<TORTOISE インタヴュー>
──新作『BEACONS OF ANCESTORSHIP』は、2004年にリリースされた前作『IT'S ALL AROUND YOU』から約5年ぶりのアルバムとなりますが、新作の完成までに、なぜここまで時間がかかったのでしょうか?
JOHN MCENTIRE:
制作に時間がかかった理由をひとつに絞るのは難しいね。他のプロジェクトもあったし、子供が産まれたメンバーもいたしね。あと、『A LAZARUS TAXON』というボックス・セットをリリースして、WILL OLDHAM(BONNIE "PRINCE" BILLY)とのアルバム『THE BRAVE AND THE BOLD』もリリースした。それに、僕とJOHN HERNDONとDAN BITNEYは『BUMPS』(STONES THROWよりリリース)というブレイクビーツのレコードも制作した。だから、みんなTORTOISE以外のプロジェクトで忙しかったんだ。
JOHN HERNDON:
一時期レコーディングしている最中に、「果たしてアルバムを完成させることができるのか?」と不安になることもあった。アイデアを出しても、なかなか完成させることができなかったんだよ。しばらく試行錯誤して、やっと新作の方向性が見つかったんだ。20年近くTORTOISEをやっているから、同じことを繰り返したくないんだ。実は今年の頭にいちどアルバムをレーベルに提出したんだけど、やっぱりそれでも満足できなくて、多少直しを入れてからまた提出し直したんだ。でも時間がかかった分、素晴らしい作品が出来上がったし、すごく満足してるよ。フラストレーションもあったけど、途中で諦めなくてよかった。
──これまでのTORTOISEのレアな曲を集めたボックス・セット『A LAZARUS TAXON』、そしてWILL OLDHAMとの共作や『BUMPS』の制作は、新作に何らかの形でフィードバックされましたか?
JEFF PARKER:
『A LAZARUS TAXON』をコンパイルすることで、過去の音楽を全部振り返ることができてよかったよ。それに、過去の歴史に扉を閉めることができたような気がした。それで同時に、未来の扉を開くためのきっかけになったね。
DAN BITNEY:
WILL OLDHAMと作業することで、ロック・バンドらしい演奏を恐れなくなったんだ。そこから、新作の「YINXIANGHECHENGQI」みたいなパンク・ロックっぽい曲への世界を開きやすくなったと思う。
JOHN MCENTIRE:
新作の「GIGANTES」という曲のビートは、『BUMPS』から産まれたものだった。そのビートを使って、TORTOISEで新しい曲を作りたいと思ったんだ。だから、『BUMPS』と新作には繋がりがあるんだ。
──新作のサウンドは、前作『IT'S ALL AROUND YOU』に比べて荒削りで、ドラム主体のサウンドが特徴になっていますが、そこにはどのような意図があったのでしょうか? 前作への反動だったのでしょうか?
DOUG MCCOMBS:
前作よりも磨かれていないサウンドにしたいという意図はあったね。間違った演奏をあえて残しておいたり、曲にラフさを残したかったんだ。そうした方が、それぞれの曲のパーソナリティが前面に出ると思ったんだ。前作では、完璧なコンポジションを作ることにやたらと力を入れていたんだ。新作の制作は前作よりも時間はかかったけど、もっとユルくて、荒削りなフィーリングを大事にしたかった。
JOHN MCENTIRE:
気付いたかは分からないけど、このアルバムにはヴァイブス(ヴィブラフォン)とマリンバが入ってないんだ。意識的に、ヴァイブスとマリンバを使用することを避けようと決めたんだ。
──ヴァイブスとマリンバはTORTOISEのサウンドの肝だったと思いますが、過去のサウンドと決別するためにこのような決断をしたのでしょうか?
JOHN MCENTIRE:
そうだね。TORTOISEと言えばヴァイブスという方程式があったから、そこと距離を置きたかったんだ。何年も前から、ヴァイブスを使うのはやめよう、という雰囲気にはなっていたんだよ。でもライヴでは、昔の曲を演奏するために、相変わらずヴァイブスは必要なんだけどね。
DOUG MCCOMBS:
ヴァイブスを使わないという決断は、新しいアプローチを見つけるためのひとつのきっかけになったね。いつも同じ楽器に頼らないようにしたんだ。それらのマレット楽器は、過去のTORTOISEの音楽においてユニークな要素だったのは確かだよ。でも、そこに依存しすぎていることが多かった。
──新作では、ドラムの音色が全面に出ており、ヒップホップ、ダンスホール、ダブステップ、サンバなど幅広いリズムが取り入れられていますよね?
JEFF PARKER:
「NORTHERN SOMETHING」や「GIGANTES」みたいな曲は、ほとんどリズムだけで成り立っているようなものなんだよ。リズムとベースラインが主体で、あまりメロディの要素が入ってないんだ。『BUMPS』を作ったり、メンバーがそれぞれサンプラーでビートメイキングをするようになったから、 TORTOISEのアルバムにビート主体の曲を入れることに抵抗がなくなったのかもしれない。以前だったら、そういう曲を入れようとしても、他のメロディや音をのせたと思うんだ。ビートメイキングを通して、コンポジションに対する視点が変わったんだ。
JOHN HERNDON:
僕らはブラジル音楽も大好きなんだけど、サンバっぽいリズムを僕らなりに叩いているんだ。ダンがダンスホールっぽいビートを入れようと提案して、曲に取り入れることになったんだ。ダブステップは確かに大好きなんだけど、実はTORTOISEのアルバムを完成させてから聴くようになったんだ(笑)。
──TORTOISEはもともと"ポスト・ロック・バンド"として注目されたわけですが、今ではそのカテゴリーを超越していますよね?
DAN BITNEY:
TORTOISEを始めたときは、"ロック・バンド"というイメージに対する反動もあったんだ。ロックの枠に囚われたくないという気持ちがあったんだよ。それでダブやスティーヴ・ライヒのような現代音楽を取り入れようとしたんだ。"ポスト・ロック"という言葉は、僕らのデビュー作のレビューの中で使われて発明された言葉なんだ。僕らはバンドとしてのキャリアが長いから、その言葉とどこかで分離してしまった(笑)。ポスト・ロックはひとつのジャンルになってしまったけど、「僕らのおかげで生まれたジャンルなんだよ」なんてことは絶対に言いたくない(笑)。僕らのことをもうポスト・ロックとは呼べないとは思うよ。例えば新作の「PREPARE YOUR COFFIN」は間違いなくロック・ソングだしね。そういうカテゴリーはあまり気にしてないよ。
──TORTOISEはバンドというより、ひとつのジャンルみたいなものになっていると思いますが、これからも誰も聴いたことのない新しいサウンドを生み出していくと思いますか?
JEFF PARKER:
挑戦してみたいことはまだまだたくさんあるんだ。TORTOISEはまだ、可能性の表面をかすっただけだと思うよ。君が言ったように、TORTOISEはひとつのジャンルみたいなものなんだよ。TORTOISEは最近になって、やっとアイデンティティを見つけたと思うんだ。だから、今はまだTORTOISEがスタートしたばかりのような状態さ。