2013.12.8 (sun) @ Shibuya CLUB QUATTRO, Tokyo
tricotの初となるアルバム『T H E』にともなう全国ツアー『女心と秋のツアー』は、この日が12月19日に大阪 2nd Lineで行われる追加公演前のセミファイナル。ギターのキダ モティフォが途中、頸椎椎間板ヘルニアにより出演をキャンセルすることになったものの、そのアクシデントをはねのけるポテンシャルを持っていることを証明した。
この日のセットは、ステージを覆う幕に映るメンバーのシルエットとともに鳴らされた「pool side」をオープニングに、そして本編を「おやすみ」で締めくくるという、アルバムの流れを継承しながらも、「夢見がちな少女、舞い上がる、空へ」「slow line」「爆裂パニエさん」といったこれまでのレパートリーを加え、『T H E』の世界観を拡大させることに成功していた。日常を切り取り、何気ない光景をドラマティックに描写する。ソングライティングのベーシックにその確かな筆致があることが、tricotの音楽がプログレッシヴであるけれど、リアルな理由であるだろう。
イレギュラーな出来事も自分たちのものにしてしまう、彼らの懐の深さと成長ぶりを象徴するのが、中盤に配置されたアコースティック・セットだ。キダがステージに上れない間急遽準備されたヴォーカル/ギターの中嶋イッキュウの弾き語りによる「Laststep」「Swimmer」そしてヒロミ・ヒロヒロがベースからピアノに持ち替え二人で演奏した「タラッタラッタ」は、変拍子を多用した強靭なグルーヴに隠れがちなメロディの美しさ、そして彼らの音楽にある「若さゆえの残酷さ」がより生々しく歌われていたと思う。
アンコールでは、本編でほとんどMCしなかったドラムkomaki♂が存在をアピールする微笑ましい場面を経て、Jun Gray Recordsのコンピレーションに提供した新曲「スーパーサマー」を初披露。これがまた、これまでのtricotのイメージを一新する、ちょっと照れくさいほどストレートで明快なナンバー。もちろん彼らのサウンドの要素のひとつである〈突き抜けた明るさ〉は、日本のポストロックに最も欠けている要素だと感じるけれど、この曲の楽観性は驚くとともに、彼らの無尽蔵なクリエイションを象徴する瞬間だった。続く「MATSURI」では暴力的でカオスなアンサンブルの果てに中嶋がクラウドの前の柵にのぼり歌い、終了。
ソールドアウトでこの公演を迎えた4人は、6月に同じ渋谷CLUB QUATTROで行ったワンマンをソールドできなかったことの悔しさをMCで語った。そして、来年3月の東京は赤坂BLITZ、大阪の梅田AKASOのワンマンライヴの開催を発表。ちょうどこのライヴが行われているとき、BBCで彼らの楽曲が「Japanese math-rock」としてオンエアされたというし、NMEにも掲載され、各国の音楽サイトにも紹介されているtricot。日本のバンドのいわゆるスターダムへの道を着実にのぼりながら、同時にオルタナティヴな存在として世界にリスナーを増やしている彼女たちの魅力をあらためて感じられたライヴだった。
Text : Kenji Komai
Photo : Ohagi
PREMIUM : New Audiogram ver.7.2
LIVE REVIEW : tricot "ワンマンライブ"