<伊藤大助 ソロ・インタヴュー>
――今回のレコーディングのためにメンバーが集まり始めたのはいつくらいですか?
伊藤:
去年は、1月に映画の『たゆたう』のトーク・ショーなんかで久々に集まった以外は、3回くらいあったライヴでしか会ってなかったんですよ。そのなかで12月くらいに集まってやろうっていうので。その時にはもう、セルフ・カヴァーにしようかっていうのはありましたね。
――『Re-clammbon』の第2弾を作ろうっていうのは決まってたと。
伊藤:
ほぼそうですね。アレンジが変わっていってる曲が結構たまってきてたなと。あとは、昔にアレンジを変えたものを、「どんなのがあったかね」と思い出して掘り起こしたりとか。すでにある新アレンジのデモを録りながら、あの曲もこの曲もあるね、と選曲したりどんな構成だったかを確認したり、そういう作業を12月半ばから集まってやり始めて、1月末に録り終えたというのが今です。
――そもそも、『Re-clammbon』で、ライヴでやってる新たなアレンジの曲を録音しようっていうことになったいきさつは?
伊藤:
元々、そういうことができたらいいよねという話しはあって、その機会がやってきたんでそれでは、という感じではあったんですよ。で、1枚目を出した時点で、またきっとアレンジの違う曲が増えてくるだろうし、次のタイミングが来たら第2弾をやろうと。そうなるときっと第3弾も作りたくなったりしてね……っていうふうに、“定期的にやろうと思うこと”っていうような捉え方だと思うんですけどね。
――これをやるタイミングが、3人の中であったりするんでしょうか?
伊藤:
どうなんですかね。演奏する場所や時々の気分とかでアレンジを変えた曲を、ツアーとかイベントとかで披露していくなかで「あの曲気持ち良かったなあ、さらに良くなったなあ、これを改めて形に残したい」、そういう作業と新しいものを作るタイミング、どういう順番で進めるかスケジュールの兼ね合いもあるけど、それだけじゃないのかも。
――気持ち的なものとか?
伊藤:
なんとなくですが、ライヴやったりツアー回ったり、オリジナルを制作したりとか、そういう一連の活動の中で、バンドの調子が特にいい時に『Re-clammbon』を作るタイミングがやってきている気がします。ただ、今はまだ作ったばっかりだし、まだ2回目だし、そう決めるにはまだ早いかもしれないですけど。もうちょっと時間が経ってみて、そう思えたらおもしろいなと思います。
――伊藤さんの思う、バンドの調子のいい時っていうのはどういう時なんですか?
伊藤:
例えば去年だったら、いつにも増してメンバーそれぞれの活動をそれぞれにやっていた年だったと思うんですけど、去年のクラムボンのライヴは野音も入れても3?4回くらいしかなかったし、顔合わせる機会も話す機会もほとんどなかったんだけど、いざ集まるといつもの“あのバンドの空気”になってる気がしました。非常に説明しづらいところなんですけど、ラクだとかじゃなくて、“背筋が伸びる良い空気だな”って感じられるというか。ほどよい緊張感もあり、自分個人の課題、課したいハードルの高さとかを確認できる空気。そういうものがあるっていうのはありがたいなというふうに思いますね。(続く)
<原田郁子 ソロ・インタヴュー>
――郁子ちゃんは今回小淵沢に3人集まる直前まで、ソロの活動をしていたの?
原田:
うん。3枚アルバム(『気配と余韻』『ケモノと魔法』『銀河』)を作ってDVD(『ケモノと魔法がとびかうツアー 管と弦とバンド!』)を作って、メキシコに行って、小淵沢に来ました(笑)。
――ハード!(笑)
原田:
ふふ。去年は、"メタモルフォーゼ"と野音2days以外は、ずっとソロ活動をやらせてもらったから。うん、そうですね。こうして口に出してみると、およそ1年でできる量じゃないですよね(笑)。
――ソロ作品は、郁子ちゃん自身も取材で言ってたかなと思うけど、自分の内に潜っていくような、内省的な作品だと思いました。
原田:
うん。そういうことを、ちゃんとやらなきゃいけないだろうな、ということは前から思っていて。“いつも楽しそうな郁子ちゃん”っていうだけだと、“ん?それだけじゃないよな?”という思いもあったし、そうじゃないときの自分っていうのを表に出してやらないと、ミュージシャンとして、説得力ないなー、と思っていて。たくさんの人の中に、また入っていくためにも、1回そういう作業をやんなきゃなって。
――それは自分の幅として、こっちの端っこもある、みたいなことでもある?
