PREMIUM:ココにしかないレアなオリジナルコンテンツが満載!

穏やかな日差しのように、日常にフィットする音楽を聴かせるAtsushi Horieによるソロ・プロジェクト、ent。エレクトロやソフト・サイケ、ギター・ロックといったテイストを持つ打ち込みのサウンドをポップにまとめ上げた1stアルバム『Welcome Stranger』をリリースする彼に、このプロジェクトがいかに生まれたのかを聞いた。
Welcome Stranger / ent
PRECO-006 1890yen (tax in)
2009.2.18 on sale
  1. No Tone
  2. Sleeping Ghost
  3. Will
  4. Do Not Adjust Your Set
  5. Girl
  6. Silver Moment
  7. Farewell Dear Stranger
<ent インタヴュー>
――entはどのようにスタートしたユニットなんですか?
ent:
日々の生活のなかで、例えば家でソファーに座ってギターを爪弾いてる時にふとわいてきたアルペジオのフレーズとか、メロディとかがあって。そういう、弾いてるだけで自分でも気持ち良くなるメロディや曲の断片みたいなものを記録していってたものがだんだん溜まってきたので、これを曲にして録音したいなと思ったのがきっかけです。
――いつごろから作り始めたんですか?
ent:
去年の5月くらいから始めて、出来上がったのは11月ですね。半年くらいかけて、ほんとに空いた時間にやってました。アイディアは3年前くらいからあったんですけど。結構腰が重いんで、動き出すまでに時間がかかるタイプなんですよ(笑)。
――3年越しの作品なんですね。それをバンド形式とかじゃなく、1人でやろうと思ったのは?
ent:
結果的にそうなったかはわからないんですけど、ローファイな音が好きなんですよ。優しさのなかにせつなさがあったり、柔らかい日差しが感じられるような音が。作ってる時もそういう、映画のDVDとか観ながらなんとなく鼻歌を歌ったりとかっていうリラックスした状況だったので、当初は、あんまり肉付けしないシンプルなものにするつもりだったんですよね。
――紙資料には、影響を受けたアーティスト名がたくさん書かれてますね。
ent:
そこに書いてあるのってほんとに僕が日常聴いてる音楽で、これはまさにそこからインスパイアされて出来たものなんです。
――確かに、その影響がストレートに感じられる音ですよね。でもちゃんとオリジナルなものにもなっていて。
ent:
実際に聴いてたものは本来もっとアンダーグラウンドな音楽なんだけど、自分が作ったメロディはすごくポップだったし、そういう、自分から素直に出てきたものを作りたいなと。
――でも、自分が受けた影響をそのまま反映した音楽を作品にするのって勇気がいることじゃなかったですか?
ent:
そうですね。でも、人とのつながりの中で進んでいったプロジェクトなんで、わりとすんなり出来たんですよ。まずは、高円寺にライナス・レコードっていうレコード屋さんがあったんですけど、そのお店に僕がよく普通に買い物に行ってて、お店の人と親しくなって。今はオンラインだけになっちゃったんですけど。で、僕がお店の人に、こういうことやってるんだけどって話したら、そのレコード屋がやってるPrecoっていうレーベルからぜひ出しましょうってことになって。あと、今までも関わりのあったレコーディング・エンジニアの人が偶然高円寺に住んでて、その人もライナス・レコードに足繁く通ってたんですよ。そこでまた意気投合して、それはおもしろいからぜひやらせてくれって言ってくれて。で、そのエンジニアの家で、宅録でレコーディングして。セミダブルのベッドがほぼ占拠しててる6畳か7畳の部屋の片隅にプロトゥールスとミキサーがあるんですけど、そこでかなり無理な姿勢でギター録ったりとか(笑)。で、ラインで録るものは大丈夫なんだけど、マイクで録るもの、アコギとかヴォーカルとかは外の音が入っちゃうんで、車が通ったらダメだし、その時はお風呂の換気扇とか冷蔵庫も止めてやってました。
――ほんと宅録の手作りの感じですね(笑)。
ent:
仕事はプロなんですけどね(笑)。
――たしかに(笑)。そういうやり方でやってみようと思ったのはどうしてなんですか? スタジオで録ることももちろんできたと思うんですけど。
ent:
まあ、スタジオ使ったらお金もかかるし、録り始めた時は自分の中でまだ作りこめてなくて、作業しながらいろいろ試し試しやってたところがあるんですよ。曲もちゃんと出来上がってたわけじゃなくて、その場でなにか思いついたら展開させたりして録っていったんで、結果的にそういうやり方が良かったのかなと。
――出来上がった音源はきちんと作り込んだ感もあるし曲のヴァリエーションもあって、完成度の高いものになってますよね。
ent:
作りながら、完成度を上げよう上げようとして、結果的に懲りすぎたかなとは思ってるんですけど(笑)。もっとローファイになるかなと思ってたのに。ほんと、やりきりました(笑)。自分の中でも愛聴盤になってるんで。
――とはいえ、他にもバンドやられているので、アウトプットばかりになってしまうっていう苦しさはないですか?
