<SPECIAL OTHERS Interview>
──昨年から、それこそPerfumeからYOUR SONG IS GOODまで、かなりの数の対バンをやられてきましたよね。
宮原:
そうですね。なかでも僕の印象に残っているのはサンボマスター、それから9mm Parabellum Bulletとの対バンですね。
芹澤:
あと、スピッツとの対バンっていうのはまったくの異世界で、あそこまで確立したバンドとのライヴは初めてだったんで印象深かったです。
宮原:
対バンでのライヴは“こういう曲が受けるんじゃないかな?”って勝手に想像してセットを組むんですけど、プレイに関しては、意識の変化があって。以前はロック・バンドとやるなら、ロック・バンドに近づくような強い演奏をしてたんですけど、ある時、それは違うな、と。俺たちには俺たちのカラーがあるし、俺たちの演奏をしないとお客さんも応えてくれなくなるんだろうなっていうことを、他のバンドから体で覚えさせられたんですよ。だから、弱い曲はホントに弱く、強い曲は大胆に強く演奏することでSPECIAL OTHERSのカラーを定めていった、そんな1年でしたね。
──そうした意識の変化は1曲1曲の濃度を増した今回のアルバム『PB』にも大きく反映されていますよね。
又吉:
そうですね。言ってみれば、作品に深みが出てきましたよね。
宮原:
自分たちがどういう畑にいたのか気付かされたから、俺たちの出所を意識させる作品になっていると思いますね。次の作品ではやっぱりポップなほうがいいじゃんって思うかもしれないですけど、これが今の俺たちが自信をもって打ち出したいものであることは間違いないですね。
──つまり、SPECIAL OTHERSはジャム・バンドであるという原点にいま一度立ち返った作品である、と。
芹澤:
そうですね。そうやってルーツに立ち返って、アルバム完成当初は「渋い作品だな」って思ったりもしたんですけど、車で聴いているうちに、「本来の姿に立ち戻っても、ポップなものはやっぱりポップだな」って。だから、SPECIAL OTHERSの本質にポップなものがあることがボディ・ブロウのようにじわじわ利いてくるアルバムなのかもしれないですね。
──個人的には、多彩なインプロヴィゼーションが曲にヴァリエーションを与えていると同時にメロディやフレーズのポップさが際立ってる印象を受けました。
又吉:
ヴァリエーションに関しては、自分たちでも付けようと思っていて、それはDJの感覚に近いのかもしれない。まず1曲あって、「その次に何が聴きたい?」っていうところで、もう1曲作っていくので、結果として、それがヴァリエーションに繋がっていくっていう。
──4曲目の「SPinWednesday」の後半部ではベースとなっている16ビートのリズムに4つ打ちのリズムがフェード・インしてくるじゃないですか。あのパートもすごく自由というか、ある意味でDJ的な感覚なのかなと思ったんですが。
宮原:
あの箇所って、鍵盤とドラムが曲に当てはまってないんですよ。だから、理論とか曲構造にうるさい人からすると、あり得ないって思われるかもしれないんですけど、その代わり、不思議な混沌さが出るんです。あのパートではそういう混沌感を意図したんですけど、まぁ、それは確かにDJ的と捉えられなくもないですよね。
──一方、7曲目の「Potato」はオーセンティックなレゲエ・チューンですね。
宮原:
あの曲はスタジオでお腹が減って、某ファースト・フード店でポテトを買ってきて食べていたら、芹澤が「ポテトが揚がる音って、こんな感じだよね」って弾き始めたフレーズに音を合わせていくことで発展していった曲で。やっている最中に「レゲエっぽい感じがいいね」って話になって、言ってみれば、資本主義の象徴であるファースト・フードのポテトとレベル・ミュージックの象徴であるレゲエが融合したっていう(笑)。
──ははは。ユニークな曲の作り方ですね。
芹澤:
俺らって、音楽物心が付いたころにはサンプラーがすごく安い値段で手に入って、そういう機材で遊んでいたので、日常からのサンプリングみたいな感覚はありますよね。
宮原:
今の人って、真似することを嫌うじゃないですか。でも、音楽って、「小鳥の鳴き声を出したい」とか、そういう真似から始まってると思うんですよ。だから、そういう音楽の作り方は大事にしてますね。
芹澤:
あと、10曲目の「sunrise」のレコーディングもおもしろかったよね。
宮原:
あの曲はマイク2本で録ったんですけど、そうすることで空気感が出るんですよ。で、そのやり方ですごい寒いなか、鼻水垂らして外で録ったりもしたんですけど、結果的に採用されたのはあったかいスタジオで録ったテイクだったりして(笑)。でも、その寒いなか録ったテイクをお蔵入りさせるのがイヤだったんで、今回、アルバムに封入されているスペアザ・マネーで交換できるようにしたんです。
──そういうレコーディングの手法に関して、選択肢はいろいろあると思うんですけど、それに対するSPECIAL OTHERSのスタンスは?
柳下:
基本的に一発録りを基本として考えているので、アルバムの制作でできることって限られているんですけど、楽器の鳴りにはとにかくこだわっていますよね。
芹澤:
構築的に作っていくことはないんですけど、2個のスピーカーをいかに鳴らすかっていうところをエンジニアさんとこだわっているという意味で、レコーディング技術を極めていますよね。今回はデジタルで録ったものを1回アナログを通して、またデジタルに戻すっていう作業もやっていますしね。
──ジャム・バンドの主体であるインプロヴィゼーションは、プレイヤーの手癖を避けるべく創造力が必要かと思うんですけど、そういう創造力のフレッシュネスをキープしながらバンドを続けていくには?
宮原:
普通のバンドだったら、同じコード進行の曲は避けると思うんですけど、あまりに似すぎている時はNGにするものの、基本的に俺たちは気にしてないですね。例えば、よくあるラーメン屋があるとしたら、「あのラーメン食べたいな」と思って食いに行くわけじゃないですか。でも、ラーメン屋って、その味を維持しているようでいて、じつはその日その日でちょっとずつ味を変えている、みたいな話を聞いたことがあるんですけど、俺たちもそういう感じ。「スペアザを聴きたいな」って思って聴いてもらえるようなバンドになりたいんです。だから、変化はちょっとずつでいいんですよ。「ラーメンやーめた!」って言って、カレー屋さんになる日もいつか来るのかもしれないですけど、今って、バンドがたくさんいるから、「前のアルバムがこうだったから、次のアルバムは全く違ったロックなアプローチで攻めるぜ!」ってことをやらなくてもいいんじゃないかなって。ロックが聴きたいんだったら、別のバンドを聴けばいいんです。
芹澤:
そういう変化も心境の変化の結果論だと思うんですよ。自分たちの中では「カッコイイ!」と思える曲をやっているだけであっても、いろんな経験がラーメン屋でいう味の微妙な変化に繋がって、その結果として俺たちの作風もちょっとずつ変わっていくっていう。それが理想形であり、現在のSPECIAL OTHERSなんじゃないかと思っていますね。
