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LIVE REVIEW

BRAHMAN "TOUR 相克 FINAL 『超克』 the OCTAGON"

2013.6.8 (sat) @ MAKUHARI MESSE, Chiba

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リングだ……。ホールに足を踏み入れた瞬間、誰もがそう思ったはずだ。『超克』のジャケとまったく同じ八角形の舞台。ただしそれは真上から俯瞰しないと確認できないことで、遠目には、舞台の真上、360度を向いたスピーカーや照明機材を支える四本の鉄骨柱が中央にものものしくそびえているだけ。ロープがないのが不思議なくらいである。

赤コーナーはどっち? まさかのプロレス入場もアリか、と冗談のひとつも言いたくなる開演前。事実、ブラフマンのライヴは限りなく格闘技に近いものだ。対バンがいれば負けたくないという気持ちは当然あるし、エアジャム・ブームの頃なら急激に増えたファンVS流行りと思われたくないバンドというわかりやすい構図があった。だが今は違う。TOSHI-LOWが開口一番に宣言した。「己対自分。勝つのはどっちだ。超克するのは、俺たち。ブラフマン始めます!」と。

本人も言っていたが、センターステージというのは当然華やかなだけではない。ステージ袖で見守るスタッフチームもいなければ、見られたくない表情を隠す場所もない。全方位、一万数千人の視線に囲まれるというのは普通に考えても耐え難いプレッシャー。一曲目こそ演奏が硬かったのは当然だったと思うが、ノンストップで曲が連打されて、すぐにいつものブラフマンのライヴになっていく。すなわち、短いけれどギュッと凝縮された密度の濃い展開、クリックでは絶対に計れない絶妙のタメや一瞬のストップ・アンド・ゴー、柔らかなメロディと雄々しいスクリームが交錯する歌によって、猛烈な「気」が渦を巻きながら巨大化していく感覚。もはや単なる音楽鑑賞ではなく、「いつも」とはいえ絶対に「普通」ではない、ずっとクライマックスの渦中にいるような精神の昂ぶりが、バカでかい幕張メッセのド真ん中にあった。

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初の挑戦にもかかわらず、舞台設営に何の不備もなかったことは特筆しておきたい。爆音だがしっかりクリアというSPCの音質は全方位まったく同じだったし、当初から懸念されていた「ずっと後ろ姿を見るのは面白いのか?」という話は完全な杞憂。むしろ、RONZIのプレイを初めて横から見ることで、彼のタムやスネアがいかに強烈な一振りによって鳴らされるのかを確認できたし、前も後ろもない状態で暴れまわるMAKOTOのパフォーマンスは、360度だからこそ普段以上のダイナミズムで伝わってきたのだ。

そしてまた、「暴れまわる男ども=マッチョな体育会系」というイメージの強いブラフマンが、後ろ姿だけを見ると非常に静的というか、所謂いかつさとは全然違う背中を見せていたことが驚きだった。KOHKIやMAKOTOは筋肉どころかなんの贅肉もない痩身でスッと立っているだけ。ただ楽器ひとつ、自分の身ひとつでここに立ち続けてきたのだと、強くわからせる姿だ。実際に筋肉質なのはTOSHI-LOWだろうが、その背中はとても優しかった。震災以降いろいろなものを背負い、自ら矢面に立ちながら批判も全部を受け止めてきた彼の、静かな包容力、というべきもの。このライヴ前の取材で彼は「俺だったら後ろから見たい。喜びは顔に出るけど悲しみは背中に出てくるものだから」と語ってくれたが、なるほど、背面の語るものがこれほど豊かなことを初めて知った。そしてブラフマンのそれが、悲しみというよりも優しさや静けさに近いものだということも。

