2010.06.19 (sat) @ Shibuya AX, Tokyo
「次はみんなでZEPP(東京)に行くぞ!」という言葉が何の抵抗もなく耳に入り、心の中で深く頷いてしまった。なぜなら、今日のライヴは上り調子にいるバンド特有の覇気に漲り、さらなる飛躍を約束してくれるすさまじいパフォーマンスだったから。
Pay money To my Pain(以下PTP)が6月9日に4曲入りEPと2枚組DVD(その尺はなんと5時間超!)『PICTURES』(タイトルはどちらも『PICTURES』)をリリースし、その東名阪レコ発ワンマン最終日は渋谷AXでおこなわれた。開演前から早くも一部でサークル・モッシュが起き、その光景は後方までビッシリ埋め尽くされた観客の気持ちを代弁しているようだった。緑のレーザー光線が鮮やかに場内を照らす中、メンバーがひとりずつ現れ、最後にK(Vocal)がステージに設置された高台に上がり、両手を広げ、深くお辞儀をする。割れんばかりの歓声を響く中、「Here I'm Singing」のタイトかつシャープなリズムがすさまじい躍動感で観客を牽引し、すかさず怒涛のリフで畳みかける「Against the pill」に移ると、クラウド・サーファー続出で場内は騒乱状態になり、ド頭から完全に引き込まれてしまった。
そして、序盤には映画『メメント』(自分の記憶が10分しか持たない男が、写真を頼りに自分がどんな行動を取ったのかを知るという話)からヒントを得た新作EPのタイトル曲「PICTURES」を披露する。はじめてライヴを想定して作った曲調だけあり、Kのメロディアスな歌声を軸に置いたナチュラル・イズ・ベストのかっこ良さがなにより際立っていた。さらに、会場の隅々まで染み込んでいくT$UYO$HI(Bass)の優しいコーラス・ワークも絶品で、観客の大合唱を誘う。まさにバンドの狙い通り"みんなで歌えるグッド・ソング"として機能し、スペクタキュラーな光景を作り出していた。また、ステージ・バックのスクリーンには英語詞が流れ、興趣を添えていた点も見逃せなかった。
思えば、昨年4年半のアメリカ生活からKが帰国し、"遠距離バンド"から"普通のバンド"へようやく動き出した彼ら。帰国後のライヴではヘヴィ・ロック然としてインパクトの方が個人的には上回っていたし、実際そういう文脈で語られることも多く、もちろんそれは大きな魅力ではある。だが、今日のライヴでもっとも心を揺さぶられたのは、Kの聴く者を鷲掴みにする情感豊かな歌声と、主役を食わず脇役に没しない絶妙なバランス感に秀でた演奏陣の存在感だった。中盤は特にその第二の魅力(メロディアスな側面)が光り輝いていた。いや、やっとヘヴィとメロディアスの二兎を獲得したロック・バンドたる風格を身に付けたと言っていい。
後半戦には、これまで口数の少なかったKがおもむろに長いMCを挟む。要約すると、「俺は人前で心を開けない人間だった。傷口は隠すほど深まるもので……。Stay Real、そのままでいこうと思ったんだ。それが言いたいツアーだった」と告げると、観客から温かい拍手が沸き起こる。その後に聴いた「Another day comes」は実に感動的で、会場全体を煌々と照らす照明の演出もあり、ここにいるすべての人が主役だ! という彼らなりのメッセージにも読み取れた。
それからヘヴィ・チューンの連打で、上り坂を一気に駆け抜けるラスト・スパートっぷりも圧巻だった。アンコールでは金髪モヒカンだったPABLO(Guitar)が坊主頭で現れ、笑いと驚きをもたらす場面もあり、コワモテなイメージを覆すユニークな側面に親近感を抱いた人も多かったことだろう。バンド史上最長の2時間強のショウを終え、メンバー自身も相当な手応えを感じたに違いない。最後の最後にKは冒頭の言葉を力強く吐き、ステージ袖に消えていった。
Text : Ryosuke Arakane
Photo : Daisuke Ishizaka (HATOS inc)
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