2010.11.12 (fri) @ Atlanta VARIETY PLAYHOUSE, Georgia
WOLF PARADEといえばカナダ拠点のインディ・ロック・バンドだが、いまやアメリカン・オルタナティヴの老舗レーベルSUB POPを代表する人気バンド。彼らの全米ツアー・サポートを務めるため、OGRE YOU ASSHOLEは初めて海を渡ることになった。
この"インディ・ロック"や"アメリカン・オルタナティヴ"は、ことオウガにも頻繁に使われる形容詞で、それ自体がひとつのブランドというか、熱心な音楽ファンに好意的な印象を抱かせる力を持っていると思う。いわく、モテたり格好つけるために活動しておらず、見た目は地味かもしれないが感受性の強い文学青年ふうで、少しトンがったセンスを持つ白人の若者たちに支持されている……というような。もちろん半分は事実だしオウガやWOLF PARADEは決して体育会系ではないのだが、実際アメリカ南部でのライヴを見て驚いたのは、それが一定層の白人カルチャーでは決してなかったことだ。
ジョージア州アトランタ。約1500人を収容できる会場には、寄り添いながら酒を飲む老婦人がいて、ダンサーのように元気な黒人のおばさんがいて、やんちゃな十代の集団も落ち着いた大人のカップルも、同じような笑顔を浮かべて談笑している。彼らの目当てはメインなのだろうが、気づけば視線はオウガに釘付けになり、最後には惜しみない拍手と大歓声、そして物販の音源に対する購買欲をすっかり引き出されていたようだ。いわゆる故郷懐かしさで顔を出すような日本人がまるで見当たらなかったことも興味深い。
また、4人のメンバーは本当に落ち着いたもので、小さなクラブでもフジロックでも初のアメリカでも変わらない感覚で挑んでいるように見える。対アメリカ、対オーディエンスというような対抗意識が希薄なのかもしれない。空気や電圧が違うためギターの鳴りはばっちり最高だが、それは観客に突き刺さるというよりも、ステージの真ん中で膨らんで異次元へと広がっていくよう。聴き手はそこに興味を惹かれ、一見愛らしいメロディにつられて耳が前のめりになり、次の瞬間から完全に意識を吸い取られてしまうのだ。
"ステージ"から淡々と幕を開けた今回のセットリストも、まさに気づけばディープなところにまで持っていかれるという感じ。「バランス」や「タンカティーラ」などの新曲はさらなるアレンジが施され、ポップさの裏にブラックホールが渦巻いているような、得体の知れない恐怖すら感じるものになっている。まさにサイケデリックの陶酔。それでいて全曲が妙にユーモラスで、たとえばオルタナも文学青年も関係ない黒人のおばちゃんをガンガン踊らせてしまうほどファンキーでダンサブルなのだ。ポップ。ファンキー。ディープ。相反するこれらの形容詞はすべて半分正解だが、どれだけ語っても全部を言い当てた気がしない。彼らのサウンドは、つまりは恐ろしく多面的なのだ。
年齢も生活環境もバラバラに見えるアメリカ人たちの豊かな笑顔を見ながら、当たり前のように「インディ・ロックの血筋云々」と言い続けてきた自分を少し恥じてしまう。「オルタナ直系」のブランド力とは、逆に言えば不親切で乱暴な断定の言葉に過ぎないだろう。OGRE YOU ASSHOLEの音楽は、そういうレベルで語るものでは全然まったくない。彼らの可能性はほんとうに全世界に向かって広がっているのだと、改めて気付かされた夜だった。
Text : Eriko Ishii
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