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中盤の「空谷の跫音」「鼎の問」「俤」などは、バンドの静的な表情がことさら印象的な楽曲だ。ツアー後半でTOSHI-LOWは喉を痛め、ずっと声がガラガラだというのはラスト前のMCで明かされた話で、その話し声は明らかに本調子ではない。ただ、ミドルナンバーの繊細なメロディを丁寧に歌い上げていく姿に、調子の悪さは微塵も感じられなかった。東北で直に触れてきた悲しみに寄り添うように、また、集まったファンひとりひとりの想いにそっと手を差し伸べるように、一語一句をメロディに乗せていく。その歌が心に響く。確かに伝わる。広い会場の隅々にまで広がっていくのがわかる。

基本的に激しいバンドだし、前述したように凄まじい「気」がステージ上で渦を巻くのがブラフマンのライヴだ。我を忘れてその嵐に巻き込まれていくのがベストの楽しみ方だと思っているが、こういう曲に関しては別。純粋に、音楽がいい。アルバムが出るたび、狭いライヴハウスの熱量によって新曲たちがパワーアップしていく姿はずっと見てきたが、こんなふうに広い会場で、しみじみと歌の内容が染み込んでいくという経験は過去にもあまり記憶がない。おそらく『超克』は、単に「孤高のバンドの全身全霊のパフォーマンス」で簡潔するアルバムではないのだろう。激しい肉体と、美しい旋律と、見聞きしてきた実感をもって、悲しみを乗り越えて喜びを掴む生の実感、もっというなら不特定多数を巻き込んでいく祝祭のようなニュアンスを初めて鳴らしたアルバムなのだと思う。

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圧巻だったのは後半。どこから持ち込まれたのか、ブラフマンの名前を掲げた大漁旗が二枚、AブロックとBブロックを分ける八角形の通路をぐるぐると回り出した。その光景になんの違和感もない、どころか、もっとイケ、やれやれとばかりに笑顔のダイバーが続々と湧いてくる。そこに流れる「SEE OFF」や「GOIN’ DOWN」の爆音は、誤解を恐れずにいえば壮大な祭り囃子のよう。もともとメジャーコードの曲はそんなにないが、鬱々とダークサイドを掘り下げるバンドでもないのだ。生と死を見つめながら、音楽を鳴らすことで己を鼓舞するブラフマン。鼓舞とは、なんといい言葉だろうと痛感する。高らかに鼓を打ち全力で舞いながら、雄々しいコーラスで「踊れ!」と叫んだ「虚空ヲ掴ム」。震災以降云々は関係なく、これがまさに今のブラフマン。その強さと逞しさと包容力を象徴する一曲である。

長いMCで語られたのは、この幕張公演の直前に機材車が事故に遭ったという事実だ。さいわい軽傷で済んだけれど、メンバーを乗せたヴァンが横転し火花を散らしながら数十メートルも高速道路を滑っていった光景を見て、あぁ、死んだ、と目をつぶるスタッフがいた。それくらいの大事故だったそうだ。何事も順風満帆にはいかず、大舞台の直前に何か危機に見舞われるというのは、いかにもブラフマンらしい、少々ドラマティックすぎる話かもしれない。

だが、もはや苦しみ悶える姿を晒して涙を誘うバンドではない。しみったれた浪花節は踵で踏み潰す。その足で何があっても立ち続けてきた。「100回負けても101回立ち上がるのが、俺たち。ブラフマン始めます!」と、まるでこれがスタートのようなMCとともにラストの「THE ONLY WAY」は始まった。

Text : Eriko Ishii
Photo : Tsukasa Miyoshi (Showcase Management)


Set List
01. 初期衝動
02. 賽の河原
03. 今際の際
04. SPECULATION
05. JESUS WAS A CROSS MAKER
06. 遠国
07. THE VOID
08. BEYOND THE MOUNTAIN
09. DEEP
10. GREAT HELP
11. BASIS
12. SHADOW PLAY
13. 空谷の跫音
14. 鼎の問
15. ARRIVAL TIME
16. 俤
17. 露命
18. SEE OFF
19. GOIN' DOWN
20. 最終章
21. ANSWER FOR...
22. 警醒
23. PLACEBO
24. 霹靂
25. 虚空ヲ掴ム
26. THE ONLY WAY


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*このライヴの日の数日前に事故を起こした機材車




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