2010.2.15 (mon) @ Shibuya O-EAST, Tokyo
昨年末に『For Long Tomorrow』がリリースされて以来、この日が来るのを心待ちにしていた。生演奏を主体としていながら、ライヴでどう演奏されるのかがここまで予想出来ない作品もない。toeの楽曲制作は各々が予め作り込んできたデモを4人の演奏に置き換える工程からスタートする。だからこそこの『For Long Tomorrow』という作品は、ひとつひとつの音はどこまでも生々しい質感を残しながら、ステージ上で再現出来る限界を超えた構成に仕上がっている。この作品をステージでどのように再構築するのだろうか。あるいは彼らのプレイアビリティを考えれば、完全再現もあり得るのかもしれない。そんな期待に胸を高鳴らせながら、O-EASTに向かった。
入場するとすぐにサプライズが待っていた。通常は聴衆がいるはずのフロア中央にステージがセッティングされている。つまり彼らは会場の中で最も視点の低い位置に立って、聴衆から囲まれ、見下ろされる形で演奏が行われるようだ。
ステージはアルバム冒頭の流れに沿ってスタートした。「ここには何もかもがあるし、何もかもがない」のSEが流れる中、4人が登場。すぐさま「ショウシツ点よ笛」になだれ込む。『For Long Tomorrow』からの楽曲を中心とした、新旧を織り交ぜた選曲。やはりtoeの音楽は、体感してこそ、その真価を発揮する。作品を聴く限りでも彼らの演奏は十分に滑らかできめ細やかだが、いざそれが目の前で鳴らされると、さらに速度が上がり、強度を増し、精度がクリアになって聴き手の身体を直撃してくる。「Say It Ain't So」ではDry River Stringの干川弦が参加。楽曲によってはサポート・メンバーが加わり、作品の再現性をグッと増していくのだが、フロアに生まれるうねりの中心にいるのはやはりtoeの4人だ。
曲間では各々が酒を呷り、山嵜ののほほんとしたMCでは笑いも起こる。しかし一旦演奏が始まるともはや別人。「ラストナイト」や「Our Next Movement」といったアフロ・ビートを下地にした楽曲も、全員が感極まったかのように大きく身体を動かしているのに、ポリリズムが一切乱れない。やっぱりこのバンドは、4人それぞれが演奏家としてずば抜けている。
会場が最も沸いたのは、アンコールで「グッドバイ」が披露された時だろう。ネオ・ソウルの洗礼を受けた彼らが、土岐麻子という歌い手の資質を最大限に引き出すことで、ついに手に入れたスタンダード・ナンバー。ハイライトを挙げれば切りがないが、この曲が演奏された時、この日のステージが誰にとっても忘れ難いものになったと言っていいと思う。
実際に目の当たりにするまでまったく予想がつかなかった『For Long Tomorrow』の楽曲は、結果としてほぼ完全再現と言っていい形で演奏された。作品の世界感を余すことなく伝える、破格のパフォーマンスにひたすら酔いしれた。約2時間に渡る熱演を見終えて家路に着いた後も、しばらく夢見心地な気分が続いた。
Text : Yuya Watanabe
Photo : Ryo Nakajima (SyncThings)
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