髭(HiGE)から突如届けられた前代未聞のワン・ソング・アルバム『Electric』。6月に開催された川崎CLUB CITTA'でのCLUB JASONにおいてもその一部が披露されたが、その引き延ばされた浮遊感とも言えるディープな世界が今回のリリース・パーティーでどのようにステージで表現されるのか。
まずおもむろにうさぎのマスク姿のDJシラフが登場。そのあとにメンバーも登場し、〈このメッセージ聞こえるかい?〉というボーカルのループとともにゆるやかに「Electric」がスタートする。シンセの音、口笛、キラキラとしたギターが加わり、さざなみのように音がうちよせては返す心地よさがわき上がる。開始時の編成は、コテイスイのドラム、宮川のシンセベース、DJシラフを挟んでフィリポのカオスパッド、それに斎藤のギター、そして須藤がゆらゆらと踊っている。このヒプノティックなグルーヴにようやく須藤のボーカルが加わると、グッとその音がファンタジックな色合いを強める。クラウドで埋め尽くされたリキッドルームのフロアには、前方に加え後方の二つの隅にもスピーカーが取り囲むように据えられている。ときおりサラウンドの効果により、コーラス、子供の声といった上モノがフロアをグルグルと回り、やわらかくサイケデリックな感覚を増幅させる。
次第に音の層が重ねってアンサンブルがビルドアップされていくのに続き、コテイスイとフィリポが中央のパーカッションに持ち替える。そこでのふたりの丁々発止のパーカッションのバトルが、ゆるさのみならずほのかにスリリングな空気を呼び起こす。こうした楽器を巧みに変化させながらプレイを続けていったり、フィリポが拡声器を持って前方に飛び出していくというのは髭(HiGE)のお得意のパフォーマンスのスタイルであるが、楽曲そのものが解体/再構築された「Electric」においては、その自由度はさらに広がっているように感じる。
楽曲も中盤に入り、須藤が自らの声をサンプリングしたキーボードをプレイ。コテイスイとフィリポがドラムセットに戻り、ダンスホール的リズムとノイズとともにカオティックな渦を巻き起こす。須藤もまたパーカッションを叩いたり、フィリポの変わりにドラムセットに座ったりと縦横無尽に動き回る。永遠に続くと思われたその混沌が突然終わり、再びバンドの肉感的な音の塊と打ち込みのクールネスが交錯した世界が広がる。ここに至ると、最初はわずかにとまどいを覚えていたようなフロアも例えようのない高揚感に包まれている。単にリミックス楽曲を再現するという次元を超えた、髭(HiGE)というバンドのタフネスと実験精神が存分に発揮された、桃源郷のようなたおやかさを持つ楽曲。気が付くと40分があっというまに経過していた。
10分間の休憩を終えての第二部、「今日は仮装パーティーだよ」という言葉通り、ナント須藤が金太郎の格好で登場。ここからはロックンロールでオルタナティブな髭(HiGE)の時間、ということで「ロックンロールと五人の囚人」「ハリキリ坊やのブリティッシュ・ジョーク」「ギルティーは罪な奴」と立て続けにプレイ。途中、うだるような暑さのこの日にふさわしい、フィリポのドラムによるインディーズ時代の「サマータイム」というレアな楽曲をクッションに、その後も「ブラディーマリーに気をつけろ!」「黒にそめろ」「溺れる猿が藁をもつかむ」本編の最後を飾る「ダーティーな世界」まで、サービスしすぎ?なくらいアッパーな楽曲をぶちかまし終了。先ほどのとろけそうな気持ちよさに溢れた一部とのギャップがなんとも痛快であった。
アンコールで演奏された新曲「夢でさよなら」も、彼らのオルタナ感は後退し、芳醇なポップセンスがその色気のあるメロディにみなぎる、またしても会心のナンバー。予定外の2回目のアンコールにも応え、途中やり直しをしながらも「ハートのキング」を鳴らしてくれた5人の姿には、現在の髭(HiGE)のエクスペリメンタルな姿勢とポップマーケットに打って出るやんちゃな勢いにより、さらにはオーディエンス/リスナーを巻き込みながらの共犯関係が高い次元で結実している、そんなことを超満員のリキッドのフロアで感じてしまったのだった。
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