2012.6.23 (sat) & 24 (sun) @ Yebisu Garden Hall, Tokyo
ACTs :
Day1 : THE CRIBS / MYSTERY JETS / GAZ COOMBES / CLOUD NOTHINGS / EXLOVERS
Day2 : BLOC PARTY / HOT CHIP / HERE WE GO MAGIC / ARIEL PINK'S HAUNTED GRAFFITI / WILLIS EARL BEAL
2日通し券は早い段階でソールドアウト、2回目にして早くも日本の都市型フェスティヴァルの理想として定着した感のあるHostess Club Weekender、オーディエンスの期待度に比例して、ステージとフロアの一体感も前回以上のヴァイヴを生んでいた。
Day1 : 2012.6.23 (sat)
EXLOVERS
初日のトップに登場したEXLOVERSの段階から、早くもステージ前にかなりのお客さんが集まっていた。ここ数年の新しいシューゲイズの動きはアメリカからの潮流が大きかったけれど、彼らのようなロンドンから直系とも言えるサウンドを鳴らすバンドが登場してきたのは頼もしい。デビュー・アルバム『モス』から「Starlight, Starlight」そして次のシングル・カット曲だと紹介された「Emily」などピーターとローレンの男女ヴォーカルのハーモニーを武器に、どこまでも清涼感溢れる楽曲が並ぶ。とにかく楽曲が粒ぞろいで、イントロが始まるたびに胸が高鳴るなんてニューアクトは久しぶりのように感じた。
CLOUD NOTHINGS
そして、最新作『アタック・オン・メモリー』でリスナーと批評家/メディア双方から高い評価を獲得し、個人的にも一番楽しみしていたCLOUD NOTHINGS。1曲目がアルバムのなかでも最もアッパーな「Stay Useless」で、たちまち会場の熱気も上がる。レイジーなディラン・バルディのヴォーカルを中心にした、凶暴だけれど人懐っこい、例えば90年代では当たり前であったこのような剥き出しのオルタネイティヴな感覚を、ここまで新しく聴かせるというのは、彼らの発明といえるだろう。「Wasted Days」では途中に長いインプロヴィゼーションを挟んだものの、基本的には曲間もタイトに、アルビニ譲りのストイックな4ピースの音のキレが半端なかった。今後多くの日本のバンドが彼らのフォロワーとなるだろう。
GAZ COOMBES
続いて、SUPERGRASS解散後その動向が注目されていたGAZ COOMBES。ブリットポップの代表的バンドのフロントマンとして一世を風靡した彼がソロ作『ヒア・カム・ザ・ボムズ』で、RADIOHEADから連なるエレクトロニックなサウンドのムーヴメントに共鳴した音を生んだ理由が、このステージで明らかになった。アコギ、エレキ、キーボードと楽器を使い分けながら、彼の頭の中を具現化したようなイマジナリーな音世界をバンド編成でほぼ再現。目まぐるしい曲展開を組合せ、SF映画のサウンドトラックを聴いているような、ドラマティックなストーリーを作り上げる。ファンからの声に手を振って応える気さくさも忘れず、そして、やっぱりあの声の魅力は、なにものにも変えがたい。ソロ第一弾ながら、ベテランらしい安定感も兼ね備えた満足度の高いパフォーマンスだった。
MYSTERY JETS
不覚にもMYSTERY JETSが日本でもここまで影響力は高かったとは!テムズ・ビート以降も玄人好みのバンドかと思っていたけれど、ブレイン・ハリソンへのアイドル的な眼差しも含め、オーディエンスの熱狂がすさまじい。もちろん気恥ずかしいほどキラキラと甘酸っぱい「Two Doors Down」などこれまでの人気ナンバーでは全員大合唱だったけれど、オープニングは新作『ラッドランズ』から「So deliver me from sin and give me rock 'n' roll」というリリックが心に迫るアンセム「Someone Purer」で、ビージーズのようなコーラスワークの「The Hale Pop」など、全体的にアメリカン・ロックの影響下にあるアルバム『ラッドランズ』の土臭さを見事に演出していたことを特筆したい。
THE CRIBS
1日目ヘッドライナーのTHE CRIBS登場にあたり、ガーデンホールのステージ後方には巨大なバックドロップが掲げられた。2曲目の「I'm a Realist」からフロア全体がシンガロングなんて光景が見られるなんて。マイクスタンドに回りこみながら歌うライアン、「新しいアルバムから」というMCの後「Glitters Like Gold」や「ファースト・アルバムでどの曲が好き?」と客席にリクエストを振って「Baby Don't Sweat」をプレイしたり、実直にお客さんとコミュニケーションをとろうとする姿が好感が持てる。後半にプレイされた、リー・ラナルドの映像とシンクロした「Be Safe」以外はこれといった演出もなし。ほんとうにただ3人(+サポートギター)の人間力と言うべき、力技でなぎ倒していったライブだった。ラストにはゲイリーがマイクスタンドをなぎ倒し、ロスがフロアにダイブ、ライアンがノイズを放出しながら終了。とにかくクリブスはライブ・パフォーマンスを観なければ始まらない、そのことを再確認させるアクトだった。
