<THE QEMISTS ダン・アーノルド & リアム・ブラック インタヴュー>
――初来日だけど、東京・大阪でライヴしてみてどうだった?
リアム:
ほんともう最高だったね。とくに大阪がすごかった。ひとりすごくモッシュしてるオーディエンスがいて、あまりに激しかったからフロアからステージに投げられたのが、そのままドラムキットに突っ込んで、マイクとかなぎ倒したのも最高だったよ(笑)。日本人のファンは楽しみ方をわかってるよね。人生でいちばんいいライヴができたと思うよ。
――13歳からこの3人でバンドをやってきたようだけど、アーティストとして1stアルバムを自国のみならず、海外でもリリースして、こうしてツアーで日本までやってきました。これまで長い道のりでもあったと思うけど、今の環境になって率直な感想は?
リアム:
驚くくらい最高な状況にあると感じているよ。日本に来れたのもそうだしね。何年もかけてここまでたどりついたから、決して一夜でこうなったわけじゃないんだ。
ダン:
ただ、日本に来てからあまりに色々な興奮するようなことが立て続けに起こっているので、正直サイコーなんだけど実感が追いついてないんだよね。きっと家に帰ったら、じわじわと実感が湧いてくるんじゃないかな。楽しみながら前進することだけを考えてきたので、こうやって仕事として日本に来れたのは驚きだし、これからも前進し続けるよ。
――アルバムのサウンドの方向性についてだけど、RED HOT CHILI PEPPERSやRAGE AGAINST THE MACHINEなどのロックやラウド・ミュージックが好きなキッズだったのにどんなきっかけでドラムンベースや打ち込みのサウンドに興味を持ったの?
リアム:
自分たちが17、8歳の頃、98年くらいなんだけど、3人とも音楽の学校に通っていて、そこでミュージック・プロダクションやプロデュースの勉強をしているときに、ドラムンベースと出会ったんだ。ドラムンベースが持っているパワーがロックと共通していると感じて、そこからぼくらはバンドで演奏しながら、トラック作りやプロデュース業も同時進行するようになっていったんだ。そういう意味ではロックの代わりになり得るものと言えるよね、ドラムンベースは。
ダン:
クラブに遊びに行くようになったのも、ドラムンベースにのめりこむきっかけになったかもね。ぼくもロックと同じエナジーを感じたんだ。スピードとかBPMとか共通項がいくつもあるからね。ぼくらの住んでる英国南部はドラムンベースのシーンが熱くて、そういう意味でもいい土壌がそこにあったから、自然と自分たちの中に吸収していったんだ。
――曲作りの方法は…PCに向かってトラックから作る? それともギター片手にリフやフレーズから作る?
ダン:
どちらもだね。ベースラインから始まるときもある。各々がアイデアを持ち寄って、それをどう発展させていくかを話し合いながら進めていくのが基本的なパターンかな。スタジオでリハーサルしながらセッションするというよりは、個々が自宅でネタを考えることが多かったんだけど、最近はリハーサルする機会が増えてきたんで、そこから生まれるアイデアも盛り込んでいるよ。
――ライヴを見てて思ったけど、曲作りやトラック作りの時に、既にライヴのことを想定して楽曲を作ってる?
リアム:
(音源とライヴは)完全に別に考えていて、これはライヴでできなさそうだから音源にしちゃいけないとかもない。そういう制約を設けたくないから、音源を先に作って、あとからライヴで再現できるかどうかを考えたりするんだ。
――ドラムンベースのビートにラウドなギターを乗っけてロックするというサウンドは90年代後半にTHE PRODIGYやATARI TEENAGE RIOTなどが既にやっていて、THE QEMISTSもこの時期にドラムンベースのビートをバンドに取り入れたようだけど、時代は流れていて、今また、この手のサウンドを出すバンドが増えて来たように思うけど、THE QEMISTSならではのサウンド作りや工夫している部分とかはある?
ダン:
確かにその90年代のバンドは聴いてきたし、影響も受けてきたよ。その影響をさらに自分たちなりの解釈でまた新しく表現していると思うんだ。ぼくらはほとんどサンプルを使わないで、すべてのパーツを自分たち自身が演奏して作っているから、似ようにも似ることができないんだ。今回のアルバムにしても、ほかのバンドよりも曲のバリエーションと影響を受けたものが広いと思う。それこそ、テンポだけでもBPM90くらいのものから170くらいのバリエーションがある。
リアム:
90年代のバンドたちもおもしろいことをやっていたけど、自分たちはさらにモダンで斬新な手法を使っていると思うし、彼らは彼らの時代で最先端な音楽をやっていたと思うけど、自分たちは今の時代の最先端のものを作っている自負がある。
――ちなみに日本のTHE MAD CAPSULE MARKETSってバンド知ってる?
リアム:
残念ながら知らないんだ。イギリスでは不思議なくらいに日本の音楽は手に入りづらいんだ。これだけぼくらの音楽を熱心に聴いてくれている人たちがいるから、日本にはすばらしいバンドがたくさんいるはずで、そういう意味でもチェックしなくちゃいけないバンドが絶対いるはずなんだけど、残念ながらイギリスまで情報が届かないんだ。MADのほかにもいろんなバンドの名前をインタヴューで耳にしたから、イギリスに帰ってから調べるのが大変だよ(笑)。
――THE QEMISTSにはヴォーカリストがいないけどナゼ?
