<FIRST AID KIT 『The Lion's Roar』 Interview>
──おふたりが生まれ育った町はどんな場所なんですか?
クララ:
ストックホルムの郊外で、いまもずっとそこに住んでいるわ。街の中心地から車で10分くらいの場所なんだけど、とても美しい森があるの。都会と自然が調和した住みやすい場所だと思うわ。
──素敵な場所なんですね。
ジョアンナ:
ダイスキデス(日本語で)。
──わ、日本語!
ジョアンナ:
学生時代に日本語の勉強をしていました。
──びっくりしました(笑)。
ジョアンナ:
ありがとうございます。
──わー、発音もとても綺麗ですね。ではでは、質問に戻りますね。そんな美しい町で、あなたたちはどのように音楽に出会い、作曲をはじめていったのですか?
クララ:
ふたりとも小さな頃から歌を歌うのが大好きだったの。今のように作曲をはじめるようになったのは、14歳ころ。今から5年前くらい前ね。私がギターを弾きはじめたのがきっかけだった。私が曲の骨組みを作り、それにジョアンナがハーモニーをつける、という感じで一緒に曲を作るようになっていったの。
──新作の『The Lion's Roar』には、お父様も参加していらっしゃいますが、音楽好きなご一家なのかなと。
クララ:
そうなの(笑)。実は父親は私たちが生まれる前はプロのミュージシャン(ギタリスト)をやっていて、家には自然にギターやレコーディングのための機材があった。だから自分たちが音楽に親しんだり、ミュージシャンになりたいって思うことはとても自然なことだったの。
ジョアンナ:
父親のレコードのコレクションもよく聴いたわ。ヴェルヴェット・アンダーグラウンド、パティ・スミス、デヴィッド・ボウイ、テレヴィジョン……そんな音楽がいつも家でかかっていたわ。もちろん母親も音楽が大好きよ。
──それは最高の情操教育ですね。
クララ&ジョアンナ:
そうね(笑)。
──いまあなたたちの音楽を特徴づけているフォークやカントリーなどの音楽には、どうのようにして出会ったのですか?
クララ:
なによりもブライト・アイズとの出会いが大きかったわ。彼らの音楽を大好きになり、彼らのルーツを掘り下げていく中で、ボブ・ディランやレナード・コーエンを聴くようになり、じょじょにフォーク・ミュージックも聴くようになっていった。で、それを見よう見真似でやってみて、現在に至るという感じよ。
──ブライト・アイズのどこがスペシャルだと感じましたか?
クララ:
当時、自分たちが聴いていた音楽は全然別のものだという感覚があったの。ラジオから流れてくる最新の音楽はどれも作りこまれたものが多かったけれど、ブライト・アイズのサウンドはとてもシンプルなんだけれども、情緒豊かで、驚くほどの表現力があると思った。
ジョアンナ:
変な言い方に聞こえるかもしれないけれど、これから私たちでもできるかもしれないって思わせてくれたの(笑)。有名なプロデューサーを使ったり、豪華なレコーディング・スタジオがなくてたって、ギターと歌さえあればできるのかもって。
クララ:
歌詞もとても印象的だった。飾り気がなくて、正直で、嘘がなくて。これまで聴いていた音楽には感じられなかった感動があったの。彼らの音楽にどんどんひき込まれていったわ。
──新作はそのブライト・アイズの地元のオマハでレコーディングをおこなったんですよね。しかも実際にブライト・アイズのコナー・オバーストとマイク・モーギスとコラボも実現しているという。早くも夢が叶ったって感じですね。
クララ&ジョアンナ:
そう。自分たちにとって本当に大事な存在である彼らから声をかけてもらえるなんて、本当に夢みたいな話だった。
──彼らとのレコーディングはどうでしたか?
クララ:
素晴らしかったわ。実はいままでは父がレコーディングを手伝ってくれていたので、プロデューサーと仕事をするのは今回がはじめてだったの。だから最初は不安もあったけど、結果的にとてもうまくやれたし、音楽的に興味を持っているものが近かったり、とても親しくなれたと思う。彼らがわたしたちの音楽のヴォーカルと歌詞に興味を持ってくれていたこともとても嬉しかったわ。
──それは最高の経験でしたね。ちなみにFIRST AID KITの楽曲の歌詞はふたりで書いているんですよね?
