2009.10.28 (wed) @ NIHON BUDOKAN, Tokyo
じつに9000人のオーディエンスで埋め尽くされた日本武道館。いろんな武道館の公演があったけれど、こんな自由なムードのライヴはなかったんじゃないかと思う。巨大な空間に生まれた一体感というよりも、9000通りの思い思いの楽しみ方が繰り広げられながら、しかもすべての人がなにか温かいものを共有していた。
ステージ上の、布やクッションなどが気ままに配置されたカラフルかつ手作り感あふれるセットもあって、ゆったりとくつろげるムード。これまでも様々なスタイルとミュージシャンを迎え活動してきたハナレグミだが、今回のライヴではギターに石井マサユキ、キーボード・皆川真人、ベース・真船勝博、ドラム・楠均、ブルースハープ・曽我大穂と、これまで以上に実力派のミュージシャンを迎えてのステージとなった。茶目っけのある公演タイトルと相反するような、決して派手ではないけれど、堅実なアンサンブルは、会場の雰囲気をじんわりと新たなハナレグミの空気に変えていたことは間違いない。
さらにこの夜は、さまざまなアーティストがゲストとして華を添えた。オープニングの「360」のあと、「あいのわ」「愛にメロディ」ではスカパラ・ホーンズ、「…がしかしの女」ではマダム・ギター長見順、「あいまいにあまい愛のまにまに」で登場したスチャダラパーのBOSEは、そのまま「Peace Tree」でAFRAと火花を散らし、アンコールの「光と影」ではストリングス、スペースドーターズによるコーラス、そして茂木欽一によるドラムが参加と、最新アルバム『あいのわ』のセッションと同じミュージシャンが次々に登場したのだ。しかしそうした構成は、決してアルバムの音を再現しようという意図ではなく、どんな音も入ってくることのできる場としてのハナレグミの核心を改めて表現したということなのだと思う。
「あいまいにあまい愛のまにまに」ではBOSEのラップとともに「今夜はブギーバック」をインサートしたり、アコースティックな「マドベーゼ」では「ハートに火をつけて」(しかもJose Felicianoのヴァージョンで)のメロディをなにげなく挟んだり、「明日天気になれ」では石井がTHE BEATLESやら「第三の男」のフレーズを加えたりする場面にも、音楽的な懐の深さが端的に伝わってきた。ハナレグミの弾き語りオンリーのライヴにある、何が出てくるか解らないスリルや、いつもカジュアルすぎて(いい意味で!)冗長になり気味のMCも控えめに、ラディカルな方法論も普遍的なソングライティングの魅力も、それらを全部飲み込んで、じっくりたっぷり、真摯な歌を聴かせてくれたのが本当にうれしかった。
Text : Kenji Komai