Day2 : 2012.6.24 (sun)
WILLIS EARL BEAL
明けて2日目、最初におもむろに現れたのはWILLIS EARL BEAL。オープンリール?から流されるトラックにグラスを手放さず腰をくねらせ、サングラスとレザーのグラブ姿というルックスからしぼりだされるブルースは、まるで聴いたことのないものだった。土臭いブレイクビーツと時折ピアノやオルガンをループさせ、デルタブルースをミックスさせたトラックに野太いシャウトが絡まる。「これは恋人と別れたときに作った歌だ」とMCで語ったり、歌いながらベルトをはずし叩きつけながら歌う姿は、マッチョなダニエル・ジョンストン、と形容したくなるようなストレンジなムードが横溢。自主制作を続けるなかで肥大した自画像をそのまま表現したような異型の美を感じる大器だった。
ARIEL PINK'S HAUNTED GRAFFITI
ストレンジといえば、2010年の『ビフォー・トゥデイ』で、ARIEL PINK'S HAUNTED GRAFFITIの摩訶不思議な世界は完全に市民権を得た。来るニュー・アルバムを目前に行われる今回のパフォーマンス。序盤、ステージ上のモニターに若干苦労しながら、淡々とパフォーマンスが続けられる。エイティーズとサーフ・サウンドが深いディレイのなかで出会ったような雰囲気のなか、楽曲が終わるとSEでオーディエンスの拍手が流れる。そんな演出から、まるで白昼にチープなTVショーを見ているうちに異次元に迷い込んだようななんとも言えない心持ちに朦朧となる。「Bright Lit Blue Skies」といった前作からの曲を交え、昨年の『4AD evening』よりも、さらにそのドラッギーな音を煮詰めたような音をフロントでコントロールするアリエル・ピンクの存在感を強烈だった。
HERE WE GO MAGIC
このところの躍進目覚しいHERE WE GO MAGICは新作『ア・ディファレント・シップ』発表直後ということもあり、アルバムからの楽曲を中心に構成。複数のグルーヴが絡みあい次第に高揚感を生んでいくアンサンブルは、音源での緻密さと比べると、音数が絞られた分、トライバルさがより強調されている。乱暴に言えば、TALKING HEADSのトロピカルさとグルーヴにCOLDPLAYのメロディをRADIOHEADの音像でアレンジしたような印象を持っている。さらにスタジアム・クラスでも遜色ないスケール感、この規模感で彼らを観ることができるのも今回だけかもしれない。ラジオフレンドリーな「How Do I Know」をハイライトに、多幸感が満員の場内を包んだ。
HOT CHIP
この日は本当に間断なく客席が湧き続けていたけれど、HOT CHIPが登場する時の「共有感」はひときわ強いものだった。イーヴンキックが始まった途端の爆発ぶりから、彼らが間違いなく僕らの時代のヒーローであるのだな、と感じた。アレクシス・テイラーを中心にした7人のアンサンブルはダンスミュージックの旨みを知り尽くしていて、なおかつ、ダンスするにはポップ過ぎるくらいキャッチーだ。アレクシス・テイラーは持ち前のしなやかなヴォーカルを駆使しながら、ギターソロなど重要なパートでは必ずアンサンブルで加わってくるあたりに、才人ぶりを実感。後半プレイされた「Ready For The Floor」のみならず、彼らの音楽には、平日働きずくめ、週末のわずかばかりの自由にダンスを謳歌する、市井の人々の夢が重ねられている。この日のライヴ、そしてニュー・アルバム『イン・アワー・ヘッズ』への日本のオーディエンスのすばらしい反応に、メンバーも満足気だったようだ。
BLOC PARTY
大トリ登場前にフロアには「ブロック・パーティー!」コールが起こっている。前半の「マーキュリー」から曲ごとの客席の反応もダイレクトで、ケリー・オケレケが「今までで最もワイルドな日本のオーディエンスだ」とこぼすくらい。自分もまた、2000年代に彼らが送り出した楽曲たちが、想像以上に傷跡というか滋養になっていることを実感した。この夜は9月にリリースが控えている『フォー』からの新曲もプレイ。なかでもお気に入りだという「Team A」は超タイトなリズムと痙攣するようなギターを基調にした、まさにBLOC PARTY節をアップデートしたようなナンバー。再起動を果たした彼らの4年ぶりの日本のステージは、過去の人気曲をまんべんなく配置したセットにより、アルバム完成直後の新機軸を大胆に提示、というよりも、あらためて4人の個性と結びつきを確認させるものだった。アンコール後、4人が並んでお辞儀をする姿には、旧友に思いがけぬ再開を果たしたときの爽やかさにも似た感覚を覚えた。
Text : Kenji Komai
Photo : Kazumichi Kokei