<BLUE ENCOUNT 『BAND OF DESTINATION』 Interview>
──昨年末のワンマン・ツアーは全カ所ソールドアウトで、東京公演(12月19日・Shibuya TSUTAYA O-WEST)も凄い盛り上がりでした。自己採点すると、何点ですか?
高村:
あの日の打ち上げでいろんな人と会話したときにも、何点か聞かれたんですよ(笑)。僕的には55点です。
──あらっ、低いですね。
高村:
福岡、大阪、名古屋と徐々に上げて、東京だけ少し気負いすぎて、かしこまっちゃって。
田邊:
だからこそ、ウチらしいファイナルだったなと。終わりじゃなく、もっとこうしたいという展望が見えてきたから。
辻村:
現状で100点を取るのは難しいと思うし、そういう面で55点は今の自分たちの全力ですね。
──結構、バンドのことを冷静に見てますね。
田邊:
ウチらみたいなものはって感じです。ライヴの見せ方が確立されたのが1、2年前だったりするので、今はやりがいがありますね。今は明確に一人ひとりがやらなきゃいけないことが見えてるので。
──ライヴでも田邊さんがMCしてるときは、残りのメンバー3人が45度斜め下を見てたり……。
全員:
ははははは。
──雰囲気作りにも長けたバンドだなと。それと「YOU」ではマイクなしでステージ前方に出て、セリフ調に語る場面もすごく熱くて。10-FEETのTAKUMA君か!って思いました。
田邊:
恐れ多いです。ただ、どこまでオフマイクでやれるのか、という気持ちもあるんですよ。自分のエモーションを伝えるにはオフマイクだなと。今のところゼップ東京まではやれました。
──既に確認済みで(笑)。その辺も含めて、ライヴの見せ方も考えてますよね?
田邊:
ただ闇雲にオフマイクにしてもウソ臭いと言いますか……自分の気持ちとその空気が一致したときに、一個武器が使えると思うから。その位置に持っていくまでに、4人でちゃんとやらなきゃいけない。いきなりあんな泥臭いパフォーマンスをしても、引かれるだけですからね。
──確かにライヴ前半だと、胸焼けするかもしれません(笑)。
田邊:
そうです、そうです。以前は最初からやってました。
高村:
MC自体も長かったですからね。
田邊:
とにかく最初はバカで楽しいところを伝えたいし、その中でエモさ極まり、感極まるみたいなことができればいいかなと。今は『BONEDS』ツアーを回ってますけど、エモさが極まらないときは、MCも控えめにしてます。空気を読み間違えて、自分本位で進むと、お客さんも乗らないし。僕らはみんなに知ってもらわなきゃいけない時期なので、普通のバンドよりもがんばらなきゃいけないから。
──そういう意味でO-WEST公演は、観客の熱狂度も追い風になって、感極っても許される空気がありましたね。
田邊:
そうですね。赤点バンドだからこそできることがあるし、未完成だからこそやれることがありますから。あの日も全然弾けてなかったけど、ライヴは現段階の僕らを表すことしかできないので。うわっ、俺今日めちゃめちゃ背負ってる、すごく今日は力が入ってるぞ、というところまで伝えられたらと思ったから。それでO-WESTのMCはいままで以上に熱くなったし、それがあの涙にも投影されてたんじゃないかな。あれは悔し涙もあったし……この1年を総括した上で、もっとこういうことができたんじゃないかと思ったりして。でもいろんな人に助けられた感謝の気持ちとか、いろいろ混ざった涙でした。悔しさを含めて、今の自分たちを出せました。
──バンドのこれまでの歩みとしては、New Audiogramのイヴェントに2回出たことが大きかったそうですね。1回目(12年10月)はavengers in sci-fi、MY FIRST STORYとやりましたね。
田邊:
あのイヴェントからマイファスとも仲良くなったし、それからちょくちょく一緒にやるようになりました。
高村:
あれからライヴの雰囲気も変わりましたからね。
田邊:
そうだね。いままでは手を挙げるぐらいの反応しかなかったから。
江口:
モッシュ、ダイヴなんて考えられなくて。僕らはそういう光景を望んでいたけど、なかなかそうならなくて。
田邊:
僕らも中途半端なところがあったから。もともとavengers in sci-fiはすっごく大好きで、すぐ手が届くところで先輩バンドを目の当たりにして、こんなことじゃダメだなと思いました。それからライヴのやり方、言葉の発し方も考え直しました。
──そして、2回目(13年4月)はthe band apart、Nothing's Carved In Stoneのオープニング・アクトで出演してますよね。
田邊:
オープニングが決まったときは、ウチのギター(江口)はそんなに喜びを表面に出さないんだけど、あれが決まった日に「激アツ」というタイトルのメールが来て(笑)。
江口:
はははは。連絡が来て、すぐにメールしたから。
田邊:
あの日を境目にオープニング・アクト人生の第一歩だった気がします。
辻村:
ああ、そうだね。今考えると。
田邊:
僕ら、あの日があったからサマソニにも出れたし。いままではオープニング・アクトに無力感しかなくて、自分たちのやりたいことを数曲でやらなきゃいけないって決めつけてて。それを考え直して、セットリストは関係ないんだなと。1曲目でも掴めるかもしれないし、大切な場所に呼んでもらえたなら、すごいチャンスじゃないですか。いい勉強になりました。去年はたくさんオープニング・アクトをやらせてもらえたけど、確実に自負できるくらいがっつくことができた。それを教わったのはNew Audiogramのイヴェントがきっかけですね。憧れを憧れのままで終わらせたくない精神を教わりました。
──それこそ、the band apart、Nothing's Carved In Stoneは大先輩と言えるバンドですよね?
