ニュー・ミニ・アルバム『浮かれている人』を携えての今回のツアー。意味を回避した文脈で、言葉になる以前の感覚を綴っているようなヴォーカル・出戸の歌詞はこの新作で、さらに醒めたアイロニーのようなものも感じさせ、ライヴがどんな展開になるのか、想像できない。

不安なワケではなく、不思議な緊張感の中、あまりにも何気なく4人が登場。冒頭から新作収録の「どちらにしろ」の奇妙なバックビートと獣の雄たけび（！？）をライヴでも再現（というか実現？）、現在のバンドの境地を軽くジャブとして打ちこまれた気分。続く2曲目もアルバムから「タンカティーラ」。じっくり聴き込みたいが、演奏の軽妙さであっという間に演奏が終わった気分（気分連発で恐縮だが、つまり呆気にとられていた）。以降はこれまでのアルバム、ミニ・アルバム、シングルから万遍なく演奏されていくのだが、オウガのバンド・サウンドはやたらスキマが多いのはご存知のとおり。リード・ギターの馬渕とベースの平出が、メロディとリズムの両方を兼ね備えたアレンジで緩急をつけることが、彼らの楽曲のどこか童話的だったり、日本の神話的だったりするニュアンスを具体化していることに気づく。ただ、もう出戸のあのハイトーンな素っ頓狂ヴォイスである。それは彼の資質なので、作為はないと思うが、どんなにアレンジの抜き差しをしても、眉間に皺が寄る、しゃらくさい音楽にならないのがいい。しかし同時にBob DylanやNeil Youngのような天性のロック詩人的なイメージも重なってしまう。本当に無二の存在だと思う。

さて、大仰という意味での深刻さのなさはそのままに、この日のライヴでは会場ごと異空間にさらわれる瞬間も何度か。中盤の「ネクタイ」のアウトロでのカオティックなアンサンブル、新作の中でも最もドキリとさせられる歌詞を持った「レースのコース」のこれまた、エンディング部の執拗なまでのリフレイン。悪意でも憎悪でもなく、純粋に音楽としての快楽を求めて生まれるループ感なのだと感じるのだが、そこは（言葉が悪いが）なんちゃってジャムバンドが己の快楽に任せて尺もポップネスも無視して、ダラダラ演奏するテンションとはワケが違う。カオティックになりつつも、どこかで第三者の自分が見ているような、特に出戸にはそんな姿勢が感じられた。とは言え、「レースのコース」のあと、この日唯一MCらしいMCをした出戸いわく、「『浮かれている人』というのは、自分のことだとは思ってなかったんですけど、ツアーを回っているうちに、浮かれているのは僕かもしれないと。でも、それも悪くないです」と笑顔を見せる。果たして真意は……。本編ラストのブロックでは、パッと聴き奇想天外だが、踊れるビートの「しらない合図しらせる子」「アドバンテージ」で、フロアは加熱。

そして本編ラストは新作の1曲目「バランス」が、カラフルだけど順調ではない（失礼）紙ふぶきの中、決して盛り上がれない歌詞なのに、感情は盛り上がっていく、妙なバランスを体感する……。分からないなら分からないまま、音楽そのものが放つメッセージを感じればいい。いわゆる不思議ちゃんとは断じて一線を画し、喜怒哀楽のスキマにある感情を気づかせるオウガ。アンコールの「真ん中で」が終わり客電が点いても鳴り止まない拍手。彼らの代替不可能さを実感させてくれたライヴだった。

Text : Yuka Ishizumi

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