ダン:
ライヴでは必ずヴォーカルがいるんだけど、レコーディングするときは自分たちの頭の中に特定の声のトーンだったり、こんなスタイルのヴォーカリストがいたらいいなといつも考えながらやっているんだ。できる限り、いろんなバリエーションを取り入れていきたいから、様々なヴォーカリストをリストアップして、頼んでいってるんだ。自分たちの曲の世界を広げるためにもゲストは必要不可欠なんだ。これまでいろんなバンドに所属してきたけど、けっこうヴォーカリストってやっかいな生き物だったことが多いんだよね(笑)。その思いは3人に共通しているんで、これから固定のヴォーカリストを迎えるのはなかなか大変かな。
――曲ごとにさまざまなヴォーカリストをフィーチャリングしてるけどヴォーカリストありきで曲を作るの? それとも曲ありきでヴォーカリストを選ぶの?
ダン:
今のところはトラックありきかな。トラックができた早い段階から、もうイメージが湧いてくるので、はっきりしてるんだけど、かと言って、ヴォーカルから生まれる手段も捨てたくはないんだ。今後もおもしろそうなヴォーカリストがいたら、逆にその声をイメージしてトラックを作るというのもアリだろうしね。
――マイク・パットン(FAITH NO MORE / FANTOMAS / MR. BANGLE)が参加しているけど、それはどういう経緯で? おそらく、君らの世代だと彼は憧れのヒーローだと思うけど…。
リアム:
もちろんヒーローだよ。ファントマスをはじめ、彼のプロジェクトはすべて聴いてきたからね。激しい男性ヴォーカルをイメージするトラックができて、真っ先にお願いしたかったのがマイクだったんだ。いきなりサンフランシスコの彼の家に音源を送りつけてしまったんだけど、そしたら「最高のトラックだよ! もうすでに歌ってしまったんだけど問題ないかな」という返事がきたから本当によかったよ。メールとかで音源データをやりとりしながら、彼はいろんなパターンで歌ってくれたんだ。
ダン:
チャンスがあれば絶対にライヴで歌って欲しいけど、マイクはいまフェイス・ノー・モアの再結成で忙しいからね。もしその中で少しでもチャンスがあるようならば、ぜひ実現させたいね。
――今回の来日ライヴではMC ID、ジェナGが参加していたけど、いつもはどのような感じでライヴをやっているの? ヴォーカリスト無しでもライヴはやったりするのかな?
リアム:
まず訂正したいんだけど、レコーディングではMC IDが参加しているんだけど、ツアーはブルーノが来てくれているんだ。彼はレコーディングでは歌っていないんだけど、ツアーは必ず彼とジェナDが一緒なんだ。ふたりなしでは、ぼくらのライヴは成立しないし、バンドにとってキーパーソンだとまちがいなく言えるね。もしふたりがいない場合は3人でDJセットをやることはできるけど、演奏はできないから、彼らは絶対に必要だ。
――ライヴを見てTHE QEMISTSはライヴバンドだと感じたけど、自分たちではライヴはどのように考えている?
リアム:
曲やレコーディングと別とはいえ、ぼくらの頭の中には常にライヴがあるんだ。スタジオにこもっているとすぐにライヴをやりたくなるしね。逆にライヴばっかりだとスタジオに戻りたくもなる。常にそのバランスがあるんだけど、自分たちはまちがいなくライヴ・バンドと言えるね。もっとロックしたいという気持ちがあるからさ。
――やっぱり専属のヴォーカリストが必要だとか思ったりしない?
リアム:
しないね。ふたりがバンドのヴォーカリストであることに変わりはないから。プロデューサー的な観点から考えても、次のアルバムにはもっと多くのヴォーカリストをフィーチャーしてみたいしね。ヴォーカルが必要じゃないのか? と問題になったこともないし、これからもこのスタイルでいくと思うよ。
――今後のライヴ予定は?
ダン:
これから家に帰ったら2週間ほど休みを取るんだけど、そのあとエンター・シカリと一緒にヨーロッパを回るんだ。ベルギーとかドイツ、フランスにね。そのあと5月はイギリスでツアーで、6月はスタジオで作業になりそうで、そのあとにまたサマー・ソニックで日本に行くよ!
――最後に最近のシーンについて。ここ数年、ロックとエレクトリックなダンスミュージックのクロスオーヴァーがまた盛り上がっているよね。JUSTICEのようにエレクトロのほうからロックへアプローチしたり、PendulumやENTER SHIKARIなどのようにバンドからエレクトロニックなサウンドにアプローチしたりと、さまざまな手法でロックとダンスミュージックのクロスオーヴァーがなされ、飽和状態にも思えるけど、このクロスオーヴァーの先にはどんなサウンドが鳴っていると思う? そしてTHE QEMISTSはそこでどのようなサウンドを鳴らしていく?
ダン:
今挙げてくれたバンドはまだまだ若いし、スタイルもまだまだ新しい。だから、より実験的になっていったり、より深く幅広くなっていくと思うよ。ただ、コンセプトを持ったバンドがいろいろ出てきているだけであって、シーンにはなっていない。ギターにベース、ドラムというオールドスクールでトラディショナルなものと、エレクトロニックなものとの融合はまだまだで、これから機材も発展するだろうし、アイデアの泉もまだ枯れていないと思うな。その中でぼくらはどういう方向に進んでいくかはわからない。今、現在、こうやってライヴをやったり、ツアーに出たりすることで、3か月前よりも突き進んでいる実感はあるし、これからもどんどん成長していく過程の中にあるし、サウンドはどんどん変わっていくと思うな。まちがいなく言えるのは自分たちは安っぽい意味での最先端ではなく、常に変わらず斬新なことをやっていく、ということさ。