2010.4.7 (wed) @ Shinkiba STUDIO COAST, Tokyo
着飾らなくても、バンドにギター・ヒーローがいなくたってロックできるということをグランジはパンクと同様に示して見せたが、そのグランジの派生形とも言えるLO-FIは、ロックをもっと身近なものにしたと思う。読んで字の如くLO-FIとは音質が悪いという意味合いも持つが、豪華なスタジオでお金をかけてレコーディングしたメインストリームなHI-FIサウンドへのアンチテーゼとして、LO-FIはオルタナティヴ・ロックのひとつとして90年代初頭に認識された。89年にカリフォルニアで結成されたPAVEMENTは、まさにLO-FIの象徴するバンドだった。
混沌として晴れることがなかった90年代を体現していたとも言える彼らだから21世紀を目の前にして解散したのは当時もなんとなく共感できたが、結成20周年にあたる昨年の9月に再結成のニュースが飛び込んできたときはさすがに"なぜ、今?"と思ってしまったが、よくよく考えてみると、ふと気付いたのだ。別に理由なんて必要ないということを。結成20周年であろうと、そうでなかろうと、PAVEMENTが再び帰ってくる。ただ、それだけで良かったのだ。実際、ステージに現れた5人は当時とまったく変わらない雰囲気をかもし出していた。
さすがにルックスに変化はあったものの、90年代を覆っていた、あのモヤモヤとした感じが足元から全身を包み込むかのようにまとわりつき、92、93年頃に立ち帰ったような気分になっていった。クラウド・サーフも両手を天に突き上げるようなアクションも観客からは見られない。それぞれが音に合わせて身体を揺らせている、90年代の来日時に目の当たりにした光景が再現されているようだった。それは3曲目の「SHADY LANE」でも同じ。歓声があがるものの、会場の温度が急に上がるわけではない。独特のゆるいノリが隅々に行き渡るような感じなのだ。これぞPAVEMENTといった雰囲気にどっぷりと浸かっていた。
後半にはデビュー曲で代表曲でもある「SUMMER BABE」も飛び出し、観客側が期待する曲はほぼ演奏してくれたが、決して"グレイテスト・ヒッツ・ショー"にならないのもPAVEMENTらしさかなと思えた。2度にわたるアンコールにも応えて大団円を迎えた後も、瞬間的に湧き起こるような感動ではなく、じわじわと長く続く幸福感に包まれながら会場を後にしたのだった。
Text : Masashi Yuno (New Audiogram)
Photo : Yuki Kuroyanagi