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ZAZEN BOYS "MATSURI SESSION独演会～スペシャルゲスト 立川志らく～"

これがZAZEN BOYSのライヴ？ 開演前の会場には指定席のチケットを手にそれぞれの席に座り、そこに置かれている本日の演目に目を通す人たちの姿。ふとその紙を見ると、「本公演はオールシッティング・ライヴとなっております。心の高ぶりを抑えきれずに思わず立ち上がってしまう方もいらっしゃるでしょうが、今日ばかりは座ってお楽しみ下さい」という言葉が目に飛び込んできた。

ステージの上手には、寄席にあるめくりがあって、ザゼンボーイズと筆書きされている。そう、今日は落語家・立川志らくをゲストに迎えての特別な夜なのだ。

ステージに姿を現したZAZEN BOYSは向井秀徳を中心に向き合い、お互いを探るように音を出し始めた。一斉に音を出しては無音にする状態を繰り返していくうちに、いつの間にか音がつながっていき、"マツリセッション"に。なだれこむ音と歌に条件反射で体を動かしたくなる衝動に突き動かされる。いけない、なんせ今日はオール・シッティング。周りを見回すとステージを凝視する真剣は顔ばかり。客席の集中度は高まる一方だ。司令塔・向井のサインに呼応して、粒だった音のひとつひとつが緊張感をもって届いてくる。

「COLD BEAT」から「RIFF MAN」へ。うねるビートを象徴する赤いライトに早くも高揚感をかきたてられ、4人の演奏が聴く者の内側にあるものを躍らせる。胸騒ぎを呼び起こすギターのリフの繰り返し。"本能寺で待ってる"と繰り返されるフレーズとともに、緊張感がぐっと高まっていく。アルバム『ZAZEN BOYS 4』の中でもキーとなる楽曲「Honnnoji」が、よりダイナミックに鮮烈さを伴なう演奏で迫ってくる。

曲や演奏に合わせて、ライティングも自在に変化する。ライトに照らされて会場の壁に映る赤ふちのサングラスをかけた向井の影が踊る。絶対的調和を拒否し、演奏に音にヴィジュアルに違和感を落としていく「Weekend」。観客の汗から発する熱気ではなく、ステージに注がれる視線と、4人から繰り出される音によりまさに会場全体でセッションしている。

「HIMITSU GIRL'S TOP SECRET」「DARUMA」「開戦前夜」、とぎれることのない緊迫感に覆われながら、全身をどっぷり演奏に浸らせる。突然、自分の体がステージ中央にあって、心臓の鼓動を聴いている錯覚に陥る。高らかに響くキーボーのド「The City Dreaming」で、ベースとドラム、ギターに囲まれ、中央で"シティシティシティ、ハッ"とステップを踏む向井の印象的なシーンが目に焼きついていく。「繰り返される諸行無常～」とポエトリーリーディング的な歌がトランス感覚へ誘い始めたころ、バンドの前に白のスクリーンが下ろされ、シルエットが浮かんだ。

舞台下手から黒子2人が赤い毛氈（もうせん）に包まれた高座を運び、ステージ中央に据えた。高座には座布団が置かれている。いつの間にか上手のめくりがめくられ「立川志らく」の名前が。黒の紋付を着た立川志らくの登場に歓声と拍手がわき上がった。

向井が志らくの落語「らくだ」を聴いて、マトモな人間がひとりも出てこないぶっとんだ世界とそれを表現する立川志らくという落語家にやられ、共振し、今回の共演を申し込んだという。志らくは「この状況で落語をやれというのはバツゲームのようなもの」と言いながらも、落語とロックの共通項は異次元にトリップできることで、そしてトリップつながりから渦中のノリピーの話へと危うい線を引いていく。

異様な空気をはらみながら始まった「らくだ」。フグにあたって死んだ長屋の嫌われ者"らくだ"の弔いをめぐる人間模様。数々のキャラクターが乗り移ったかのように演じる志らくにぐっと引き込まれ、あまりにも滑稽な展開に笑いが起こる。悲しさやおかしさ情けなさまで引っくるめた人間の業を、生身のひとりの人間を通して描かれる落語という世界。観客は、どのような人間にもなれてしまう、どんな設定さえも消化できてしまう（してしまう）、立川志らくの懐の深さと鋭さ危うさを肌身に感じたはずだ。

アンコールに出てきたZAZEN BOYSは、なんとメンバーそれぞれが楽器なしの口楽器とあてぶりでの演奏を披露。志らくの落語に対する彼ら流のオマージュなのかどうか、それがなんとも愛嬌あって楽しい演奏だった。

ロックと落語の共演という通常なら同じ土俵では決して相容れないものを、ZAZEN BOYSがオール・シッティングという形で実現させた。そこには今回のゲスト・立川志らくへのリスペクトが感じられるものだった。例えば通常のスタンディング・ライヴであったなら、ライヴ後にとても落語を聴く状況になんてならないだろう。ひたすらライヴを集中して観ることで、演者たちの集中力とスリルを共有でき、全身の感覚が開かれていくことを体感できた。ステージが熱を増すのと同様に、個々の血は踊り、ステージと客席の境界は軽く飛び越えられていた。これが"マツリセッション"だったのだ。

Text : Hiroko Irie
Photo : Shigeo Kikuchi (dynasty)

Set List
01. MATSURI SESSION
02. COLD BEAT
03. RIFF MAN
04. Honnnoji
05. Ｗeekend
06. HIMITSU GIRL'S TOP SECRET
07. DARUMA
08. 開戦前夜
09. Water Front
10. I Don't Wanna Be With You
11. Sabaku
12. The City Dreaming
13. Asobi VS落語　立川志らく

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