2012.10.28 (sun) @ Shinkiba STUDIO COAST, Tokyo
それにしても、音楽ソフトが売れないという状況が叫ばれる現在でも、しっかりヴァイナル7インチを出す心意気、音楽への惜しみない愛情には頭が下がる。「バンドとレーベルが対等」と言ってはばからないカクバリズムの10周年スペシャルツアー、大阪、名古屋を回ってのSTUDIO COAST公演のオープニング、真昼間の15時に現れたのはゲストのTUCKER。
エレクトーンの上にジミヘンばりに火を放つ「TEQUILA」など、ひとり多重録音という作風は変わらないまま、明らかに強力になっている。キセルのサポートでもおなじみのエマーソン北村との7インチが予定されているとのこと。
続きサブステージのゲストはサイプレス上野とロベルト吉野。5周年でも出演した彼らは「宙ぶらりんだった俺たちを救ってくれた」と謝辞を捧げながら、ぬかりないマイクさばきを披露。
間髪入れずメインステージではレーベルの若きホープ・片思い。ストレンジでチャーミング、全てが均一になった世界でのワールド・ミュージック感をたたえた、まさにカクバリズムの遺伝子を受け継いだバンドだ。「踊れ!洗濯機」は明らかに新しい時代のアンセム必至。
そしてCEO角張氏の「disk union下北沢店のバイト時代からの最高の友人」という呼び込みからMU-STAR GROUP。生ドラムとVJを含む編成により、ドラムンベース、ヒップホップ、ハウス…ダンス・ミュージックの旨みを凝縮したプロダクションは、この大バコでも映える。
10月24日にニューアルバム『My Lost City』(スコット・フィッツジェラルド!)をリリースしたばかりのcero。「カクバリズムの末っ子、鉄砲玉」と自ら名乗るだけあり、若さに似合わぬ(失礼!)成熟した音楽性のなかに、多幸感、インテリジェンス、そして野心をたっぷりと感じることができた。とにかく音のなかにある輝きは、進化のただ中であるバンドのポテンシャルを伝えるに十分。
そしてイルリメこと鴨田潤とTraks Boysによるシティ・ポップ・ユニット(((さらうんど))) が登場。佐野元春「ジュジュ」の疾走感たっぷりなカバーを含むセットで、キラキラとした音像はアチコ嬢のコーラスとの息もぴったりだった。歴代のスタッフに感謝の意を伝える鴨田氏の心配りもさすが。鳴っている間だけでも違う風景を共有できるもの、と音楽の意味を彼が語る通り、 (((さらうんど))) の音の絵の立ち現れ方は半端なかった。
そして「世界に胸を張って出せる」とCEOが太鼓判を押す紅一点、二階堂和美がアルバム『にじみ』を共に制作したにじみバンドとともにステージに現れる。歌のモデルとなった角張氏を前に歌われた「説教節」に拍手喝采。全身全霊で歌う彼女とその呼吸とぴったり寄り添うバンド。そしてバラ色の世界を求めることを恐れないニカさんのバイタリティに圧倒された。
さらにキセルのゆるくもタフなアンサンブルをこの夜目の当たりにして、彼らはボン・イヴェールを始めとする世界的な新しいシンガー・ソングライターの潮流を先取りしていたのだと再確認した。宅録・エレクトロニカの音のテクスチャーを多分に含んだ静謐な音、ゆったりと、心が澄み渡る歌声が響く。
そういえば、転換の間もウィルコ「kamera」など、すてきなセレクトの楽曲が流れていたけれど、この日配布された10周年記念小冊子でこの10年聴いた音楽として角張氏がウィルコの全アルバムを挙げていて、なるほど、カクバリズムのオルタネイティヴな感覚はここにもヒントがあるのだな、と思った。
いまやインディー・シーンのみならずあらゆる方面からその動向が注目されるSAKEROCK。この日はベースに吉田一郎(ZAZEN BOYS)、ギターに辻村豪文(キセル)、キーボードに池田貴史(レキシ)そしてストリングスを加えた豪華な編成で、「MUDA」をはじめこれまでのナンバーを新たなアレンジでプレイ。バンドの新たなモードを予感させるパフォーマンスで、最後に星野源、伊藤大地、浜野謙太3人だけで「インストバンドの唄」で締めくくった。
トリを務めるYOUR SONG IS GOODのサイトウ "JxJx" ジュンはカクバリズムを「世界で2番目にかっこいいレーベル(1番目はディスコードかLESS THAN TV)」と形容する。レーベルとともに歩み続けた彼が、祝祭的なイメージをあえて封印するかのようなストイックな演奏に、フロアもダイブが続出。とりわけラストに演奏した新曲が、アニマル・コレクティヴ、バトルズを思わせるトライバルなビートが印象的で、レーベル10周年といいつつも、決して後ろ向きではないアティチュードを感じさせた。
ラストに出演アーティスト全員が舞台に現れ、角張CEOみずから披露したファウンデーションズ「恋の乾草(Build Me Up Buttercup)」のカバー、いなたくて良かった!「また街のライヴハウスで会いましょう」という言葉も含め、音楽と生活が密着した、実にカクバリズムらしいアニヴァーサリーだった。
Text : Kenji Komai
Photo : Tomoya Miura