2011.10.7 (fri) @ Daikanyama UNIT, Tokyo
andropのライヴというのは、まさにその音楽世界を全方位で体感するようなものだ。光と闇、生と死、喪失と再生──常に表裏一体かつ多面的な概念をテーマに描く歌と、ロックとダンス・ミュージックとポップスのミッシングリンクとなるサウンドの有機的な融合。そこに精妙なライティングや映像の演出を施すことで、楽曲の創造性とリスナーの想像性を果てしなく広げる。言わずもがな、ライヴではそこに迫真的な肉体性が加わる。9月にリリースされた1stフル・アルバム『relight』では、レコーディング中に発生した震災を経て、前述したバンドの本質的なテーマがあらためて強く浮かび上がり、最終的に揺るぎない希望を導き出し、メジャー・デビュー以降に重ねたライヴで得たダイナミックなバンド感をも刻みつけた。そんな記念碑的なアルバムのライヴハウスツアー『angstrom 0.4 pm』の中盤に位置づけられた代官山UNITでのワンマン。フロアに満ちるオーディエンスの期待感は、やはり特別なものがあった。その熱気こそが、andropというロック・バンドの音楽世界が、リスナーひとりひとりにどれほど深く浸透しているのかを如実に表していたと思う。
ライヴのはじまりを告げるSEが鳴ると同時にフロアから沸き上がる歓声とハンドクラップ。メンバーが定位置につき、ラフに音を重ねながら、内澤が「andropです!」と叫び、1曲目「Glider」へ。衝動と切なさが交錯するサウンド、サビのメロディで放出される開放感。絶妙なブレイクのタイミングで明滅するライティングによって生み出される光と影。一気にステージに集中するオーディエンスの聴覚と視覚。序盤の時点でスリリングなアンサンブルによって生み出されるオルタナティヴなサウンドのダイナミズムと、豊潤な感触をたたえたメロディのポピュラリティが、鮮やかな輪郭をもってフロアを包み込む。
過去作『anew』、『note』、『door』の楽曲をバランスよくちりばめながら、その基軸に『relight』の楽曲を置いたセットリストは、バンドが辿る進化の道筋をドラマティックに感じられるものだった。内澤はMCで何度も感謝を口にし、何度も「最高!」と叫び、また何度もフロアに密集するオーディエンスを気遣った。そんなひとつひとつの言葉に彼の誠実な人間性を感じた。
中盤、「Bright Siren」を皮切りに「Q.E.D.」、「Puppet」、「Tonbi」、「Basho」とつなげた展開では、視覚的な演出を研ぎ澄ませ楽曲の多面性をさらに前に押し出しながら、バンドの独創的なアート性を浮き彫りにした。
組曲のような趣のあるエレクトロ・ロック「Colorful」から突入した終盤では、生々しいバンド感が表出。そして、本編ラストの「Bell」と「Mirror Dance」の流れでフロアに充満した忘れがたい高揚感と幸福感。いまandropは、比肩なきライヴ・バンドとしての立ち位置を不動のものにしている。彼らはこのツアーでそのことを明確にしてみせたと思う。
そして、アンコールのMCで内澤はこのような言葉をオーディエンスに捧げた。「生きているといろんなことがあります。つらいこと、悲しいこと。音楽は人を幸せにするためにあるんじゃないかと思って僕は曲を作っているんだけど。大きな悲しみの前では何の役に立たないことがあるとも思い知らされて。でも、それでも歌を唄っていこうと思っていて。今日このライヴが、少しでもここにいる人たちの明日を生きる意味になればいいなと思っています」
andropの音楽世界は、そんな指針のもとに築かれている。
Text : Shoichi Miyake
Photo : Rui Hashimoto (SOUND SHOOTER)
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