ent:
いや、これに関しては出すっていうより、自分で作りたかったし、聴きたかったんですよね。鼻歌で記録しただけだと満足しきれなかったっていうのが一番かなと。
――今自分が聴きたい音楽を、自分で作りたくなったっていうことなんですね。
ent:
そうですね。他でやってることは、そっちはそっちで出すべき音とかやるべきこと、自分がそこでやりたいことっていうのは明確にあるんですけど。でもこのentでやったような音楽も好きなんで、どっちもやりたいと思ったっていうことなんですよね。
――それはホリエさんの中にある幅みたいなものなんでしょうね。
ent:
ロック・ミュージシャンの人で趣味が釣りって人も多いと思うんですけど、このentはもしかして、その趣味の釣りなのかもしれないですね。釣りもストイックにやるもので、すごくしんどいところもあると思うんで。そういう意味では釣りに近いかもしれません(笑)。
――さきほど、ソファーに座って出来たと言われてましたけど、まさに聴くほうもそうやってリラックスした状況で聴く音楽というか、すごく日常にフィットする音楽だと思いました。
ent:
中に入ってる音も、日常の雑音をサンプリングして使ってたり、電車の音を入れてたりして。そこで温かみとか生活感みたいなものが出ればっていうのはあったんですよね。元々そういうものは好きだったんですけど、最近になって自分でもやりたい気持ちが強まったんでしょうね。歳をとってきて(笑)。パーソナルな世界っていうか、そういうものをもっとちゃんと表現したいっていうか。
――とはいえ、entの音楽って個人的な世界に偏りすぎてないというか、きちんとエンタテインメントしていますね。
ent:
たぶん、エレクトロをベースに、こういう歌が入っててアコースティックの楽器を取り入れてっていうアーティストは他にもいると思うんですけど、そことはまた違った音楽なんじゃないかと思うんですよね。生楽器の音をベースに、エレクトロの要素をミックスしていくっていうか。
――歌詞は今回英語詞でしたけど、何かテーマはありました?
ent:
どっちかっていうと、絵本見てるような感じというか、絵本ってあんまり感情移入して見ないじゃないですか。ああいう感じ。まあ泣けちゃうやつも中にはありますけど。自分にとってもそういう感じで、すごく断片的なイメージの集まりというか。
――ドラマっていう感じではなく。
ent:
あまり何も考えずに描いた絵みたいな感じです。ほんと何も考えずに、近くにある絵を見たまま説明した内容だったり、映画のセリフだったりとか。メロディとかもほんとに作りこまずに作ってて。そこに人間を出さないというか。
――このユニット名からもそういう印象を受けたんですけど、匿名性みたいなところを意識されました?
ent:
作り手のことを考えずに、意識せずに聴けるものにしたかったんですよね。僕自身が音楽聴くときも、歌詞とかもあんまり読まないし、どんな人かっていうのもまったく知らずに聴いてるものがいっぱいあって。もう、今年一番たくさん聴いたアルバムの一枚であってもそういう感じで、あとになって日本人だって知ったりとか(笑)。
――この「ent」っていうユニット名の由来はどういうところから?
ent:
『ロードオブザリング』に出てくる木の種族の名前なんですよ。『ロードオブザリング』が好きなんで(笑)。
――なるほど(笑)。あと、ジャケット写真なんかはオーガニックなイメージで、素敵ですね。
ent:
これも、前から知り合いだった洋服のデザイナーさんがいるんですけど、その人が、やりたいって言ってくれて作ってくれたんですよ。こっちからはあえて何もリクエストせずに、丸投げで。そうやって上がってきたものが、意外とホンワカしてて(笑)。ロバの親子のほっぺたの間に入りたいですね(笑)。
――(笑)気持ち良さそうですね。先ほど、すごく満足してるとおっしゃってたので、きっとこのユニットは続いていくんでしょうね。
ent:
また3年くらい溜めないと無理なんですけどね(笑)。でもまあ、必要にかられてやってるわけじゃないし、ほんとに趣味なので、自分の一面として元々持ってたものをこうやって形に出来たし、まったく知らない人と共有できるものでもあると思うので、すごく嬉しいですね。それに、これをやったことで改めて、音楽って深いな、おもしろいなと思ったんですよね。そういう意味でもほんとに良かったと思います。
   
ent
東京在住の男性アーティストAtsushi Horieのソロ・プロジェクト。そのデビュー・アルバム『Welcome Stranger』では、ヴォーカル、ギター、シンセとほぼすべてのパートを一人で担当。Styrofoam、Go Find、PostalService、Plus/Minus、American Analog Set、Pinback、Why?、Yuppie Fluといったアーティストたちから受けた影響を感じさせながらも、ポップでいてソフトなサイケ感を持った、独自のサウンドを展開している。
ent Official MySpace
http://www.myspace.com/entjp