田邊:
はい。打ち上げで、生形さんにELLEGARDENがどれだけ好きか、必死に伝えました(笑)。ほんと好きなバンドさんと去年はやらせてもらえて……それぞれの先輩がそれぞれのジャンルでいちブームを築いてて、いろんなことを超越してるなと感じました。やっぱり努力をしてるから、そこにいるんだなと。
──そもそも結成時はどんな音楽をやってたんですか?
田邊:
完全にELLEGARDENですね。
高村:
コピーもELLEGARDENがほとんどでした。
江口:
初ライヴもELLEGARDENとオリジナルをやって。
──ちなみに何をコピーしてました?
田邊:
「No.13」、「ロストワールド」、最後の曲で「ジターバグ」をやると、すげえ盛り上がって。ある日「指輪」をやったときに、女性のお客さんが近づいてきて、「すごく良かったです! あのバラードの曲が特に良くて」って。
江口:
ELLEGARDENの曲です、と言い出せないぐらいのテンションで。
──そんな悔しい思いもして?(笑)
田邊:
悔しかったですね。今思い返せば、恥ずかしいくらい自信がありましたね。
高村:
でもそれがあったから、東京に来れたんだろうなって。
田邊:
うん、向こう見ずで良かった。曲の振れ幅も高校時代から変わってないんですよ。
──へぇー、そうなんですね。
田邊:
いい意味で周りのことを気にせずにやれてるから、それが自分の糧になってるんじゃないかな。バカというか、天然なのかもしれない。上京するときも、俺に付いてこいって感じで。
江口:
その後に「やっぱり行かない」って言いましたけどね。
──はははは。オリジナルはELLEGARDENっぽい曲調だったんですか?
江口:
そんなことないですね。今と変わらない。
田邊:
オリジナルは似てないですね。
──そこが面白いですよね。
田邊:
僕が通ってきたのはSMAPさんだったり、ギターを始めたきっかけは森山直太朗さんですからね。インディーズの頃からCD持ってますから。言ったらアコギ出身なんですよ。歌謡曲ばかり聴いてました。彼(江口)はKICK THE CAN CREWを聴いたり……。
──B-BOYだった?
江口:
エセB-BOYです(笑)。周りが聴いてたものを聴いてました。
田邊:
曲作りも衝動で、最初にライヴでやったオリジナルもがっつりラップが入ってましたからね。
──Dragon Ashみたいな曲調ですか?
田邊:
ノリ的にはそうですね。Dragon Ashの暗めの曲みたいな感じで。オリジナルだけやってたら、ELLEGARDENのコピーをやってたバックボーンは見えないかもしれない。その頃から振り幅は大きかったです。今もそうですけど、ものの感じ方がフラットなんですよね。壁やフィルターを置かず、逆にいえば信じやすいところもあるし、感覚が高校の頃まんまですね。
──今作もパンク、J-POP、ミクスチャー的なニュアンスがあって、見事に多彩な曲調が揃ってますね。
江口:
昔は散らかりすぎて、BLUE ENCOUNTの色が見えなかったと思うんですよ。いろんな人から、「おまえらよくわかんないね」と言われていたので。今はギャップがある曲の中にも、俺らの色がちゃんと出てるから聴けるんじゃないですかね。
田邊:
根底にライヴ=楽曲という気持ちがあるし、今はライヴで武器になる曲を作るという意識がありますからね。その武器は一つじゃないし、もっと武器の種類を増やしたい。どの武器が会心の一撃になるか、わからないですからね。今回はその集大成になったと思います。
──曲作りにおいて、ライヴを意識し始めたのはいつ頃ですか?
田邊:
2年前の夏ぐらいですかね。辞めたいと思った時期もあったから。一つ大きなきっかけは、6月29日のファイナルの日ですね。その日に僕らがやりたかったバンド像ができたんですよ。それまではブレブレで、僕のMC、ステージングも全然違いましたから。ヘンに台本書いてた時期もあるし(笑)、何か履き違えてました。
高村:
あまり深く考えてなかったんだろうね。
田邊:
その日はCDもすげえ売れたんですよ。これで音楽をやめるわけにはいかないと思って。後悔も絶望も全部超えられたんですよね。それで音楽やライヴが尊いものに感じて、それからいろんなことが回り始めました。だから、ほんとにライヴで変われたんですよね。それからライヴが怖くなくなりました。
高村:
やってやるぞ!という気持ちが湧いてきましたね。
──そんな時期もあったんですね。今作を聴いて、改めて楽曲クオリティの高さに驚いたんですよ。曲作りでほかに重要視してることはあります?