ジョアンナ:
はい。
──あなたたちに関する資料を読んでいて、とても興味深かったのが、歌詞とサウンドの方向性を意図的に別のテイストにするようにしているという点なのですが、これはどういう狙いがあるのですか? 例えば明るいメロディに暗い歌詞といったような。
ジョアンナ:
たしかに、意図的にそうしているわ。そもそもわたしたちの書く歌詞って悲しさをテーマにしたものが多いの(笑)。でも曲を書くことで、その状況を乗り越えたいと思っている。そういう願いを込めながら曲を作るから、曲は逆の方向になることが多いんだと思うわ
クララ:
私も思う。曲を作るということが、私たちにとってはちょっとセラピーみたいなところがあるかもね。あとある種のギャップを持った曲が好きだということもあるかもしれない。聴いた感じはとてもスウィートだけど、歌詞はとてもシリアスなテーマや悲しみを扱っているというような。リスナーとしてもそういう両面がある曲に惹かれるの。あと悲しい歌詞に悲しい曲じゃ、聴いてるほうもきっと滅入ってしまうわよね(笑)。
──悲しみといっても、いろいろな悲しみがありますよね。とてもパーソナルな失恋の悲しみ、誰かに裏切られた悲しみ、あるいは戦争などを思う時の大きな悲しみとか。あなたたちが歌詞で取り上げている悲しみとは主にどのような悲しみですか?
ジョアンナ:
日常で感じる悲しみ、それが多いと思う。またそうした悲しみに対する恐れのようなものもあると思うわ。
──悲しみに対する恐れというのは?
ジョアンナ:
現在の大人の人たちを見ていて、私たちはああいう風に後悔したくないなって思うの。あれもやっておけばよかった、あの時にこうしておけばよかった……とか。大人の人たちはどうしてあんなにも後悔が多いのだろうかって。
クララ:
あと孤独に対する恐れのようなもあるわ。安っぽい言い方かもしれないけれど、私たちの曲を聴いて、そうしたことを思ったり、感じているのは自分だけじゃないと思って、ホッとしてもらえたら嬉しい。そう、魂に張る絆創膏みたいに。FIRST AID KITというユニット名はそういう意味で付けたの。
──へえ、なるほど。いま“孤独”という言葉が出てきましたが、それはパーソナルなものですか? それともいまスウェーデンで暮らして、あなたたちが社会から感じるムードのようなものですか?
クララ:
いま言った孤独に関しては、自分たちのことなの。とくにツアー先でのこと。ツアー中は、せっかく出会った人たちとも、すぐにお別れしなくてはいけない。ツアーから帰ってきて地元に戻ると、他の友人たちはわたしたちとはまったく別のサイクルの生活をしている。友だちと話してもいても、「あの時、あなたたちはいなかったものね」というようなことがよくあって。なんだか自分たちだけ疎外された生活を送っているような気になることがあるの。そのいっぽうで、音楽にすべてを捧げることができているいまの自分たちの環境を与えてもらっていることにも本当に感謝しているし、幸せなことだと思っているの。
──なるほど。アルバムの2曲目に収録されている「Emmylou」のタイトルは、エミル―・ハリス(Emmylou Harris)に由来していると思いますが、この曲で伝えたかったことを教えていただけないでしょうか。
クララ:
この曲ではふたつのことを歌っているの。ひとつは人と人が一緒に歌うということ。これは私たちが大きな影響を受けているエミル―・ハリスとグラム・パーソンズ(Gram Parsons)、あるいはジョニー・キャッシュ(Johnny Cash)とジューン・カーター(June Carter)のように、ただの歌の仲間ではない関係性以上のものを持つふたりが歌うことで生まれる何か、ということがテーマになっているわ。またはじまったばかりの愛の不安定さについても歌っているの。その不安定さを一緒に歌うことで乗り越えていこうというようなメッセージがあるわ。
──では、最後の質問です。これはとても個人的な興味に基づく質問なのですが……。
クララ:
どうぞ。
──現在、おふたりにはお付き合いをしているボーイフレンドはいるのでしょうか?
ジョアンナ:
あははは、そんな質問ははじめてよ(笑)。私はいるわよ。
クララ:
私はいないわ(笑)。
──……おおおお! 本日は誠にありがとうございました!