原田:
“幅”、というよりは、“底”っていう感じかな。“自分の内側には、一体何があるんだろう?”って、とにかく、潜れるだけ潜ってって、苦しくてもいいから、見てみよう、って。それで、弾き語りから始めていったんだけど、だんだんいろんな人と出会って演奏するようになって、結果的にはやっぱり外に向かっていったんですよね。どんどん深いところへ潜ってみたら、なんだろう、その先に、外に向かう道が続いてた、という感じですね。
――いつもと違う道をたどったけど、やっぱり外に向かっていったっていう。
原田:
うん、“あれは、夢の中のことだったのか?”って思うほどの(笑)、体験だったです。特に、全国を22か所回った、弾き語りツアーと、フォノライトのみんなと廻った、ホールツアーがね、ものすごく大きかったですね。はい。音楽的に、相当鍛えられました。
――いろんな人とやってたけど、クラムボンとはまた全然違うものだったし、こんなに振り幅がある人なんだと思いました。
原田:
振り幅はね、わりとあるんです、昔から(笑)。だけど、バンドにはバンドの特別さがあって。やっぱり、一緒にやる人が違えば、おのずと違ってくるからね。メンバー同士の関わりの中で、スピード感とか、塊感とか、磁場とかが生まれるわけで。「あーやっぱ、バンドだなー」って、改めて思うし。なんて言うのかな、ソロをやることで、“自分”だけじゃなくて“バンド”の幅を広げてるようなところがあるんです、密かに(笑)。だから、ミトくんと大ちゃんからっていうのは、今すぐリアクションをもらわなくても良いんだよね。何年か経ったときに、「あー、あいつは、こんなことやってたんだ」って、思ってくれればうれしいし。そうやって長い目で見た時に、バンドに返せるものがあるはずだって思うから。だから、去年は、臆せずに、やれるところまでやってみよう、と。
――ほかの2人も同じタイミングで、それぞれすごく振り切ったことをやってましたよね。
原田:
ね。どうやったら自分たちらしく活動できるかなって考えたときに、こういう形、ある種、“形のない形“というのを徹底できたら、かっこいいよね。それは、デビューした頃から思ってたことで。何も、クラムボンの中に、すべてを注ぎ込もうとしなくていいんですよ。3人が持ってるものは元々、違うんだから。違う方向を向いたまま、まとめたり、薄めたりしないで、どうやったら、自分たちを最大限に生かせるか。そういうことをずっと考えてきて。去年、1年かけてソロをやりながら、根底にあったのは、やっぱり自分の中にある”わけのわからなさ“とか、”どうしようもなさ“みたいなものを、どこまで薄めずに、パッケージできるかってことで。人に渡っていくと、だんだん整備されてったり、無難になってったりするじゃない?でも、そうなる手前の、完成する前の、”なんとかしなくちゃ“ってもがいてる時に出てくる、動物的な匂い、とか殺気とか、色気のようなもの(笑)?を、作品にできないかなーって。でも、それは、クラムボンでやってきたことでもあるから。やっぱり、ソロをやってても、どっか、バンド活動の一部だっていうような、気はしてるんでね。(続く)
<ミト ソロ・インタヴュー>
――先に他の2人には話を伺ってて、タイミング的に、今回は『Re-clammbon』を作ろうということになったと。で、ミトさんには、プロデューサー的な立場からどういうものにしようと考えてたか伺いたんですけど。
ミト:
去年SOURをプロデュースしてるときに美濃(隆章、toeのメンバー)くんと一緒にやってて、今までにないおもしろさがあったのね。今までは僕がプロデュースやエンジニア的なことをやるときも、他にちゃんと本職のエンジニアの人っていうのが必ずいたんだけど、美濃くんって、ミュージシャンでありつつ、エンジニアもやる。僕も、ミュージシャンもやるしエンジニアもやるっていうことで、彼と一緒にやったら、ミュージシャンがレコーディングで考えることみたいなのがお互いわかってるからなのか、ものすごい作業が早かったんですよ。早かったし、お互いに、「ここがたりないな」っていうところがピンポイントで合ってたりっていうことがあって。そうやって進めていくなかで、ふと、“ミュージシャンだけで最後まで音源作ったことないな”と思ったのね。演奏して、レコーディングして、プロデュースして、ミックスやって、マスタリングまで全部。でもよく考えてみたらウチらだったらできるし、今回はそれをやってみようと思ったんだよね。
――すごいことですよね。普通そんなことってあり得るのかな?
ミト:
わかんないけど、ないんじゃないかな。少なくとも、僕らの周辺とか同じ世代の人たちにはいないと思うわけ。やっぱりみんなどっかのスタジオとかに入って、そのスタジオにはちゃんとミックス・エンジニアとかプロデューサーの人なんかがいてみたいな。で、今回は『Re-clammbon 2』だし、そういう作品でチャレンジするのも、いい意味でリスキーじゃないし、楽しんでできるなと思って。
――聴き手も作り手も、馴染みのある曲を遊ぶ感覚っていうか、新曲とは違う感覚で楽しめますよね。
ミト:
すでに発表してる作品をリアレンジするアルバムだから、言い方悪いけど、どんだけ壊してもいいわけですよね、こっち側は。印象がなんとかっていうことじゃなくて、自分たちの曲を解釈し直すだけの話だから。それと今回は、ミュージシャンのフィルターしか通ってない音源が作れるわけだから、“今それを作ってみたらおもしろいかな?”っていうのがあって、2人に「美濃くんと一緒にやる?」って話したら、それですごく盛り上がって。
――美濃さんにはどういう話をしたんですか?
ミト:
特別なことは言わなかったんだけど、「とにかくマスタリングまで一緒にみんなで作らない?」みたいな話はして。まあ、僕がtoeをプロデュースしてなんだかんだ4年ぐらい経ってるから、その間に関係性も出来上がってるしね。お互い気心も知れてるし、やってることもわかってるから、タイミングさえ合えば、おもしろいのが出来るだろうなと思ってた。で、1月に会ってやり始めたら、ほんとあっという間だったもん。望んでるとおりのものがストレスなく出来上がっていって、ストレスなくどんどんプログラムが進んでいって。とにかく反応が早いんだよね。ベースも、たぶん1回も弾き直したりしてないんだよね。バーンって弾いて「はい終わり。じゃあ次」って。それは、もうお互い見えてるっていうか。(続く)