田邊:
弱い自分が書く曲なので、何かを変えたい、強くなりたいとか、欲求がすごく曲に出てます。最近わかったけど、その弱さが人の背中を押す曲に繋がるのかなって。あまりネガティヴなことは書けないし、僕の心の拠り所が曲なんですよ。このアルバムを聴くと、自分が高められるんですよ。自分がそうなるなら、聴いてくれた人もそう感じてくれるんじゃないかなって。現段階ではいいアルバムができたと思います。
──昔の曲を再録してみて、気付いたことは?
高村:
過去曲は過去曲なりに難しさがあって。やり慣れてるのはあるけど、ヘンにこなれた感じは出したくなくて。アレンジも変えたくないし、その中でどう表現するのか悩みました。で、過去曲はライヴでやってるようにやるのがいちばんだから、ライヴ感を詰め込もうと思って。新曲はギリギリの中で作ったけど、フレッシュな気持ちを込められたと思う。
辻村:
とりあえず、今の自分たちを表せた一枚ですね。あと、ほかのアーティストのアルバムでは曲を飛ばすことがあるけど、このアルバムは流しっぱなしでも聴ける作品だと思います。
──「HANDS」、「VOICE」という曲名もそうですが、歌詞にも"手"、"声"というキーワードが出てくるのも特徴的だなと。
田邊:
それもライヴが投影された結果ですね。手を挙げろ、声を出せって。その手は何でも変えることができるし、その声が大切だったりする……それもよく考えると、最初の頃の楽曲だったりするから。必然的に体が求めていたのは、こういうことなんだなと。今回新譜で言いたかったことは、それを全部ひっくるめて、ここはあなたの居場所だよって。それを総括してるのが新曲なんですよ。最後は「PLACE」という曲で、その場所は目的地、逃げ場みたいな意味合いがあって。ライヴでみんなが泣いたり、笑ったり、暴れたりする場所がほかでもなく、僕らであればいいなと。いつかそれが普遍的なものになればいいなって。ほんとコンビニぐらいの気軽さでいいから、BLUE ENCOUNTのライヴに行こうと思ってもらえたらいいなと。僕らはそれだけで報われるんですよね。一人ひとりが行きたい場所って、その人が行きやすい場所じゃないですか? それは何でもできる場所だと思うから、そこに僕らがなれたらなって。ライヴでこうしろ、ああしろというのも好きじゃないし、好きなように楽しんでもらいたい。そのスタンスでずっとライヴをやってますからね。だから、全部聴いたらBLUE ENCOUNTのライヴはこうだってわかるCDかもしれない。結果、すごくマジメな作品になりましたね(笑)。逆にこんなにマジメか?と思いました。
──曲調は遊んでますけど、歌詞はメッセージ性が強いですもんね。"あなた"、"君"という表現も歌詞にたくさん出てくるのは、今言ってくれたようなことなんですね。
田邊:
曲を作るときに真っ先に浮かぶのがライヴに来る人だったりするから。それこそ「VOICE」は恥ずかしいくらい、あなたのために歌ってるんだよという曲です。いろんな人に向けて感謝の気持ちを歌えたし、この曲で歌詞に対する視線も変わりましたからね。それから少しずつ、相手のことを思える歌を書けるようになって。
──「答えはいつでも君の声にあった」(「VOICE」)という歌詞も、なかなか言えないですよね。
田邊:
はい、恥ずかしいことを言っちゃえるのがウチらなので。すごく平気で当たり前のことを言いたいんですよ。私的で比喩的な表現を用いるバンドも多いかもしれないけど、僕は当たり前のことを大事にしたくて。ちゃんと「ありがとう」と言うタイミングで、「ありがとう」と言いたいんですよ。そこで言葉をぼやかしたら、人生すごく損する気がするんですよね。ただ、当たり前のことを言うためには、その前後が大事なんですよ。なぜ当たり前のことを言うのか。その理由をきちんと歌詞に込めたい。僕はいままでこうだった、だからこれだけ辛かった。でもあなたがいたからこれだけ変われたんだよ、感謝してますと。だから、これからも自信を持って、恥ずかしいことを書きたいと思います。
──はい、わかりました(笑)。
田邊:
それこそ「YOU」なんて音読したら、自分でも恥ずかしいですからね。でも当たり前のことを書くのは、いちばん大変だと思う。「ありがとう」もいろんな種類があるし、人間が普遍的に使ってる言葉こそ、深いんだなって。当たり前のことをいかに尊く書けるか。そういう意味でも今回は一本の芯ができたと思います。とにかく、ここまで自信のある作品はないです。是非ご賞味ください!