2011.11.30 (wed) @ LIQUIDROOM ebisu
前回レポートした公演は、ホール・ツアーの初日。クラシカルな荘厳さを湛えた──いわゆる“劇場”という名に相応しい場での凛として時雨の演奏は、そこに音楽劇を呼び込むくらいの、豊かな音の色彩と感情の幅を見せてくれた。そして今回は、ライヴハウス・ツアーの最終日。もちろんそこには、ホール・ツアーとはまったく違った音楽的シナリオが描かれていた。だが、かつて観たライヴハウスでの音楽的シナリオとも異なっていた。確かに凛として時雨なのだが、今まで観たことのない時雨がそこには存在していたのだ。
一気にテンションのリミッッターを解除する感じでスタートした「nakano kill you」。衝動の深部で起伏する叫びを何のフィルターも通さずに吐き出すTKのヴォーカルは、その起伏に突き動かされるかのような動きと共にプレイされるギターと共犯関係を結びながら、衝動の詩を揮発させる。勢いのままにモニターの上にのぼる激しい動きを見せる345は、TKとの歌の掛け合いでは見えない火花をスパークさせ、ベースプレイでは自在な音の動きを体現することで、音の行方を不確かなものとしていく。手数的には雄弁だが芯においては寡黙にリズムを刻むピエール中野も、男気ある感じで2人のやりとりを引き受けつつ、やりとりの熱を上げることには容赦ない。以前TKはソロ・インタヴューで「構築美とかそういうのを見てくれる人もいるんですけど、僕は構築をあまりうまくできる人間ではないので、その時その時の欲しい音を入れていくだけなんです」と話していたが、この日の3人は、まさに「その時、その時」に宿る音を優先させていた感があった。そう考えると、ライヴの前半の4曲が2ndアルバム『Inspiration is DEAD』とミニアルバム『Feeling your UFO』からの曲で構成されていたのも納得するしかない。あまりにも無防備だった頃の自分たちを、曲の中から引き出す感じで……。
中盤パートは、1stアルバム『#4』から4thアルバム『still a Sigure virgin?』まで網羅した楽曲構成。しかしこれまでに体験したことのなく、かつ今後も体験しないであろう瞬間にフォーカスしていく3人のプレイは、時に鋭い刃物で鼓膜の薄皮を削りとり、時に小刻みに震える鈍器で脳髄を刺激しながら、馴染みの楽曲にデモーニッシュとすら思わせる景色を与えていく。つまりこのライブでは、すべての曲が新しく聴こえていたのだ。
厳密な意味での新曲は、中盤パートの折り返し地点にプレイされた、まだ名もない楽曲のみ。サビにはポップな彩りさえ感じさせるその曲は、メロディの奥底に美しき憂いを忍ばせ、ラストのギターの1フレーズでその美しさをすべ吐き出す。その経験したことのない楽曲の展開は、『still a Sigure virgin?』とは違う地平にバンドがあることを示していた。
終盤への入口となる、ピエール中野によるMC&ドラム・ソロのコーナーでは、最近の定番でもあるギターの弾き語りで、湘南の風を新しく披露するなど、コール&レスポンスも含め、回を重ねるごとにお楽しみの幅が広がっていく感じであったが、ドラム・ソロのひりひりする熱量の高まりは、再びあの即興詩のような空間へ我々を誘い、感情の濁流のままに自動書記されていく「JPOP Xfile」、「Telecastic fake show」は、カオスへの通路を開いていくばかりであった。
ラストはさいたまスーパーアリーナ公演(2010.4.17)でも最後に奏でられた「傍観」。あの時と同じく残酷な赤をまとった光の中で奏でられる曲は、やはり今この瞬間の「傍観」となって響いてきた。1年半前の赤が深みのある残酷さだったのに対して、この瞬間の赤は鮮やかな残酷さを暗示していた。
2012年は結成10周年の凛として時雨。この日のライヴは、原点回帰というより、1周した後に別の軌道へ乗りはじめた瑞々しいまでの烈しさを、その音楽に滲ませていた。
Text : Kaoru Abe
Photo : Yuki Kawamoto
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still a Sigure virgin? 凛として時雨 | ![]() | film A moment TK from 凛として時雨 |